若手研究が世界を変える!

【知覚情報処理】

コンピュータビジョン

コンピュータは植物の構造が理解できるか

コンピュータビジョンで作る未来の栽培技術

大倉史生先生

 

大阪大学

工学部 電子情報工学科 情報システム工学コース(情報科学研究科 マルチメディア工学専攻)

 

 出会いの一冊

すべてがFになる

森博嗣(講談社文庫)

私が情報科学の中で、特に画像や人工現実感を扱う分野を志すきっかけの一つとなったミステリー小説です。

 

本作から始まるシリーズの主人公は、大学教員と天才学生のコンビ(著者も当時某大学の教員)であり、かなり脚色されてはいますが、理系研究室の雰囲気が興味深い形で描かれています。特に本作は、情報系の人間にとって非常に馴染みの深い題材を扱っています。

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 世界を変える研究はこれ!

コンピュータビジョンで作る未来の栽培技術

植物の形を認識しづらいのが難題

植物の日々の成長をくまなく把握し、適切に管理することは、作物の生産において重要です。最近は、農業の人手不足に伴い、作物の写真や動画をコンピュータで解析することで栽培を補助する技術が注目されています。

 

写真や動画に含まれる物の形や性質をコンピュータに理解させる技術はコンピュータビジョンと呼ばれ、人工知能技術の主要な応用の一つとして活発に研究が進んでいます。

 

その中でも、写真から植物の形や構造を知ることは非常に挑戦的な課題です。植物の姿を想像してみてください。枝は細くて葉に隠れ、葉はほとんど同じ色と模様をしています。その中から、枝がどこを通っていて、一枚一枚の葉がどこにあるか、コンピュータが理解することはできるでしょうか。

 

将来は植物の成長を自動管理、自動剪定

 

私は、三次元復元や深層学習と呼ばれる技術のほか、数学や生物や物理の知識を駆使し、この難しい課題に取り組んでいます。

 

将来的には、ドローンやロボットによる撮影により、植物の成長過程を枝葉レベルで日々管理し、自動で剪定したり、将来の生育を予測したりする未来の栽培技術の実現に大きく寄与するはずです。

 

研究の醍醐味は、一見してできるかどうかもわからない、この世界にまだ答えのないことを解き明かしたり、実現したりすることにあると思います。

 

さらには、その研究が人類の未来を大きく変えるような、例えば食糧生産の形を変革するようなものであると、私はより一層、やりがいを感じるのです。

 

日本科学未来館(東京・お台場)での展示準備。多くの方々に研究を知ってもらうのも、研究者の仕事の一つです。

 

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

持続的な食糧生産は、人類の最も重要な課題の一つです。ここで紹介した研究は、農業従事者が減少する一方、食糧需要が高まり続ける現代において、栽培の効率化や自動化の一助となります。

 

また、これまで人類が経験したことのない気候変動と人口増加が続く中、持続的な食糧生産を続けるためには、作物品種を作り出し、「良い品種」を選ぶ育種(品種改良)をいち早く行う技術が必要です。育種を行うためには、良い品種であることを効果的に評価する必要があります。画像から植物の形を推測する技術は、品種の良し悪しを評価する重要な尺度になります。

 


 きっかけ&学生時代

◆テーマとこう出会った

 

ワインが好きで、おいしいワインを飲みたいと思っています。ワイン用ぶどうは、非常に栽培管理に手間がかかることが知られています。ぶどうを植える土地や気候(テロワール)とともに、栽培管理の方法によってワインの味と価格には雲泥の差が出ます。

 

この研究の着想にあたり、非常に大きな影響を受けたのが、ワイン好きが集まるあるイベントへの参加でした。ぶどう農園の見学時、現地の農園スタッフの剪定方法に対し、経験豊富な栽培者から「ここは、この枝ではなく別の枝を剪定すべきだった」などの意見があり、栽培管理の難しさを実感しました。それ以来、コンピュータビジョンによって栽培管理を補助できないか、と考え続けています。

 

◆大学時代

 

1年生くらいまでは勉強が嫌いで、不真面目な学生でした。2年生の最初の講義で、ふと「講義室の前のほうに座っている奴らは何を考えているのか」と気になって、一番前の席に座り、講義を一言一句聞き逃さないよう真面目に受講してみました。そうすると、いつも退屈だった講義にも、よく聞いてみると実は面白いことがたくさんあると気づきました。それ以来、私も「講義室の前のほうに座っている奴ら」になりました。

 

◆出身高校は?

 

立命館高校 

 

 先生の分野を学ぶには

「知覚情報処理」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

13.IT・AI」の「48.人工知能・機械学習、画像(CG等)、インターフェース系」

 


 注目の研究室や研究の大学へ行こう!

松下康之

大阪大学 工学部 電子情報工学科 情報システム工学コース/情報科学研究科 マルチメディア工学専攻

コンピュータビジョン全般、特に物体に光を当てて形を推定するフォトメトリックステレオに関する技術などを研究しています。まごうことなき世界レベルの研究者です。

松下研究室HP


落合陽一

筑波大学 情報学群 情報メディア創生学類(図書館情報メディア研究科 図書館情報メディア専攻)

コンピュータグラフィックスのほか、人間とコンピュータの境界領域を研究しています。同世代のスターは、いつのまにかテレビスターにもなっていました。専門分野も隣同士で、学生の頃から意識しています。

落合グループHP


戸田陽介

名古屋大学 理学部 生命理学科/理学研究科 生命理学専攻/トランスフォーマティブ生命分子研究所

人工知能関連の技術を使った植物の画像解析をしています。元々は植物科学者ですが、情報系の技術を独学で習得して研究に活かしています。将来、とても有名になると思います。

植物生理学グループ(戸田先生所属)HP

 


 大倉先生の研究・研究室を見てみよう

国際会議での講演風景。学会や論文での研究発表が、多くの技術や研究に脈々と受け継がれ、世界を少しずつ変えていきます。

 

 先生の学部・学科で学ぼう

コンピュータビジョンは、いま情報科学分野においても最も活発な分野の一つです。大阪大学にも、コンピュータビジョン関連の研究室は複数あり、そのどれもが国内有数の研究室です。大阪大学には、情報科学を扱う学科・専攻が複数ありますが、どの学科からも、コンピュータビジョン関連の研究室に進むことができます。

 

 先生へ一問一答!

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

情報科学。ですが、数学はもっとしっかりやるべきでした。

 


Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

フランス南部。気候が良く、海も山もきれいです。食べ物がおいしく、ワインが安くておいしいです。天国。

 


Q3.大学時代の部活・サークルは?

アコースティックギターサークル 

 


Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

道頓堀から歩いてすぐのところにある、大阪ミナミのお好み焼き屋。

 


Q5.研究以外で楽しいことは?

庭の手入れや植物の世話。バラがきれいに咲くようになりました。