Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?
(やっぱり)国際法。もともとは学部で国際法を学んでいました。卒業後、大学院で国際政治学に移ったのですが、今度は大学院まで進んでみたいです。
【哲学・倫理学】
グローバル倫理
人はなぜ人を救うのか。グローバルな難民問題を「じぶんごと」として考える
池田丈佑先生
富山大学
人間発達科学部 人間環境システム学科(人間発達科学研究科 発達環境専攻)
貧困の倫理学
馬渕浩二(平凡社新書)
人は、苦しむ人を見殺しにできるのか。なぜ苦しむ人を救わなければならないのか。これらを、世界に広がる「貧困」問題から考えようとする一冊です。本では、7人の学者が7通りの視点から、答えを出します。ここに並ぶ7通りの考えは、少し古くなりつつありますが、なおも世界基準として通用可能なものばかりです。
ですが私が皆さんに最も読んでもらいたいのは7章です。「倫理は本当に倫理的なのか」、倫理の倫理性を問おうとしているからです。仮に、「正しさ」の奥底に正しくない動機が潜んでいたとき、それは本当に「正しい」ものなのか、倫理と呼んでよいのか。私は昔、この7章で「援助は権力だ」と言ったジェニー・エドキンス先生のクラスで学んだことがありました。そして、「倫理をあきらめないけれども、倫理を過信しない」という見方を身につけたように思います。
人はなぜ人を救うのか。グローバルな難民問題を「じぶんごと」として考える
エチオピアの子どもの目線に恐怖
私はこれまで、「人はなぜ、時に見ず知らずの人を救うのか」という問いを考えてきました。きっかけは小学生の頃まで遡ります。私は二度「恐怖」を覚えたことがありました。『ベトナムのダーちゃん』という本を手に取った時と、テレビでエチオピアの大干ばつの様子を見た時です。
ダーちゃんやエチオピアの子どもたちが向けてくる顔が、視線が、私を捉えて放しませんでした。子どもたちはとても「弱い」立場のはずなのに、なぜ私は「恐怖」を覚えるのか。当時は何もわかりませんでした。
国際関係論と倫理学の「グローバル倫理」
その後、私は「じゃあどうすればよいか」を考えるようになりました。大学院に進んでからは「なぜ人は人を救うのか」という問いにぶつかりました。そしてこの頃に、国際関係論と倫理学の知を重ねて考える「グローバル倫理」という領域を知ります。私は「これだ」と思いました。
現在、地球上には7000万を超える難民・避難民がいます。苦しむ人たちを前に、私たちはどう行動すれば良いか。これは大問題だと思います。ただ残念ながら、グローバル倫理は、それだけで人を救うことも、世界を変えることも、たぶんできません。現実の前に非力なくせに、頼みもしないのにやってきて一方的に「正しさ」を振り回すことだってあるからです。
ですが、世界の問題を「じぶんごと」と捉える上で、グローバル倫理はなおも大事な価値を教えてくれるのではないか。今はそう考えながら、研究をしています。
ゼミでは大学を飛び出して、フィールドワークも行う。写真は、インド・ハリヤーナ州にある村での調査
「グローバル倫理」は、その気になればSDGsのすべてに関わります。ですが、私の研究に最も近いものを挙げるなら、それは「平和で包摂的な社会」の実現となるでしょう。難民や避難民の多くは、逃げた先で、以前から住んでいた人たちとともに暮らすことになります。そして多くの場合、以前から住む人たちは難民たちを「異質」だと考え、時に排除します。
もし日本に、どこかから難民や避難民がやってきたら、そしてその人たちがあなたの近所に住むことになったら、あなたはその人たちを受け入れられますか。グローバル倫理は、答えとまではゆきませんが、向き合うための心構えが何なのか、考えさせてくれると思います。
神島裕子
立命館大学 総合心理学部 総合心理学科/人間科学研究科 人間科学専攻 心理学領域
グローバルな正義をめぐる理論的研究を進められています。特にマーサ・ヌスバウムによる「潜在能力」論に注目された研究が著名です。グローバルな正義をめぐる理論的研究を進められています。この領域では、今の日本の「トップランナー」の一人だと私は思います。ヌスバウムの「潜在能力」論は、教育の分野でも大きな影響を与えつつあり、私の授業やゼミでも学びの柱の一つになっています。
墓田桂
成蹊大学文学部 国際文化学科
難民・強制移動(自分の住んでいる場所から移動を強いられること)研究を進められています。国内外における豊富なご経験と、国際法・国際政治の双方をカバーする豊かな知識は、常に私にとっての「お手本」です。とりわけ、国際法・国際政治からみた国内避難民研究に関しては間違いなく日本の「トップランナー」です。世界的に人が動く今日、「強制移動」を知りたいなら、墓田先生のご研究でしょう。
清水耕介
龍谷大学 国際学部 グローバルスタディーズ学科/国際学研究科 グローバルスタディーズ専攻
国際関係に関する理論的検討を中心に研究されています。また、近代日本思想で著名な「京都学派」の哲学と国際関係論とを接続させるという、少し「トガった」研究もしています。国際関係理論研究においては、日本でも数少ない「世界で戦える」先生だと思います。21世紀に入って変貌を止めない世界をどう捕まえるのか。これまでの見方にこだわらず、ダイナミックかつ、社会的に排除されがちな者に寄り添おうとする議論は、これからの世界の見方を再考する上で必要になる視点だと私は考えます。
◆ゼミでの勉強は
国際関係論の知識を土台に、各人がグローカルな事象をとりあげ、リサーチします。その成果を報告し、皆で討論するのが、基本のスタイルです。これとは別に、貧困や教育格差に焦点を絞って、インドや韓国、沖縄に飛んで、現地の大学で合同授業をし、研究成果を報告し(海外の場合には英語でします)、現地調査をすることも、毎年行っています。
◆主な業種
(1) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等
(2) 小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等
◆主な職種
(1) 中学校・高校教員など
(2) システムエンジニア
◆学んだことはどう生きる?
大学院を経由して教員となった(を目指している)人が何人かいます。グローバル倫理で扱われる事例(貧困、教育格差、紛争後復興等)を深く調べ、成果を最終的に学校の教室へつなげようとしている点が共通しています。ゼミでは、自ら課題を見出し、解決の方法を考え、現地調査を伴って実証を試みました。その経験やスキルが、教科書や資料だけで進める授業とは異なる、「肌感覚」を伴った社会科授業に結実するのではないかと期待しています。
教員養成系の学生は将来先生となり、未来の子どもたちに世界や社会の姿を知ってもらう仕事に就きます。ですから学部での学びは、人が人を教え育てることの意味とその方法(「教職科目」)、その過程のなかで伝えるべき内容(「教科科目」)に重点を置いています。加えて、そうした「学ぶこと」「育つこと」を、学校や教室にとどめず、社会に深く根付かせようとしている姿勢も、学部の特徴だと考えています。
戦火のなかのこどもたち
岩崎ちひろ(岩崎書店)
今日、日本人の多くは戦争を経験していません。だからこそ、戦争が何を意味するものなのか「想像」することが欠かせないと、私は思います。岩崎ちひろさんが多く書かれた絵本の中で、この本は、破壊を象徴する黒や赤がとりわけ目立ちます。その中で生き、生きられなかった子どもたちの顔と、視線を、一度見てみて下さい。生を否定することが何を意味するのか、想像するための一冊です。
わたしが「正義」について語るなら
やなせたかし(ポプラ新書)
そもそも、「正義」とは一体何でしょうか。やなせたかしさんのこの本は、毎年、私の授業でも読書リストに挙げている一冊です。私たちがよく知っている「アンパンマン」は、悪いヤツをやっつける「正義」とは、少し違う「正義」から成り立っています。
その意味を知ったとき、「正しくある」ってどういうことなのか、わからなくなるかもしれません。ですがそこから先、改めて「正しさ」とは何かを考えることが、多分大事なのではないかと私は思っています。
私の仕事 国連難民高等弁務官の10年と平和の構築
緒方貞子(朝日文庫)
誤解を恐れずに言えば、緒方貞子さんは「掟破り」をした方です。1990年代初頭、溢れる国内避難民を前に、「難民保護機関」であった国連難民高等弁務官事務所の限界を打ち破る判断を、自ら下されました。その判断をめぐっては賛否が出ましたが、今でも、国連人道機関最高のトップの一人であったと考えられています。
この本には、今から約30年前、緒方さんが難民高等弁務官だった頃、何を見聞きし、考え、判断されたのか、その「仕事」が書かれています。私が繰り返し読んだ一冊でもあります。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?
(やっぱり)国際法。もともとは学部で国際法を学んでいました。卒業後、大学院で国際政治学に移ったのですが、今度は大学院まで進んでみたいです。
Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
オランダ。10年ほど前、一度住んだことがありました。その時、モノ以上に、人の心に余裕のある国だと強く思いました。
Q3.一番聴いている音楽アーティストは?
Cymbals。もう20年も前のバンドで、解散してしまったのですが、飽きません。京都のFM局で番組を持っていて、私も毎週聞いていました。その中でも『Wingspan』がお気に入りです。飛行機に乗りたくなる一曲です。他にも、『Higher than the Sun』という曲もおすすめです。
Q4.感動した映画は?印象に残っている映画は?
『ベルリン・天使の詩』。とにかく映像が美しくて、魅入ります。私の映画観を大きく変えた作品といっても良いと思います。