【ヨーロッパ文学】

アフリカ系文学

1930年代のパリで、アフリカ系文学はどう生まれたか

中村隆之先生

 

早稲田大学

法学部 

 

 出会いの一冊

ダヴィッド・ジョップ詩集

ダヴィッド・ジョップ、訳:中村隆之(夜光社民衆詩叢書)

アフリカの詩人の詩集。1927年に生まれた西アフリカ出身のこの詩人は、生涯でただ一冊の詩集『杵つき』をフランス語で残して、1960年にこの世を去りました。植民地主義がアフリカに残した深い傷跡とともに、新しく生まれる希望のアフリカを主題にしています。

 

詩というと難しいイメージを持たれる人もいるかもしれませんが、やさしい言葉で書かれています。歌のように素朴で、一度聞いたら忘れがたいその詩の世界に触れてみてください。

 

 


 こんな研究で世界を変えよう!

1930年代のパリで、アフリカ系文学はどう生まれたか

フランス語で書かれたアフリカ系文学

大づかみにいうと、私の研究はアフリカ系文学・思想の研究で、特にフランス語で書かれた文学・思想を専門にしています。「アフリカ系」の「系」には、アフリカ人だけではなく、自分たちのルーツがアフリカにあることを自覚する、象徴的には奴隷貿易によってアメリカ両大陸に連行された人々の子孫を含みます。

 

フランス語を話す黒人と英語を話す黒人がパリで出会う

 

そうしたアフリカ系の文学や思想がフランス語で書かれるようになるのは、20世紀前半、その舞台はパリでした。その頃のパリは、シュルレアリスム運動などの前衛芸術運動が華やぐ時期ですが、その一方で、植民地でフランス式教育を受けた学生たちが、フランス本国の大学に留学するようになる時期です。

 

そこで、アフリカから来た学生が、同じ黒い肌をしたカリブ海出身の学生と出会い、しかも、英語を話すアメリカ合衆国出身の黒人作家が同時期にパリに訪れます。

 

大西洋を取り巻く文学として、グローバルに考える

 

こうした様々な出会いから生まれるのがフランス語によるアフリカ系文学ですが、私はこの出会いをもたらした1930年代のパリに注目し、「環大西洋文学」という展望で、この出会いを生き生きと捉え直したいと思っています。

 

大西洋という海を越えてつながるアメリカ、カリブ海、ヨーロッパ、アフリカとの関係性のもとにアフリカ系文学の生成を捉え直すことで、英語、フランス語といった言語圏や、アフリカとアメリカといった地域圏の分断を超える、よりグローバルな文学研究を推進しています。

 

1930年代以降に刊行されたアフリカ系詩人(出身は左からギニア、ハイチ、マダガスカル、仏領ギアナ)

によるフランス語詩集。こうした詩を読んで研究を進めます。

 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「両大戦間期パリにおける環大西洋文学の形成をめぐる語圏・地域横断的研究」

詳しくはこちら

 

 どこで学べる?

「ヨーロッパ文学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

20.文化・文学・歴史・哲学」の「82.文学、美学・美術史・芸術論、外国語学」

 


私の研究分野はしばしば「フランス語圏文学」(本土以外で、フランス語で書かれた文学)と呼ばれます。そうした研究が盛んであるのは、アメリカ合衆国、カナダ、フランスの大学です。日本では、東京大学教養学科地域文化研究分科や、早稲田大学文学部フランス語フランス文学コースをはじめ、フランス文学・文化の研究科を有する大学でも、こうした主題を学ぶことができます。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
2017年8月、フランス語圏のアフリカ系文化をめぐる共同研究の一環で国際シンポジウムを
東京外国語大学で開催しました。このときの共同研究が現在の私の研究を支えています。
 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

科学vs.キリスト教 世界史の転換

岡崎勝世(講談社現代新書)

世界史の記述の背景にある、ヨーロッパの世界観の変化(キリスト教的世界観から科学的世界観への移行)を知る上で格好の入門書。世界史の学習がきっと面白くなるはずです。



枯木灘

中上健次(河出文庫)

日本の作家の中で自分の暮らした土地にこだわり、その土地から数世代の家系の物語を築くという、壮大な物語世界を構想した類稀なる小説家の代表作。文学の凄みを知る一冊です。



アンダーグラウンド(映画)

エミール・クストリッツァ(監督)

映画史の不滅の傑作があるとすれば、この作品もその一作と評されておかしくない、ユーゴスラヴィアの20世紀史を寓話的に描いた一大叙事詩。無数の死と悲惨を越えて、生きることを肯定するメッセージに強く打たれます。