【薬理系薬学】

脳出血に真に効く治療薬の開発

香月博志先生

 

熊本大学

薬学部

 

 どんなことを研究していますか?

薬理系薬学は、病気の治療薬・予防薬と、それらと深い関係を持つ生体内の情報伝達分子とが、細胞や臓器に対してどのように作用するのかを研究する学問分野です。現時点では十分な治療・予防ができない病気に対して有効な薬を作り出すため、薬が働きかけることのできる新たな生体内分子を見つけ出したり、その機能を明らかにしたりします。昔は不治の病とされた結核や、外科手術が必須であった胃潰瘍が、今では薬で十分に治療できるようになっているのは、このような学問のもたらした重要な成果と言えます。

 

現代社会において大きな問題となっているいろいろな病気について、新たな薬を用いた適切な治療・予防法を確立することを最終的な目標とし、それらの病気の発症や進行のメカニズムを詳しく明らかにすることで、薬の標的分子となりそうなものを見つけ出すための研究が進められています。特に、アルツハイマー病、うつ病などの気分障害、統合失調症、慢性疼痛など、脳に関わる病気が研究の対象として重要な柱の一つとなっています。

 

病態が悪くなる要因を解析し、創薬につなげる

 

脳卒中は、脳に酸素や栄養を送る血管が詰まったり破れたりすることで重篤な症状を招く病気の総称で、その中でも脳内で血管が破裂する脳出血については、有効な治療薬がありません。そこで私は現在、動物モデルを用いて、脳出血の際の病態悪化に関わる様々な要因を解析し、治療薬となる可能性のある薬物の作用を調べています。研究成果をもとにして、脳出血に対する本当に効果のある治療薬が作り出されれば、健康寿命の延長につながることが期待されます。

 

マウスの不安行動を測定する実験装置
マウスの不安行動を測定する実験装置
 この分野はどこで学べる?

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10.薬」の「37.薬理・薬物動態、臨床薬学・検査」

 


 学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

 

●主な業種は→製薬企業、総合病院、薬局

●主な職種は→製薬系研究職・開発職・営業職、薬剤師

 

分野はどう活かされる?

 

・製薬企業の医薬研究所において、新規の作用機序に基づく難治性疾患治療薬の創製に向けた研究に従事しています。

・新薬候補の有効性・安全性を調べるための患者を対象とした臨床試験の立案と実施に向けた調整に従事しています。

 

 先生の学部・学科はどんなとこ

薬学は、物理・化学・生物・医学などの多くの理系学問分野の融合の上に成り立つ総合的学問です。そのなかでも薬理系薬学は、病気の治療・予防に使われる薬(将来薬になる可能性のある新しい化合物を含む)や、それらと深い関係を持つ生体内の情報伝達分子が、細胞や臓器に対してどのように作用するのかを研究する学問分野です。また、現時点では治療・予防を十分に行うことのできない病気に対する有効な薬を作り出すために、薬が働きかけることのできる新たな生体内分子を見つけ出し、その機能を明らかにすることなども本学問分野に含まれます。

 

私たちは、特に中枢神経細胞の変性を伴う疾患(脳出血、パーキンソン病など)を中心に、それらの疾患の病態成立に関わる機序の解析を通じて、新規の治療薬標的となりうる分子やシグナル伝達系の同定を進めています。近年は新たに不安障害などの精神疾患も研究対象に加え、疾患の動物モデルなどを用いて、いくつかの治療薬候補化合物の薬効および作用機序の解析も行っています。研究室においては、所属する学生一人一人が研究者として必要な知識と十分な技能を身につけられるよう心がけて、指導を行っています。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
培養細胞を用いた実験をしている学生の様子
培養細胞を用いた実験をしている学生の様子
脳組織画像の解析を行っている学生の様子
脳組織画像の解析を行っている学生の様子
 先生からひとこと

人類が病気に立ち向かい病気を克服する手段として、薬の重要度や注目度は最近ますます高まっています。薬学部で創薬(新しい薬を生み出すこと)や育薬(今ある薬をうまく活用すること)に関する専門的な知識・技能を身につけ、未来の医療に貢献する道を目指してみませんか。

 

 興味がわいたら~先生おすすめ本

熊薬ものがたり 熊本大学薬学部の研究と教育

熊本大学薬学部:編(熊本日日新聞社)

熊本大学薬学部の各研究室や教員たちが行っている研究のテーマや、教育に関連する話題などがダイジェストで紹介されている。製薬企業・大学・公的研究機関などで研究開発等に関わってこられた熊本大学薬学部OBの実績・体験談も多数掲載されている。新しい薬を生み出すプロセスとはどのようなものなのか、また医療における薬が果たすべき役割とは何なのかを概観できる内容になっている。 



ここまで進んだ次世代医薬品 ちょっと未来の薬の科学

中西貴之(技術評論社)

医薬品が生まれるまでの過程や、近年の医薬品開発の状況などについて一般向けにわかりやすく説明されている。特に、抗体医薬品やワクチンといったバイオ医薬品については紙面を大きく割いて様々な事例が取り上げられており、医薬品の近未来が垣間見える。 



レナードの朝(映画)

実話に基づく、医師と神経難病患者の物語。30年間昏睡状態にあった患者に、試験的に新薬を投与して回復を試みる話。薬の持つ力とその限界を踏まえ、医療とはどうあるべきかを知る上で格好の教材といえる。(ペニー・マーシャル:監督、ロバート・デ・ニーロ、ロビン・ウィリアムス:主演)