若手研究が世界を変える!

【素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理】

市民参加で挑む宇宙の謎

雷のきっかけは宇宙線か。核反応も明らかになった雷の最新研究

榎戸輝揚先生

 

理化学研究所

開拓研究本部 榎戸極限自然現象理研白眉研究チーム

 

 先生のフィールドはこの本から

宇宙創成

サイモン・シン、訳:青木薫 (新潮文庫)

宇宙はどう誕生し、今の世界が構成されてきたのか。この人類普遍の問いに、筆者独特の精緻で、よく調べられた資料に基づいて答えていきます。人類が育んできた宇宙観を知ることができるのはもちろんですが、しっかりした物理学による説明は圧巻です。宇宙を解説した本は多いですが、翻訳されてベストセラーになるのもうなずける、クオリティを感じます。サイモン・シンさんの本はどれも面白いですよ。

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 世界を変える研究はこれ!

雷のきっかけは宇宙線か。核反応も明らかになった雷の最新研究

宇宙線は天文学の大きな謎

この世界の成り立ちと正体を調べるのが物理学です。物理学の測定を駆使すれば、私たちの目では見ることができない宇宙の姿を明らかにすることができます。その一つの例が、20世紀初頭に発見された、目には見えないが、絶え間なく地球に降り注いでいる宇宙線です。

 

宇宙線は、ブラックホールや中性子星、あるいは星が死んだ後に残る超新星残骸など宇宙の極限的な環境で産まれると考えられていますが、まだよくわかっていません。この宇宙線の源は、天文学の大きな謎のひとつになっています。

 

雷研究から、新分野、高エネルギー大気物理学が生まれる

 

この不思議な宇宙線、もしかすると身近な「雷」の秘密を握っているかもしれません。雷は大気中で電流が流れる放電現象ですが、その雷が何をきっかけにして始まるのかは、まだよくわかっていません。

 

宇宙線は、この雷のきっかけの候補と考えられています。これを調べるには、宇宙線の研究から発達してきた高エネルギー物理学の手法が有効です。

 

実際、雷は可視光や電波と呼ばれるエネルギーの低い光だけで光ると思われていましたが、X線やガンマ線といったエネルギーの高い光を出すこともわかり、高エネルギー大気物理学という新分野が生まれつつあります。

 

雷は太古から知られている身近な自然現象ですが、未解明な謎も多く、最先端科学の研究対象なのです。

 

雷は原子核物理学の研究対象にも

 

私たちのグループでは、日本海沿岸で冬になると強力な雷や雷雲が発生することに着目し、地上に放射線のモニターを設置して観測を続けてきました。すると、雷に伴って中性子や陽電子という、素粒子物理学の対象である粒子を検出しました。こういった、見たことがない、よくわからない現象に出会う瞬間は、科学者がワクワク興奮できる最高の経験です。

 

詳しく調べていくと、雷で発生した高エネルギーの光が、大気中の窒素や酸素の原子核に衝突し、別の原子核に変化する「原子核反応」が起きていることが明らかになりました。雷は、電磁気学だけではなく、原子核物理学の研究対象にもなってきたわけです。

 

市民サポーターと観測、「雷雲プロジェクト」

 

今、私たちの「雷雲プロジェクト」では、市民サポーターと一緒に金沢市にシチズンサイエンスの雷観測網を構築しようとしています。科学を研究者だけに閉じずに、オープンに市民参加型で進めてみたいということで、Collective Power of Science をスローガンにしています。一緒に自然界の謎に挑戦しませんか。

 

2017年に京都大学で行われた TEDxKyoto University で行われたトークで、

オープンサイエンスやX線天文学について話す様子。

 

 きっかけ&学生時代

◆テーマとこう出会った

 

私はもともと、X線天文学という、人工衛星に検出器を搭載してはるか遠くの中性子星などの不思議な天体を観測する分野で研究してきました。ところが、雷や雷雲から高エネルギーの光が出ているらしいと知り、自分たちの持っている技術でも観測ができそうだと、分野を越境して研究を始めました。好奇心が学問の要。そして、学問は自由です!

 

最初の頃は研究予算を確保するのに苦労して、その当時はまだ珍しかった学術系クラウドファンディングに挑戦して資金を得るなどしました。その後、観測網も広がり、気象学や天文学、大気電気学など異なる分野の仲間も集まって、今は学際的な研究を進めることができています。新しい分野を作ってみたいですね。

 

◆大学・大学院時代

 

東京大学の五月祭という学園祭では、物理学科は毎年出し物をしています。私と友人たちは、自作の電波干渉望遠鏡で太陽を観測するという企画に挑戦しました。残念なことに、学園祭当日までには間に合わなかったのですが、その後追加の観測で、自作の装置で太陽を観測してみると、太陽からの電波が干渉して生じるパターンを検出できました。その瞬間の興奮は忘れられません。何か新しいものに出会う瞬間は、いつもワクワクしますね。

 

◆出身高校は?

 

札幌南高校

 

 先生の分野を学ぶには

「素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

3.地球・宇宙・数学」の「10.素粒子、宇宙、プラズマ系物理」

 


 榎戸先生の研究・研究室を見てみよう

雷や雷雲からのガンマ線を検出するため、自作の放射線測定器を金沢大学の屋上に設置している様子。(左側が榎戸です。右側は同僚の湯浅孝行さん)これらの装置で、実際に雷や雷雲からの放射線を検出できています。

 

 先生の学部・学科で学ぼう

理化学研究所は研究所のため、大学教育は残念ながら行っていませんが、研修生、大学院リサーチ・アソシエート(JRA)などの制度で、一緒に研究を行うことができますよ。最先端のサイエンスをしながら自分を鍛えてみませんか。

 

 中高生におススメ

プラネテス(漫画)

幸村誠(講談社コミック)

私たちが宇宙に生存圏を広げていく、ちょっと先の未来で、スペースデブリの回収をしている人たちを描きます。木星往還船のプロジェクトとか、宇宙への夢がいっぱいで、同じ名前のアニメも素敵です。オープニングは宇宙開発の歴史が描かれていて、その筋の人は何度でも見たくなります。

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ローマ人の物語

塩野七生(新潮文庫)

ローマ帝国の勃興、繁栄、そして衰退までを描いた長編の歴史小説。人々がどう考え、どう行動し、その結果としてどんな歴史が紡がれていったのかが、壮大なスケールで描かれています。高校時代に貪るように読んでいました。長いですが、2000年近く昔の人達も、今の私たちと同じく最善を尽くして社会を作っていたことがわかります。

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陽だまりの樹(漫画)

手塚治虫(小学館文庫)

巨匠手塚治虫さんの作品は、いろいろ考えさせられます。本書は、明治維新の頃の2人の男性を中心に描かれた物語です。『火の鳥』『アドルフに告ぐ』『ブッダ』とも併せて、ぜひ一度読んでみてください。人間って何なんでしょうね。

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 先生へ一問一答!

Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

カリフォルニア州サンフランシスコ、カナダ。

 


Q2.熱中したゲームは?

『銀河英雄伝説』『信長の野望』『大航海時代』

 


Q3.大学時代の部活・サークルは?

山岳愛好会

 


Q4.会ってみたい有名人は?

磯田道史さん、伊集院光さん