【基盤・社会脳科学】
学習と記憶
場所や場面を作り出す脳刺激の記憶術
武見充晃先生
東京大学
教育学研究科 総合教育科学専攻
脳と運動のふしぎな関係 体で覚えるって、どういうこと?
野崎大地(くもん出版)
なぜ私たちは肘を曲げられるのでしょう。筋肉があるから、と思った人は鋭いですね。でも筋肉が腕の骨のどこに付いているか考えたことはありますか。あるいはピアノを習ったことがある人なら、なぜ片手ずつ練習しても両手でスムーズに弾けるようにならないのか、不思議に思ったことはないでしょうか。
この本はそういった疑問に答えてくれます。著者の野崎大地先生は身体運動の制御と学習機構が専門で,私は2017年から一緒に研究しています。身体を動かすのが好きな人、運動が上手くなりたい人、(ちょっと専門的ですが)手続き記憶のメカニズムに興味のある人には、ぜひ読んで欲しい一冊です。
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場所や場面を作り出す脳刺激の記憶術
場所や場面で記憶は定着する
私は人間の脳を電気や磁気で刺激することで、それまでに習得した運動技能や英単語のような知識を忘れにくくする「記憶を増強する脳状態操作技術」を研究しています。
この研究の元には、記憶は形成された時と環境・状況が近いほど想起しやすいという文脈依存性という特性があります。「文脈」とは記憶が作られる時の周囲の状況や前後の出来事のことです。
この記憶の性質をうまく使えば、例えば英単語を図書館とカフェ、同じ場所で2回覚えた場合と、それぞれの場所で1回ずつ覚えた場合では、後者の方がよく思い出すことができます。
記憶は環境ではなく脳の状態に依存
しかし最新の研究は、記憶が環境ではなく脳の状態に依存することを示しました。リラックスしている時にはできたことが、緊張している時は脳の状態が違うためにできなくなるのです。
そこで私は様々な脳状態の下で技能や知識を習得することで、思い出しやすく忘れにくい強い記憶が作れるのではないかと考え、今まさに様々な脳の状態を作り出すための脳刺激技術を研究しています。
図書館とカフェにいるかのような2つの脳状態
この技術は未来社会を一変する可能性があります。例えば脳刺激によってあたかも図書館とカフェにいるかのような2つの脳状態を作り出すことができれば、物事を効率的に覚えられる「スマート学習」が可能になるでしょう。
一方で能力増強のために脳刺激を使うのはドーピングではないか、と問題提起する人もいます。新たな技術の光と影、その両面に目を向けて研究を進めることで、多くの人から受け入れられる「脳刺激という記憶術」を確立したいと思っています。
脳を磁気で刺激している実験風景
◆中学時代
私が研究者を志したきっかけは、中学3年時に受けた谷下一夫先生(当時慶大理工教授)の講義です。人を治すのは医者の領域だと思っていた当時の私に、生体医工学がご専門の先生は「医師は目の前の一人を治せる、それは素晴らしいことだ。だけど新しい技術は同時に千人を救うかもしれない。どっちが魅力的だと思う?」と問いかけました。
まだ純粋だった私にはその一言で十分で、以来気がつけば大学で理工学部に進学、リハビリ技術に関わる内容で博士号を取得し、今日に至っています。
牛場潤一
慶應義塾大学 理工学部 生命情報学科/理工学研究科 基礎理工学専攻
ブレイン・マシン・インターフェースによる神経リハビリテーションを研究しています。学部・修士・博士課程の指導教員で、研究の進め方、考え方、人への伝え方といった研究のイロハを教えていただきました。研究者としての私の礎を形作ってくださった方です。
古屋晋一
上智大学 特任准教授/ソニーコンピュータサイエンス研究所
音楽医科学(超絶技巧の神経メカニズム解明、音楽家の運動障害に対するリハビリ手法の開発など)を研究しています。基礎として面白く、応用的な出口イメージも明確という研究スタイルを、見習いたいといつも思っています。研究の道筋に迷った時によく相談させていただいています。
瀧山健
東京農工大学 工学部 電気電子工学科/工学府 電気電子工学専攻
身体運動の学習と制御に関する計算論とデータ科学を研究しています。お話する度に、自らの未熟さと学び続けることの必要性を痛感させられます。データ解析で困ったら真っ先に相談させていただいています。
■瀧山先生のページ(Motor Control and Learning lab at Tokyo Univ of Agriculture and Technology)
私が留学していたコペンハーゲン大学のチームを東京大学に招いて、ワークショップを開催しました。海外のチームと共同研究をする中で、世界中に友達ができるのも研究の醍醐味だと思っています。
How we learn Throw out the rule book and unlock your brain's potential
Benedict Carey (Macmillan)
その学習法はなぜ効果的なのでしょう。学習と記憶のメカニズムに興味がある人にも、試験勉強を効率的に進めたい人にもオススメの1冊。和訳もありますが、英語も簡単なので原著にチャレンジしてみてもいいかも。(『脳が認める勉強法 「学習の科学」が明かす驚きの真実!』、訳:花塚恵)。
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ハムレット まんがで読破
シェイクスピア (イースト・プレス)
シェイクスピアを原典で読むのはちょっと、という人にオススメ。特に将来外国人と交流したい人は、この「まんがを読破シリーズ」でいろいろな名作文学のあらすじだけでも知っておくと良いと思います。
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決してマネしないでください(漫画)
蛇蔵(モーニングKC)
理系大学生たちが、一風変わった科学実験をしながら科学の発達の基礎と歴史を紹介するマンガ。個人的に、大学進学前に読んでおけば、もっと授業を楽しく聞けたのにと思ったマンガ第一位です。
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Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?
同じことを学びたい(ただし試験のために一夜漬け&丸暗記ばかりだった点は改めたい)。
Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
デンマーク。27歳から2年間研究留学していたので、またいつか戻りたい。
Q3.一番好きな音楽は?
ゆずの『Yesterday and Tomorrow』
Q4.感動した映画は?印象に残っている映画は?
『ノッティングヒルの恋人』
Q5.会ってみたい有名人は?
テニスの錦織圭選手、アタマプラスの稲田大輔さん、étéの庄司夏子シェフ、女優の新木優子さん