若手研究が世界を変える!

【物性Ⅱ】

磁性

物質の魅力を引き出せ

実用も期待。新しい磁石「スキルミオン物質」の合成

谷口耕治先生

 

東北大学

理学研究科 化学専攻/金属材料研究所

 

 先生のフィールドはこの一冊から

二重らせん

ジェームス・D・ワトソン(ブルーバックス)

DNAが二重らせん構造であることは現在では当たり前のこととして知られています。しかしどのような経緯でこの歴史的発見に至ったのか、その過程が発見者の一人によって生き生きと書かれています。自然科学の研究で何かを見つけたときのワクワク感を垣間見ることができます。

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 世界を変える研究はこれ!

実用も期待。新しい磁石「スキルミオン物質」の合成

電子の性質で物質の特徴は決まる

私たちは、“物質”から成る世界で生活しています。物質は原子からできていますが、色、電気伝導性、磁石としての性質(磁性)といった特徴は、原子の構成要素の一部に過ぎない電子の性質によりほぼ決まっています。私は、この電子が引き起こす物質の性質(電子物性)の研究に取り組んでいます。

 

「トポロジー」導入で奇妙な物質が登場

 

電子物性は、身近なものを対象としている分、研究も進んでおり、大半の現象はすでにある理論で理解できてしまいます。しかし最近、数学分野の「トポロジー」という、図形の共通する性質を扱う概念の導入により、これまでの理論の枠組みでは分類できない、奇妙な性質を持つ物質が現れる可能性が指摘され関心を集めています。

 

ハリネズミ型スピン構造体「スキルミオン」

 

私自身は磁性の研究を専門としており、「スキルミオン」と呼ばれる特殊なスピン配置を持つ磁石の開発に取り組んでいます。スピンとは、電子の微小な磁石としての性質のことです。

 

スキルミオンはハリネズミ型のスピン構造体で、普通の磁石とはトポロジー的に異なる状態であり、構造が壊れにくいため、情報記憶担体としての応用等も期待されています。

 

ただ、このような特殊なトポロジーを持つ磁石をどうやって設計すればよいかという明確な指針は、現在知られていません。私はスピンを持つ無機物に、物質設計性の高い有機物としての性質を持たせてやれば、スキルミオン物質も合理的に合成できるのではないかと考えました。教科書に新たな1ページを加えるような新規物質の開発を目指し、研究を進めています。

 

研究所の一般公開にて、近所の小学生に金属錯体の色が変わる反応を体験してもらっています
研究所の一般公開にて、近所の小学生に金属錯体の色が変わる反応を体験してもらっています
 きっかけ&学生時代

◆テーマとこう出会った

 

元々、私は無機物の磁性の研究を行っていましたが、少し前に、当時所属していた研究室の都合で、それまでまったく研究したことのないリチウムイオン電池の研究をしなければならなくなりました。この時は、その分野の素人としてゼロから研究を立ち上げることになり、かなり苦労したのですが、その中で物質のすきまにイオンを入れて新しい機能を引き出すという着想を得ました。

 

その後この着想を活かして、電池でイオン挿入を制御して磁性をコントロールするという研究を行いました。その際、丸いリチウムイオンではなく、複雑な構造を持たせられる有機物イオンを使えば、より高度な機能制御もできるのではないかと考えたのが、現在のテーマを研究することになったきっかけです。

 

◆出身高校は

 

鳥取県立鳥取西高校

 

 先生の分野を学ぶには

「物性II」学べる大学・研究者はこちら (※みらいぶっくへ)

 「15.エレクトロニクス・ナノ」の「60.物性物理・量子物理、半導体、電子関連材料」

 


 谷口先生の研究・研究室を見てみよう

研究室旅行にて、岩手県にある宮沢賢治童話村を訪れました

 

 先生の学部・学科で学ぼう

金属材料研究所は、材料分野では世界的にトップクラスの研究所です。電子の電荷とスピンの自由度を組み合わせて新機能を創出することを目指すスピントロニクスと呼ばれる分野に強みを持っています。私自身は磁性の研究を専門に行っているので、スピンの物性という点で密接なつながりがあります。

 

 中高生におススメ

ニーチェ入門

竹田青嗣(ちくま新書)

哲学ってなんとなく格好良いけど、本を読んでも全くわからない…。しかし、本書は平易な言葉で書かれていて、楽しんで読める哲学の本です。難解な言葉遊びではなく、どのような姿勢で人間は生きるべきか、という熱い思想が解説されています。タイトルから受ける退屈そうな予想を裏切って、面白い本です。

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量子コンピュータが人工知能を加速する

西森秀稔、大関真之(日経BP)

最近、良く耳にする量子コンピュータに関する啓蒙書です。量子コンピュータというのは、基礎研究だけの世界かと思いきや、ベンチャー企業により量子アニーリングという原理を用いた量子コンピュータが製品化されており、既に販売されていたなど、興味深いエピソードがいろいろ書かれています。量子コンピュータの何が面白いのかを伝えることに主眼が置かれていて読みやすいので、最先端の科学のトピックスに興味があって、まずはどんなものか知ってみたいという人におすすめの本です。

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 先生へ一問一答!

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

物理学:化学系の出身で物理の学習は独学なので、体系的な講義を受けて学習してみたい。

 


Q2.印象に残っている映画は?

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。初めてきちんと見たハリウッド映画です。

 


Q3.熱中したゲームは?

ファイナルファンタジーVII 。初めて3D画面でプレイしたRPGです。

 


Q4.研究以外で楽しいことは?

子育て