【生物物理学】
顕微鏡技術
誰も見たことのない心の基を見る
脳を通して心を覗く、世界にまだない顕微鏡開発に挑む
塗谷睦生先生
慶應義塾大学
医学部 薬理学教室
脳科学の教科書 こころ編
理化学研究所脳科学総合研究センター(岩波ジュニア新書)
「こころ」はどのように生み出されるのか。誰もが持つこの疑問について、研究者が、現在の脳科学的な理解をかみ砕いて紹介している本です。脳科学にはまだわからない面白いことがたくさんあることをきちんと説明していること、そして、「おわりに」に書かれているように、読者がそれにチャレンジしてほしい、というメッセージが込められていることが素晴らしいと感じます。
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脳を通して心を覗く、世界にまだない顕微鏡開発に挑む
実際に脳を「見て」心に迫る
私たちの「心」はどのようにして生まれ変化するのか。これを知りたいというのが私の研究の源です。これは誰もが一度は疑問に思うもので、太古の昔から続く人類の謎でありチャレンジではないでしょうか。
では、どのようにすれば心の謎に近づくことができるでしょうか。自然科学の多くのものがそうであったように、やはり実際に「見てみること」が最初の一歩になると思います。
これまでの研究から人の心は脳に宿り、そこでは無数の細胞が化学物質を介して情報をやり取りし、それが脳の機能や心の機能を支えていると考えられています。
脳内の化学物質を見て、心の健康を知る
しかし驚くべきことに、今もなお、このような化学物質のやり取りやその変化は、直接観測できていないのです。これは主に、見るための方法自体がまだないからです。
この現状を打開して心の謎に迫るためには、新しい方法や装置が必要になります。そこで私は、化学物質を見るための顕微鏡を作り、それを使うことで脳の中の化学物質のやり取りを見て、心の健康と病気、それに対する薬などについて知るという研究をしています。
化学や物理学といった幅広い分野の専門家の方と協力し、世界にまだない顕微鏡技術を作るのはとても楽しいものです。そしてその新しい技術で、まだ誰も見たことのない、脳の中の化学情報のやりとりを見るという、挑戦的ではありますが、ワクワクする研究を進めています。
顕微鏡を用いた研究風景。手前に写っているのは研究グループの大学生
心の健康は体の健康と合わせ、車の両輪のように人の健康を支えるものです。健康の維持や病気になった時の薬などの理解には、心がどのようにして生まれ変化するのか、その理解に近づく必要があります。私の行っている研究やそこから生まれる方法が、この謎の解明に役立ってくれることを祈っています。
◆テーマとこう出会った
人の心がどのようにしてでき上がって、それがどのように変化するのかに、とても興味を持っていました。興味を持ち始めたのはおそらく中学・高校の頃で、きっと皆さんもそのような疑問を一度は持つと思います。
私はアメリカに留学して生命科学の研究をしていましたが、その中で新しい技術がこれまで見ることができなかったものを見えるようにし、これまでの謎の解明に大きな力を発揮することを実感しました。帰国して自分のやりたい研究をすることができるようになった時、ずっと疑問に思っていたことに身につけた新しい技術でチャレンジしてみたいと思い、今の研究を始めました。
◆大学時代
実は航空宇宙工学を専攻するつもりで大学に入学したのですが、教養課程で様々な学問に触れ、今まで知らなかった多くのワクワクするような学問に触れることができました。その中で脳に関する講義を受け、未開拓の分野としてとても印象深く魅力的で、そこから現在の専門分野に入ることになりました。大学の教養課程の教育の重要さや魅力を痛感しました。
◆出身高校は?
巣鴨高校
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「7.生物・バイオ」の「21.分子生物学・細胞生物学・発生生物学、生化学(生理・行動・構造等 基礎生物学も含む)」
学会での発表風景
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?
当時のように色々な分野の学問を学びたいです。でも、おそらくまた脳科学に引き寄せられると思います。
Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
20代のほとんどをアメリカで過ごしとても楽しかったのですが、やはり日本が好きです。
Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?
(ユニークではないですが)塾講師
Q4.研究以外で楽しいことは?
家族と過ごす時間