【病態医科学】
オートファジー
栄養補充で活躍するオートファジーは、病気の発症にも関与
小松雅明先生
順天堂大学
医学部 医学科(医学研究科 医科学専攻)
細胞が自分を食べる オートファジーの謎
水島昇(PHPサイエンス・ワールド新書)
ノーベル医学・生理学賞を受賞した大隅良典教授による、出芽酵母を用いたオートファジー関連遺伝子の発見から、遺伝子改変マウスの解析によるオートファジーの生理機能まで、わかりやすく時系列で示されています。
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栄養補充で活躍するオートファジーは、病気の発症にも関与
栄養不足になるとたんぱく質を分解、エネルギーに
細胞が栄養不足の状況に陥ると、細胞の中に細胞の一部分を無作為に取り囲んだオートファゴソームという袋状の構造体がたくさんできます。そして、オートファゴソームが分解酵素を含んだリソソームと融合することで、細胞自身のたんぱく質はアミノ酸へと分解されます。これが、オートファジーです。
細胞は、オートファジーによって得たアミノ酸を利用してエネルギーを産生したり、栄養不足を乗り切るための新しいたんぱく質を作り出したりする「究極の生存戦略」と考えられていました。
オートファジーが機能しないと病気に
ところが、肝臓でオートファジーが働かなくなるマウスを作製したところ、充分に餌を与えているにもかかわらず、肝臓が肥大し、重篤な肝機能障害が起こり、最終的には腫瘍が形成されることがわかりました。また、他の臓器から栄養が供給される脳でオートファジーを働かなくなるマウスを作製したところ、アルツハイマー病に似た神経変性疾患を引き起こすことがわかりました。
オートファジーは無作為に細胞内たんぱく質を分解すると考えられていたことから、オートファジーを阻害した場合、すべての細胞内たんぱく質は同じ割合で増加するはずです。ところが、蓄積するたんぱく質に大きな偏りがあることがわかりました。
オートファジーは特定のたんぱく質を分解
これらのことは、オートファジーが飢餓に応じた生存戦略だけでなく、恒常的、そして特異的な細胞内たんぱく質を分解することで細胞機能を、ひいては個体としての健康維持を担っていることを意味します。
現在、私たちは、オートファジーの選択性のしくみや、その異常による病態発症機構を明らかにしたいと考えています。
田中啓二研究室(2000年頃)の写真
オートファジーは複雑な膜形成を伴う細胞内たんぱく質分解システムですので、そのしくみには未解明・未解決の問題が山積しています。わかったことよりもわかっていないことのほうが多いと思います。一方で、オートファジーに関わる遺伝子の変異がヒトの病気を引き起こすなど、オートファジーの異常が直接疾患と関わることがわかってきました。
私のラボでは、オートファジーのしくみと個体レベルでの生理機能を組み合わせた研究を推進しています。例えば、オートファジーが選択性を発揮するしくみと、そのしくみが異常となった場合の個体の症状を検証することで、ヒト疾患の発症原因を明らかにしたいと思います。
◆テーマとこう出会った
当時はまだ技術的に難しかった、遺伝子を改変したマウスの作製に習熟できたことで、大きな武器を手にすることができました。現在も、技術革新により新たな研究手法が開発されています。それらを駆使、あるいは幅広い共同研究を展開することで、自分の知りたいことを分子から個体レベルまで明らかにしていきたいです。
また、私は大学院生時代、そしてポスドク時代を、オートファジーと双璧をなす細胞内たんぱく質分解系である、ユビキチン−プロテアソーム研究を中心に進める田中啓二先生の研究室で過ごしました(よくオートファジー研究をすることを許可していただいたなあと今でも思います)。田中啓二先生の研究室での経験は、研究の考え方、進め方、また共同研究のあり方など、現在の研究に大きな影響を与えています。
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研究室での写真