若手研究が世界を変える!

【植物保護科学】

植物ウイルス

ウイルス感染でなぜ葉は黄色に。その原因を突き止めた!

志村華子先生

 

北海道大学

農学部 生物資源学科(農学院 農学専攻 生産フロンティアコース)

 

 先生のフィールドはこの作品から

風の谷のナウシカ

宮崎駿(アニメージュコミックスワイド判)

人間が汚染した土壌や空気を、他の動物や微生物が修復しているという設定のお話です。残された土地をめぐって人間同士が争い、さらに人口を減らすのがとても残念ですが、それではいけないと主人公が奮闘します。

 

生態系の重要さを扱っているので、人間同士の関わりが大切である一方、人間以外の生物(ウイルス含む)との関わりもまた、人間生活にとってとても重要だと思うことができます。

 

ジブリ作品の中では一番好きです。人間と植物、人間と微生物、植物と微生物というように生物同士の関係性(つながり)の大切さ、それが成立するために必要なことは何かということがとても面白いと思っています。

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 世界を変える研究はこれ!

ウイルス感染でなぜ葉は黄色に。その原因を突き止めた!

葉緑素が減って葉が黄色に

私の研究は、植物がウイルスに感染した時に起こる病徴(病気の症状)の原因は何かというものです。扱っていた病徴は、ウイルス感染により植物の葉が黄色くなるという症状です。

 

緑色色素である葉緑素が減少するため、葉は黄白色になるのですが、どうしてウイルス感染で葉緑素が減少するのか、直接的な原因は不明でした。

 

ウイルスのRNAの一部が植物の遺伝子と一致

 

私たちの研究グループは、ウイルスの持つRNAの塩基配列の一部が、植物の持つ遺伝子(葉緑素合成に関わる遺伝子)と一致することが黄化の原因であることを証明しました。

 

塩基配列の一致がどうして病気の原因に、と思うかもしれません。それにはRNAサイレンシングというメカニズムが関わります。

 

RNAサイレンシングは、DNAからRNAへの転写、RNAからタンパク質への翻訳、また、ウイルスの分解など重要な細胞内活動の制御に関わっています。

 

部分的にであれ塩基配列が一致していたため、植物はRNAサイレンシングでウイルスを分解しようとする時、不本意にも自分の葉緑素合成遺伝子のRNAも分解してしまったのです。

 

抗ウイルス剤の開発も

 

ウイルス病とRNAサイレンシングの研究を通じて、抗ウイルス剤の開発にも取り組んでいます。また、ウイルスの中には、ほとんど病気を起こさず、植物に感染してもうまく共存しているようなものがたくさんあります。

 

病気を起こすメカニズム、起こさないメカニズムを明らかにすることで、農作物の病気を減らす知見へとつなげたいと考えています。

 

【黄化植物の様子】

左:キュウリモザイクウイルス(CMV)が感染した野生タバコ。葉に縮れやモザイク症状がでている。

右:ノンコーディングRNAを持つCMVが感染した野生タバコ。ノンコーディングRNA配列の一部が葉緑素合成遺伝子のRNAと一致するため、葉緑素が分解されて葉が黄色くなっている。

 

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

農作物の生産において病害防除は必須です。今後の環境変化によってはこれまで起こらなかった新しい病気が流行することも考えられ、その対策を常に講じていく必要があります。私たちの研究で考案された抗ウイルス剤はウイルスの増殖抑制、植物の耐病性向上などの作用が期待され、ウイルス病による農作物被害の低下やウイルス病により消滅する遺伝資源の保全に貢献できると考えています。

 


◆先生が心がけていることは?

 

食料品を無駄にしない

 

 きっかけ&学生時代

◆テーマとこう出会った

 

研究テーマは、ポスドクの時にボスから与えていただいたものです。研究は、先輩たちの成果や苦労を引き継ぎ、地道につないでいくリレーのようなものです。ポスドクの時、あのようなインパクトのある研究のリレーのバトンを受け継いだことは、私にとってとても幸運でした。

 

ボスはウイルスが大好きでしたが、私は基本的に植物が好きで、それまでウイルスや病理学にはほとんど興味を持ち合わせていませんでした。でも、ウイルスの研究に関わる中で、ウイルスという存在の面白さを知り、ちょっと好きになりました。また、分子生物学的な研究手法の知見を広げることもできました。食わず嫌いせず、異なる分野で学べたことは、本当に良い経験になったと思っています。

 

◆大学時代

 

子どもの頃から植物が好きでしたが、植物を研究する仕事に就くとは思っていませんでした。きっかけがあったとするなら、北大農学部へ入学できたこと、学生時代に所属した研究室で過ごした時間が楽しかったことかなと思います。植物についていろいろなことを楽しそうに教えてくれる先生や先輩たち、興味を一緒に分かち合える仲間との日々が居心地よく、植物のことを学ぶのはやっぱり楽しい、これからも学び続けていきたいと思ったのでした。

 

◆出身高校は?

 

 札幌旭丘高校

 

 先生の分野を学ぶには

「植物保護科学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

8.食・農・動植物」の「26.植物科学、育種・作物・園芸」

 


 注目の研究室や研究の大学へ行こう!

野口伸

北海道大学 農学部 生物環境工学科/農学院 農学専攻 生産フロンティアコース

【食料生産システムのロボット化やICTに関わる研究】『下町ロケット ヤタガラス』では野口先生の実際のエピソードがドラマとなっています。このように人の役に立てる研究は素晴らしく、農業工学分野の重要性や面白さを世に知らしめたと思います。自分も植物のことばかり考えてないで、人の役に立つ研究もしなくてはいけないと再認識しました。

ビークルロボティクス研究室HP

 


 志村先生の研究・研究室を見てみよう

ガラスシャーレを乾熱滅菌するために新聞紙で包んでいるところ。

研究室で使う試薬や道具は共有で使うので、メンテナンス作業も皆で行います。

 

 先生の学部・学科で学ぼう

北大農学部の7学科の中で、生物資源科学科の特徴は、実際に育てるなどを通じて直接的に植物に関わる機会が多いところです。植物を研究テーマに扱う研究室がたくさんありますが、昆虫など動物を扱う研究室もあります。遺伝子やタンパク質など分子レベルの研究から、圃場や自然の生態系における植物や動物の研究まで、幅広く知識をつけられることが特色です。自然の植物も、人間にとって大事な植物(農作物)も好きな人におすすめです。

 

北大農学部は、建物のすぐ裏に広大な農場があるのも大きな魅力の一つです。

作物生理学研究室でも実験に使う作物などを農場で栽培しています。

 

 中高生におススメ

置かれた場所で咲きなさい

渡辺和子(幻冬舎文庫)

植物は動けないのでまさに置かれた場所に適応しようとしますが、人も、とりあえずはその場所でできることを頑張るという姿勢も大事かなと思います。それでも環境が不適である場合、人間には生きやすい場所を求め動くという選択があり、植物より幸せなのかもしれないと思います。

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生物と無生物のあいだ

福岡伸一(講談社現代新書)

理系の難しい本なのかなと思いますが、すごく読みやすく、人間模様なども描かれているので楽しく読めます。時々難しくなるかもしれませんが、丁寧に読んでいって理解してほしいと思います。

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植物男子ベランダー(テレビドラマ)

NHK

植物好きな人がたくさん出てくるのがいいです。植物を扱っているうちに、気長になったり、観察力が磨かれたりします。

 [番組Webサイトへ]

 先生へ一問一答!

Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

イタリア。農作物や水産物について、この食材はこうして食べると美味しいという食の感覚が似ていると思う。ワインやチーズも何でも美味しいから。

 


Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

レキシ。『狩りから稲作へ』がお気に入りです。

 


Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『トイ・ストーリー3』

 


Q4.研究以外で楽しいことは?

キャンプなどアウトドア

 


Q5.会ってみたい有名人は?

東野圭吾