【日本文学】

風土記

外国人は日本の風土記をどう研究してきたのか

兼岡理恵先生

 

千葉大学

文学部 人文学科 日本・ユーラシア文化コース/大学院 人文科学研究院

 

 出会いの一冊

ぼおるぺん古事記

こうの史代(平凡社)

『この世界の片隅で』で知られる作者による、『古事記』上巻(神話に関する巻)をマンガ化したものです。特筆すべきは、通常の古典マンガのように現代語訳に基づいたものではなく、台詞はすべて原文(訓み下し文)ということ。すなわちこのマンガを読めば、『古事記』上巻が通読できるのです。これはものすごいことです!

 

また、たとえば『古事記』に登場する「天の浮橋」について、江戸時代以来「虹」「船」など諸説あるのですが、マンガにする場合、具体的に絵画化せねばなりません。そうした難問にも、作者は様々な研究書を読み込み、一つの解釈を生み出して、描いています。本書欄外にある作者による補注からも、その丁寧かつ真摯な仕事ぶりがうかがえます。本書は間違いなく、現代における優れた『古事記』注釈書の一つです。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

外国人は日本の風土記をどう研究してきたのか

1300年前の日本を描くドキュメンタリー

『風土記』とは、今から約1300年前の和銅6年(713年)、朝廷から日本各地に出された命によって編纂された報告書です。その命令とは (1) 地名にふさわしい字をつける、(2) 地域の産物や動植物、(3) 土地の肥沃度、(4) 地名の由来、(5) 地域の伝説や不思議な出来事、以上を記して提出せよ、というものでした。

 

現在残る風土記は5つだけ

 

当時の日本には約60の国がありましたが、現在残る風土記は常陸・播磨・出雲・豊後・肥前の5か国のみです。では、なぜ他は無くなってしまったのでしょうか。

 

また逆に言えば、なぜこの5つは残ったのでしょうか。私はこの点に興味を持ち「奈良時代に出来た風土記が、現在までどのように読まれてきたか」を研究しています。

 

外国人の日本へのまなざし

 

これまでの研究から、平安~鎌倉時代は、風土記は和歌や『日本書紀』研究の補助資料として、また江戸時代には各藩における地誌編纂資料としてなど、時代ごとに様々な形で利用されてきたことが、明らかになってきました。

 

そして今、私が取り組んでいるのは、明治以降、外国人の日本研究者による風土記研究です。例えば、風土記の伝説と自国の伝説を比較した者、風土記から古代日本の習俗を研究した者、さらに風土記の翻訳を試みた者ー。これらを探ることは、現代における外国人の日本へのまなざしを知ることにも繋がります。

 

この研究は、風土記を通じて、日本人、そして外国人が、地域をどのように見つめてきたのかを探究する、グローカル(Glocal)な研究といえるでしょう。

 

2018年、千葉大学の海外協定校であるアメリカ・シンシナティ大学で行った招待講演の様子

 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「キンダイの日本/海外における風土記研究・享受に関する多角的研究」

詳しくはこちら

 

 どこで学べる?

「日本文学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

20.文化・文学・歴史・哲学」の「82.文学、美学・美術史・芸術論、外国語学」

 


 先生の講義では

◆講義の初回では

 

〈問〉『古事記』と『日本書紀』、なぜ漢字(「記」「紀」)が違うの?

〈答〉「記:事柄を記す」「紀:歴史」という意味。つまり、ざっくり言えば「古事記:古いことを記した書」「日本書紀:日本の歴史」。この問いから、両書の相違・特徴を説明していきます。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう

兼岡先生のページ

 

上代文学を「よむ」  日本語・日本文学専修 模擬授業(千葉大学文学部 Webオープンキャンパス2020)

 

研究対象である『常陸国風土記』に登場する筑波山・山頂。学生とともに訪れた際の一コマ

 先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

 

(1) 小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等

(2) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等

 

◆主な職種

 

中学校・高校教員など

 

◆学んだことはどう生きる?

 

ある学生は、地元に昔から伝わる動物石像について卒論を書き、卒業後は県職員になりました。卒論執筆時に学んだ地域の歴史はもちろん、ゼミや講義で身につけたスキルー研究方法が、今、大いに役立っているそうです。人文学の学問は、とかく「役に立たない」と言われますが、文献を収集して丹念に読み解き、論理を構築するという営みは、あらゆる仕事、人生の基礎力となります。時代のスピードに流されず、対象にじっくりと向き合えることが、人文系学問の魅力でしょう。

 

 先生の学部・学科は?

日本・ユーラシア文化コースは、日本言語文化(日本語学、日本文学・文化、図書館情報学)、ユーラシア言語文化(ユーラシア言語文化、言語学)の二本柱から成り、学生はいずれの授業も自由に選択することができます。また、コース定員は1学年約30名に対し、教員は10名強。少人数指導が可能で、教員と学生の距離が近いのも魅力です。日本を国内・外の視点から、広く深く学べるコースと言えるでしょう。

 

夏休みのゼミ合宿。奈良県・明日香村(蘇我入鹿首塚と伝えられる五輪塔付近にて)

 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

辞書の仕事

増井元(岩波新書)

『広辞苑』『岩波国語辞典』などの辞書編集に長年携わった著者による辞書づくり、言葉をめぐるエッセイです。日頃何気なく使っている言葉への意識が変わり、辞書を「読み」たくなってくるでしょう。



阿房列車

内田百閒(新潮文庫)

「なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う」。元祖・"乗り鉄"とも言える著者による、鉄道紀行文の最高傑作です。ことあるごとに繰り広げられる無茶苦茶だけれど、ある種、理屈が通っている百閒先生の主張に抱腹絶倒しつつ、何かと世知辛い今の世の中、心の豊かさ、余裕とはかくなることか、と気づかされます。

 

「なんだか何もかもつまんない」と思っている人、ぜひ百閒の随筆(『内田百閒全集』ちくま文庫など)をひもといてみてください。



精講 漢文

前野直彬(ちくま学芸文庫)

「古文」以上に不要論が唱えられている「漢文」。本書は、1966年に刊行された高校生向けの漢文参考書の復刊です。中国文学研究者の泰斗である著者によって執筆された本書は、「受験参考書」という、ある意味「無味乾燥」な枠を超えた、優れた中国史・思想・文学入門となっています。

 

著者曰く「漢文がむずかしい、おもしろくない」のは、「教えかたか教わりかたか、どちらかがおかしいからだ」。嗚呼、むべなるかな。(ちくま学芸文庫では、小西甚一『古文研究法』などもお勧め。昔の受験参考書は、かくも香り高きものだったのか、と感動します)

 


 先生に一問一答

Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

ドイツ。自然・歴史・食・音楽・人々の物の考え方…「質実剛健」「堅実」とイメージされるこの国のあり方に惹かれるから。

 

Q2.大学時代の部活・サークルは?

ワンダーフォーゲル部。各学年とも女子はほぼ一人。山行の前は、"駅カン"と称し、駅で寝袋にくるまって泊まり(要するに野宿)、山では10キロ以上のザックを背負い、何日間も着替えナシ、風呂ナシが当たり前。どんなに辛く険しい道でも、一歩一歩進めば必ずゴールにたどり着く。人間の脚って大したもの。下界―日常から離れた、最高に贅沢な空間・時間だった。

 

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

『源氏物語』をモチーフにデザインされた、着物展示会における解説バイト。着物の説明ではなく、『源氏物語』に関する専門的なことを答えるというもの。世の中の『源氏』好きの女性達の実態?を知ることができた。

 

Q4.研究以外で楽しいことは?

マラソン。自己ベスト更新・国際大会参加資格ゲットを目指し、研究以上に励む日々。「文武両道」がモットーです。

 

Q5.会ってみたい有名人は?

(NHK総合「チコちゃんに叱られる!」のMC)チコちゃん。ボーッと生きている自分に活を入れてもらうとともに、その飽くなき好奇心・柔軟な発想力の源を伝授して欲しい。

 

趣味であるマラソン大会にて。ゴール直前、ラストスパート時の一枚。

(2019年 下関海響マラソン)