【人文地理学】

都市再生

空き家リノベーションで、寂れた街を再生しよう

武者忠彦先生

 

信州大学

経法学部 応用経済学科(総合人文社会科学研究科 総合人文社会科学専攻)

 

 出会いの一冊

かくかくしかじか

東村アキコ(集英社)

人気漫画家の清々しいほどにリアルな自伝的漫画です。作者の東村さんは、高校時代に出会う絵画教室のスパルタ先生に、ひたすら「描く」ことを強いられます。そんな先生に反発し、現実から逃避し、それでも描き続けて漫画家になった東村さんは、大人になって初めて先生の「描け」という言葉の正しさを知るのです。

 

アイデア勝負と思われがちな研究の世界も、結局は論文を「書く」ことがすべてです。書いては悩んで、逃げて、それでも書き続けられる人がクリエイターになれる。これはどんな分野にも当てはまることかもしれません。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

空き家リノベーションで、寂れた街を再生しよう

なぜまちづくりはうまくいかないのか

いま、日本の多くの都市では街の真ん中が寂れています。駅を降りると、駅前の広場には看板だらけの似たような風景が広がり、広場から伸びる通りの商店街はシャッターが下りたままです。

 

きちんとした都市計画を立て、莫大な金額を投入して開発したにもかかわらず、このような街ができあがってしまったのです。なぜでしょうか。

 

工学的な考え方の限界

 

私はその原因のひとつに、都市計画にひそむ工学的な思考があると考えています。ここでいう工学的思考とは、「商業施設+広場=賑わいのある空間」のように、正しい機能やデザインを「入力」すれば、望ましい都市空間が「出力」されるという法則的な考え方です。

 

しかし、現実の都市はもっと複雑です。例えば、どこにいくつ公園を造れば最適な都市になるといった設計者や管理者の視点だけでなく、それぞれの公園を誰がどのように利用し、日々どんな関係が生まれるのかという、利用者や生活者の視点も必要です。

 

一人ひとりの行動から考える都市再生

 

そこで、人文科学的な思考の出番です。最近では、空き家のリノベーションが街のあちこちで生まれ、中心市街地の価値を高めている事例が増えてきました。このように小さな空間の使い方が周辺に連鎖していく動きに、私は日本の都市再生の可能性を感じています。

 

彼らが場所をどう使い、そこでどんな関係を築き、それが街全体にどう波及しているのか。そうしたメカニズムを人文科学の立場から考えるのが,私の研究テーマです。

 

長野市善光寺門前「東町ベース」 文房具問屋の倉庫がリノベーションによって店舗兼シェアオフィスに転換され,新しい暮らし方が生まれつつある。
長野市善光寺門前「東町ベース」 文房具問屋の倉庫がリノベーションによって店舗兼シェアオフィスに転換され,新しい暮らし方が生まれつつある。
 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

中心市街地の再生は、短期的に見れば、都市の成長や都市住民の利便性に対してマイナスに作用する場合が多いものです。しかし、都市の持続可能性という評価軸で見れば、必要不可欠な取り組みであり、そのためにリノベーションを軸としたボトムアップ型の再生手法は有効なアプローチであると考えています。

 


◆先生が心がけていることは?

 

地方都市に住んでいるが、移動はできるだけ公共交通か自転車を使っている。

 

 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「リノベーションによる中心市街地再生プロセスの研究」

詳しくはこちら

 

 どこで学べる?

「人文地理学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

20.文化・文学・歴史・哲学」の「81.地域研究、文化人類学・民俗学」

 


 先生のゼミでは

地域を理解するのが高校までの「地理」、地域を理解するための知識を生み出すのが大学の「地理学」です。信州大学経法学部武者ゼミでは「信州まちなみスタディーズ」と称して、生み出した知識を書籍やブックレットにまとめています。

  

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
これまでゼミで学生と一緒に刊行してきた出版物。各地のフィールドワークの成果がまとめられています。
これまでゼミで学生と一緒に刊行してきた出版物。各地のフィールドワークの成果がまとめられています。
 先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

 

(1) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等

(2) 金融・保険・証券・ファイナンシャル

など

 

◆主な職種

 

(1) 事業推進・企画、経営企画

(2) 経理・会計・財務、金融・ファイナンス、その他会計・税務・金融系専門職

など

 

◆学んだことはどう生きる?

 

高齢化が進む中山間地域で、大工として活躍している卒業生がいます。人文地理学を学んでなぜ大工なのかと思うかもしれませんが、その地域の風土や生活に適した建築を作るためには、建築技術もさることながら、地理学的な知識やセンスを活かすことができます。さらに、働くだけでなく、地域で暮らしていくためには、フィールドワークで培った地域社会に対する洞察力が活かされています。

 

 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

耳をすませば(映画)

近藤喜文(監督)

もはや内容の説明がいらないぐらい人気のあるジブリ作品ですが、実は都市の「郊外化」という現象を知るための良い教材でもあります。冒頭2分ほどだけでも、遠くに見える都心、通勤電車と駅前商店街、丘を切り開いたベッドタウン、核家族の住む団地など、大都市郊外の風景や社会を象徴するシーンがいくつも出てきます。地理の教科書の「都市」に関する部分を読んでから、観てみてください。また違った見方ができるはずです。



地域再生の失敗学

飯田泰之、木下斉、川崎一泰、入山章栄、林直樹、熊谷俊人(光文社新書)

都市計画や地域づくりというと、明るい未来志向の学問のように思われがちですが、実際には「なぜ計画通りに進まなかったのか」という失敗研究の視点が重要です。この本では、従来の地域づくりがなぜダメなのか、様々な分野の若手論客が、講義と対談の形式で語りかけています。

 


 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

学部時代に挫折した数学にもう一度挑戦したい。

 

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

イタリアやフランスの地方都市。歩いて暮らせる都市の規模と、景観の美しさ。

 

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

 不動産仲介の窓口業務。間取り図を眺めるのが好きでした。