【教科教育学】

栽培学習

生ごみから肥料を作って、野菜を育て食する授業で物質循環を体感

浅野陽樹先生

 

鹿児島大学

教育学部 学校教育教員養成課程(教育学研究科 教育実践総合専攻 理数・環境系学修コース)

 

 出会いの一冊

日本人にとって自然とはなにか

宇根豊(ちくまプリマー新書)

世界に誇るべき、日本人の自然に対するまなざしを知ることができます。日本人の自然に対する考え方や関わり方が、美しい里山の原風景や生物多様性を維持してきたことを感覚的に理解できます。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

生ごみから肥料を作って、野菜を育て食する授業で物質循環を体感

研究と教育両面で、日本の食料生産に貢献したい

「地球温暖化、酸性雨、食料安全保障……、なんだか世の中大変な未来になりそうだ……。将来はこんな問題に何かしら貢献できる仕事に就きたいな」。私の中高校生時代の想いです。

 

この想いは、大学院進学の頃には、研究と教育の両面から国内の食料生産に貢献したいという熱意と決意に育ちました。

 

農学研究から、物質循環とその教育へ

 

その後、飼料作物生産や家畜糞尿処理に関わる農学的な研究に携わりましたが、同時に、いつかは諸問題の根本にある物質循環とその教育について研究したいと思う気持ちが、日に日に増していったのを覚えています。現在は、幸せにも、作物栽培を通して物質循環を体験的に学習できる教材の研究に取り組むことができています。

 

小学校の総合学習を研究対象とし、1学期に生ごみから堆肥(コンポスト)を作り、2学期に肥料ができたこととその効果を簡単な実験で調べ、2学期から3学期にかけて自ら作った肥料で野菜を栽培、収穫、そして食するといった、一連の学習方法の確立を目指しています。

 

既知の科学を活用する応用研究の面白さ

 

学校の先生が専門家のサポートがなくても実践できる指南書を提案するために、コンポスト化方法の省力化、肥料効果の簡易的な生物検定法の開発、実践が失敗に陥る条件の解明、効果的な指導法の確立について研究しています。

 

世紀の大発見につながる可能性は極めて低いと思いますが、既知の科学を活用する応用研究としてのやりがいや面白さに満ちており、様々なハプニングも含めて、充実した研究生活を送っています。

 

コンポストを活用して袋栽培したダイコンの終了調査
コンポストを活用して袋栽培したダイコンの終了調査
 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

SDGsの目標2.「飢餓をゼロに」では、持続可能な食料生産システムの確保を掲げています。対する日本の食料生産システムはというと、有限でリサイクル困難な化石燃料や鉱物資源を大量に消費する生産技術が主流になっています。加えて、食料を中心とする物質の「搬入」>>「搬出」状況が長く続いているため、様々な環境問題も噴出しています。これらの問題解決に対しては、義務教育において食の観点から物質循環を体験的に学習するといった、地道な国民的共通理解の醸成が必要だと考えています。

 


 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「残食の肥料化から作物栽培までを1学年で完結させる物質循環学習教材の開発」

詳しくはこちら

 

 注目している研究者

宇根豊

農と自然の研究所(代表)

改良普及員の頃に成功を収めた減農薬運動の経験をもとに、自ら農業を営みつつ、百姓の立場から自然と人間の関係、社会のあり方、人の生活と価値観等について研究しています。農業技術を評価する際の多様な視点を学びました。

農と自然の研究所HP


内山節

NPO法人森づくりフォーラム(代表理事)

自ら農業を営む、農業哲学者です。日本人の根底にある価値観や社会のあり様を風習やくらしの中から発見し、明らかにしています。食料を生産することの意味を、多角的に考えるようになりました。

TAKASHI UCHIYAMA officialwebsite


吉田俊道

NPO法人大地といのちの会

植物本来の力を引き出す栽培法について、菌の力を最大限に活用した手法で研究しています。同時に農家でもあります。作物生産における菌活用の重要性を再認識させられるとともに、現代においても無化学肥料・無農薬栽培が実現可能なことを教えていただきました。

大地といのちの会HP

 


 どこで学べる?

「教科教育学」が学べる大学はこちらみらいぶっくへ

 

その領域カテゴリーはこちら

「21.教育・心理」の「85.教科教育、教育指導法、特別支援教育」

 


 先生の講義では

◆講義「栽培学」の初回では

 

人の生は食べ物である植物に支えられています。お肉としていただく動物も植物を餌にして育ちます。さらに、食べ物そのものを作り出すのは植物です。だからこそ、植物そのもののこと、その生育環境のこと、私たちの手の加え方を学ぶ必要があるのだということを話します。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
栽培実習での田植えの様子
栽培実習での田植えの様子
 先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

 

(1) 小・中学校、高等学校、専修学校、各種学校等

(2) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等

(3) 学習支援(塾、フィットネスクラブ、各種教室、通信講座等)

 

◆主な職種

 

(1) 小学校教員

(2) 中学校・高校教員など

 

◆学んだことはどう生きる?

 

卒業生の多くは教員になります。学校現場に数年身を置いて慣れてくると、卒業論文や修士論文で研究したテーマを実践し始めます。卒業生の実践にゲストティーチャーとして関わったり、共同で研究したり、あるいは相談に乗ったりすることも多いです。具体的には、小学校総合学習の生ごみのコンポスト化学習、中学校技術科の土づくり学習、同栽培技術開発などの教育実践に活かしています。

 

 先生の学部・学科は?

小・中学校の栽培学習に関連する教材を研究している研究者は、全国的に多くはありません。農学分野の研究実績があり(専門性が高く)、かつ教材研究を専門にしている研究者はさらに少ない状況です。小学校教員にとって栽培学習は必須ですが、学校教育を念頭に置いた栽培技術を学べる学部も限られています。また、研究について、栽培に関わる教材開発を農学的見地からアプローチできる点が強みになっています。

 

花壇造成実習
花壇造成実習
 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか

内山節(講談社現代新書)

日本人の助け合いの精神の原点を、また日本人の価値観を築いた礎を、昔ながらの田舎の人々の生活や風習を通して考え、知ることができます。日本人の心を知りたい人、現代社会の希薄な人間関係を憂いている人に読んでほしいです。



文明の生態史観

梅棹忠夫(中公文庫)

日本の経済や生活水準の発展について、生物の世界に見られる生態的な視点から考察する点が面白いです。生物の世界の原理や仕組みが、実は世界の様々なところに共通していると面白いと感じる人におすすめです。

 


 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

土壌学です。「身土不二」という言葉にもあるように、人の体は元をたどれば「すべて土に同じ」で興味を引かれます。さらに土壌は複雑多様で、現在でも未解明の事象が無限に残されていてワクワクするからです。

 

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

東南アジアの田舎町です。主食が米で稲作文化なので、自然とともに生きることを実感できそうだからです。

 

Q3.一番聴いている音楽アーティストは?

かりゆし58、THE HIGH-LOWS。THE BLUE HEARTSの『歩く花』は、いろいろな常識に惑わされて自分の中の大切なものを見失っていないか、考えなおすきっかけになります。

 

Q4.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『ブレイブハート』です。騙されていることがわかっていても、自分に嘘をつかずに信念を通す行動に感動です。おそらく自分には無理ですが…。

 

Q5.熱中したゲームは?

『ファミリースタジアム』、『ぷよぷよ』、『ダービースタリオン』、『麻雀』、『三国志』