【環境動態解析】

水質悪化

有明海の水質悪化の原因を、多様な専門家チームで究明

速水祐一先生

 

佐賀大学

農学部 生物資源科学科 食資源環境科学コース

 

 出会いの一冊

われらをめぐる海

レイチェル・カースン、訳:日下実男(ハヤカワ文庫NF)

レイチェル・カースンは『沈黙の春』で有名な科学ライターですが、元々は海洋学者です。海洋学は海に関する物理学・化学・生物学・地質学等を含んだ広範な総合科学です。本書は、そのような海洋学をわかりやすく魅力的に紹介した書籍です。内容は少し古くなってはいますが、海洋学という学問の豊穣な世界を、絵画のように描き出しています。


 こんな研究で世界を変えよう!

有明海の水質悪化の原因を、多様な専門家チームで究明

有明海で二枚貝が大量死

今、有明海では、プランクトンが大発生して赤潮を起こしたり、水中の酸素が欠乏(貧酸素化と言います)して二枚貝の大量死が起きるなど、様々な環境問題が起きています。ノリ養殖を除く漁業生産も減少しています。

 

20年来の水質悪化 未だに原因不明

 

赤潮や貧酸素化、漁業生産の低下といった問題は、東京湾など多くの内湾で起きた現象で、それらは人間活動由来の陸上からの栄養塩類(窒素・リン)の流入増大によるものでした。こうした海域では、窒素やリンの排出削減によって、少しずつ環境は回復しています。

 

しかし有明海では、陸域からの栄養塩流入が増えていないにもかかわらず、同じような問題が起きているのです。有明海の環境悪化が社会問題化して20年になりますが、未だにその原因は不明です。

 

水質の変化に、地球自転運動の影響も

 

私たちは、この問題の原因を解明し、対応策を探すために、海洋物理、化学、プランクトン、微生物、数値シミュレーションなど様々な専門を持つ研究者によるチームを組んで研究しています。

 

多様な研究者が一緒に船に乗って調査を行い、議論する中で、いろいろなことがわかってきました。例えば、有明海奥部の河川では、海で生産された有機物が河口から上流に運ばれて分解され、貧酸素化を引き起こします。水質の10年以上の長期変化に、自転する地球の歳差運動が影響していることもわかってきました。

 

こうした調査や実験でわかった結果を数値モデルで表現し、計算機の中に海の生態系を再現して、環境問題の解決策を探ろうとしています。

 

シャットネラ(藻の一種)による赤潮
シャットネラ(藻の一種)による赤潮
 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

今、世界各地の海で、赤潮の増加や水中の酸素の減少など、人間活動による環境悪化が進んでいます。また、漁獲量の減少も深刻です。こうした問題をストップさせて海の豊かさを守り、環境の回復と持続可能な利用を実現することが求められています。

 

そのためには、普遍的な海洋学の知識はもちろんのこと、地域の特性に合った方策を用いる必要があります。また、海洋生態系の変化を把握するための調査も欠かせません。まずは、皆さん自らがもっと海に関心を持ってください。

 


 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「有明海奥部における物質循環変動機構の解明と環境再生策に関する研究」

詳しくはこちら

 

 注目の研究者や研究の大学へ行こう!

笠井亮秀

北海道大学 水産学部 海洋資源科学科/水産科学院 海洋生物資源科学専攻

【沿岸の海の物理学、環境DNAを使った魚類研究】川の水を汲んで分析するだけで、そこにウナギがいるかどうかを判別しています。現在、日本全国のニホンウナギの分布図を作成中です。

笠井研究室HP


木田新一郎

九州大学 共創学部 共創学科/総合理工学府 大気海洋環境システム学専攻/応用力学研究所 付属大気海洋環境研究センター

【沿岸の海の物理学】沿岸の海の物理学や植物プランクトンの動態について、斬新なモデルによる研究を実施しています。

木田先生のページ


一見和彦

香川大学 農学部 応用生物科学科/農学研究科 生物資源生産学専攻/瀬戸内圏研究センター

【沿岸の海の生態学】干出・冠水を繰り返す干潟域に生息する微細藻類の不思議な生態について、現地調査・実験で解明を進めています。

一見先生インタビューページ(科学技術振興機構)

 


 どこで学べる?

「環境動態解析」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

1.環境・防災」の「2.地球温暖化、環境化学・モニタリング」

 

「水圏生命科学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

8.食・農・動植物」の「28.水産資源、養殖」

 


 先生の講義では

◆講義「有明海学Ⅰ」の初回では

 

ワークショップ形式の授業で、学生一人一人に山から有明海までのグリーンマップを作成してもらっています。これを通して、一連の授業を受ける前の各自の流域に関する認識がどのようなものか、わかってもらえることと思います。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
有明海における海洋調査実習の様子
有明海における海洋調査実習の様子
 先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

 

(1)コンサルタント・学術系研究所

(2)建設全般(土木・建築・都市)

(3)ソフトウエア、情報システム開発

 

◆主な職種

 

(1)基礎・応用研究、先行開発

(2)製造・施工

(3)システムエンジニア

 

◆学んだことはどう生きる?

 

環境コンサルタント会社で、海や陸上の環境の調査、調査データの解析をしている卒業生がいます。大学で学んだ海洋学やプログラミングの知識が仕事でも役立っているようです。卒業論文、修士論文を書いた経験は、報告書作成にも役立っていると思います。また、海の調査を行うためには、事前の準備(人の手配、物品の準備、移動方法の確保等)の段取りをつける能力が鍛えられます。これが最も仕事に活かせるスキルかもしれません。

 

 先生の学部・学科は?

日本で海洋学を学ぶことができる大学は少ないです。なかでも、海洋物理学から化学、生物学まで総合的に学べる大学は、東京大学、京都大学、北海道大学、東京海洋大学等に限られます。

 

佐賀大学農学部は小さな大学のため、総合的な海洋学を学ぶことは難しく、沿岸海洋の環境や干潟の科学に限られます。そのかわり、海だけではなく陸上の環境、農地を含めて広く学ぶことが可能です。大学に入学してからでも、物理系、化学系、生物系などの広い選択肢があります。

 

 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

チェンジング・ブルー 気候変動の謎に迫る

大河内直彦(岩波現代文庫)

気候変動研究について、一編のドラマのように描き出した書籍です。研究成果だけでなく、そこにいた研究者が生き生きと描かれています。実際のサイエンスの現場は、喜怒哀楽を持つ人間の日々の行いの集積です。こうした研究の現場の雰囲気を、ぜひ知ってください。 



科学の方法

中谷宇吉郎(岩波新書)

科学とはどのようなものか、科学的研究とはどのように進めるのか、科学の特徴や限界とはなど、例を示しながらわかりやすく解説されています。1958年初版の古い本ですが、内容は古くありません。自然科学・工学系に進む方は、ぜひ読んでください。



日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で

水村美苗(ちくま文庫)

現代社会では、多くの仕事が世界を相手にしなければならず、その時の共通語は英語です。幸いにも日本には「日本語」で学ぶことができる大学があります。しかし、そこを卒業すると、母国語として英語で考える人々と競争していかねばなりません。そのことの深い意味を知ってほしいです。



苦海浄土 わが水俣病

石牟礼道子(講談社文庫)

水俣病に巻き込まれた人たちと、かつて八代海にあった豊かな海・幸せな共同体を対比させ、詩的に描いた作品です。環境問題は自然の中で発生する問題であると同時に、人間社会、そして人の精神における問題でもあります。

 

そのことは、ドキュメンタリーではなく、この本のような書き方で初めて感じることができるものでしょう。ぜひ一読してみてください。

 


 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

水産学

 

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

ここ何年かは、シンガーソングライターのヴィエナ・テンを聴いています。 

 

Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『惑星ソラリス』

 

Q4.大学時代の部活・サークルは?

ワンダーフォーゲル部

 

Q5.研究以外で楽しいことは?

写真・カメラ