【教科教育学】

美術教育

地域社会をひらくメディア&コラボレーション -人が生きる場を創る未来の美術教育-

赤木恭子先生

 

熊本大学

教育学部 中学校教員養成課程(教育学研究科 教科教育実践専攻)

 

 出会いの一冊

コミュニティ・アートプロジェクト ゼロダテ 絶望をエネルギーに変え、街を再生する

中村政人(特定非営利活動法人アートNPOゼロダテ)

秋田のアートプロジェクト「ゼロダテ」の実践記録。地方でアートプロジェクトを立ち上げ、街と人を活性化させていく7年間の経緯が簡潔に記されています。「シャッターを閉めること→店を閉じること→心を閉ざすこと→閉じた街を開く活動の企画へ」など。アートが社会と結びつき、人が何かを創ろうとする中で意味づけられ、協働的に育まれていく場所と時間が描かれています。

 

生活の質の向上、地域活性化、教育プログラムの開発等、複合的な視点から長期的スパンで街の発展に資する活動には、これからの時代を担う人材育成や持続的な市民形成に役立つアイデアが詰まっています。アートプロジェクトや社会的役割を担う美術教育の入門書としても有用です。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

地域社会をひらくメディア&コラボレーション -人が生きる場を創る未来の美術教育-

地域と関わり、学校や企業他と連携・協働するアートワーク

美術教育(美術や芸術を通した人間教育)には、「つくること」を通して、人生や社会に対して自ら主体的に関わり、周囲と協働しながらそれぞれの生きる力を高めていける創造的な視野があります。

 

私はこれまでの研究で、学校(小中高大他)や企業、施設、地域の方たちと連携・協働し、メディア(物事のつながり)を読み解くためのアートワークやプロジェクトを構想し、実践してきました。

 

中3生と協働「自分のルーツを見つめる美術展」開催

 

中学3年生と大学院生が協働して美術展のミニモデル(模型)を考案し、実際に美術館に作品を展示する企画、「Roots 私の美術展」。‘戦争と平和、癒やし空間、怖い、家族’など、マイノリティやマジョリティの感覚から出発した「‘美しい’を探す場のデザイン」は、中学生の等身大の想いや悩みが洗練され、これを鑑賞する市民とともに「自分のルーツを見つめる美術展」へと結ばれました。 

 

マインクラフト(3Dシミュレーションゲーム)を使った地域の歴史的な建造物や特産品を紹介する美術館ツアーの企画では、仮想と現実を往き来するマルチタスクの中で、独自のキャラクターや実際の都市形成を自由な発想でプロデュースし、郷土の良さを振り返る場が導かれました。

 

七夕に、街を美術館に見立てて飾り、地域性を活かしたあかりを灯す熊本地震の復興支援活動「星あかり」。小さな星の灯りがつながる場所で、街の歴史や情緒に共感し、復興への思いが地域の人々の夢や希望と重なる瞬間を創りました。

  

「美術館」という視点を持った三つのアプローチ。それぞれに「つくること」からイメージを広げ、私たちが生きて暮らす場所にある様々な出来事をつなぎ、輝かせる美的なメディア(媒体)を得て、個々人の心の成長に至るアクティブな学びのプロセスが生み出されています。

 

先端芸術を取り入れた学修モデルの開発と実践を目指して

 

AI技術の発展等、急速な情報化を背景に、人の感覚やつながりが多様化する反面、薄まってもいく現代。美術教育には今、こうした時代の特性を活かし、社会的な役割を果たすイノベーティブ(革新的な発想を獲得できる)な思考や、物事との深いつながりを見出せる対話的な学びのあり方(学修)が、明日を担う子どもたちや教育者に向けて、また人材育成の基盤として望まれています。

 

悩み多き十代に、サブカルチャーへの興味から始まった「視覚的なイメージやテクノロジーを介する人間科学を巡る旅」は、今日、映像制作やメディアアート等の先端芸術を取り入れながら、国際水準の学校間連携活動、地域社会を拓く学修モデルやネットワークの開発へ進んでいます。

 

私はこの研究で、地域社会での協働や連携を通して個々人が新たな価値を創造し、世界を拓いていく「生き方」を見出せるような‘対話の場(=メディア)’を探り、未来に向けた人間の統合的な資質や能力の育成に寄与したいと考えています。

 

2019年 図工の授業風景① ブラジル Campinas大学教授との国際交流より

「世界の子どもたちとリサイクルアート」について英語で講義中

左:Paulo Cesar S. Teles教授、右:アテンド通訳 山本 ゆかり氏

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

美術教育には「つくること」を通して、人生や社会に対して自らを主体的にアクティベートし、周囲と協働しながら高めていける創造的な礎があります。発想や構想、美的な感性に基づく想像的な視点は、生涯にわたる全人的な教育において、心の豊かさを育む一要素として技術革新を支え、より良い地球環境や住環境を持続可能なものへと導く契機になるでしょう。このような展望を実現するためにも、美術教育には今、次世代の人間形成に関わる‛資質・能力を陶冶し得る社会的な役割’を見つめ直していくことが求められています。

 

 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「地域社会を拓く学校間連携による場の創出と美術教育における対話的な学修に関する研究」

詳しくはこちら

 

 影響を受けた研究者

長田謙一

東京都立大学 システムデザイン研究科 客員教授

【芸術学】地域と結びついた芸術活動に対する考察、アートプロジェクトの研究等から影響を受けました。ドイツ系の思想に基づく幅広い芸術に関する理論と実践の示唆は、現在の私が携わるアートと地域社会を結ぶプロジェクトを支える考察の指針となっています。

長田先生のページ


小野康男

横浜国立大学 名誉教授

【美学・芸術学】フランス系の美術理論の研究、現代思想に基づくメディアやイメージに関する理論考察は、私の研究の礎となっています。

小野先生のページ


宮坂元裕

横浜国立大学 名誉教授

【美術教育(教育現場と美術教育の関わり、教科指導について)】歴史的・実践的な立場から教育学や教科教育学を展開する文脈に、カリキュラムや教材をオーガナイズする視点を得ました。

宮坂先生のページ

 


 どこで学べる?

「教科教育学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

21.教育・心理」の「85.教科教育、教育指導法、特別支援教育」

 


 先生の授業では

授業名「図画工作ロ組」の最初の講義では

 

「無知の知」という言葉もありますが、学問は奥深く、自分がまだ触れたことのない世界がたくさ

ん広がっています。知らないから新しい発見や面白さがあります。知らない自分を知り、「知的好

奇心を持って学びの場を冒険し、自分の成長につなげよう!」という話題と共に、実際に、廃材を組み合わせて元の材料とは異なる意味を持った教材を創るなど、新しい知見を獲得する図工体験を実践しています。

 

この授業の参考文献は、美術手帖編集部『わくわく図工室にいこう!』1~3巻です。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう

2019年 図工の授業風景②

熊本地震の復興支援活動を七夕の行事に重ねたアートプロジェクト「星あかり」の実践から

<写真上>授業風景①の取り組みに関連して、廃材を活用した手作り教材やセンサー、

アニメーションなどのメディアによる総合的な環境構成に挑戦した。

<写真下>牛乳パックと染色和紙で‘ふるさとの思い出’を建物に見立てて創作。

灯りをともし熊本の街並みを表現し、心を紡ぐインスタレーションを実施した。

 先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

 

(1) 小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等

(2) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等

(3) 商社・卸・輸入

 

◆主な職種

 

(1) 小学校教員、中学校・高校教員など

(2) 総務

(3) 営業、営業企画、事業統括

  

 先生の学部・学科は?

大学全体の特色としては、グローバル教育、世界に開かれた地域を牽引する学び等が挙げられます。以上に基づき、教員養成系の学部(学科)としては、高度の教育実践力を備えた学校教員や教育者の育成の他、広く、教育に関わる学びが獲得できます。近年では、情報化に対応した教育も展開しています。教員養成を目指す美術系の学科としては、私が専門とする教科教育学と共に、専門領域として教員養成に必要な各種実技科目も学べます。

 

 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

風の谷のナウシカ(映画)

宮崎駿(監督)

スタジオジブリを立ち上げた宮崎駿監督制作のアニメーション。自然破壊、戦争、善悪の是非、過去・現在・未来、民族、伝説的な物語、マイノリティ、個性といった概念。その他、キャラクターデザイン、アニメーションとしての動き、色彩表現、音響、声優の演技等、脚本・構成・演出を踏まえた、総合的な「芸術作品」としても見ることができると思います。

 

鑑賞者に、他者と関わり生きる人間について、多岐にわたる発想の糸口を与え、新たな気づきや価値観に触れさせる要素のある名作です。私自身、中学生の時、この作品に出会い、思春期の私の生き方に世界観を重ねて、勇気づけられた思い出があります。



君の名は。(映画)

新海誠(監督)

コンピュータを活用したアニメーションによるリアリティの追求、美的な表現、謎解き要素もある緻密な脚本構成と、音響を含む演出が魅力的です。鑑賞者の現実世界とリンクするような、場所や時間交錯の演出が面白い作品です。アニメーションという一方向的なメディアを通したコミュニケーション理解の一助となる要素があります。



ART SCIENCE IS. アートサイエンスが導く世界の変容

塚田有那(ビー・エヌ・エヌ新社)

「アートは問題提起、デザインは問題解決。ダイナミックな発想を持てる人を教育する。」書籍より抜粋。現代のアートとサイエンスの関係を簡潔にわかりやすくまとめた書籍です。専門用語で難しい表現もありますが、写真とトピック(大きな文字)を追うだけでも、それぞれのテーマから、未来に向かう教育のビジョンも読み取ることができるでしょう。人間科学や先端アート、世界と関わるキュレーター的な視点に興味がある人は読んでみてください。

 


 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

社会学、情報工学、建築学。テクノロジーを活かした建築や住環境をデザインしたいです。

 

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

フィンランド。教育や福祉が優れているとされる実情を体験したいです。北欧デザインにも触れてみたいです。

 

Q3.一番聴いている音楽アーティストは?

Perfume。科学と芸術が融合し、人の情感に入り込むような演出や映像表現が魅力的です。

 

Q4.熱中したゲームは?

『Detroit: Become Human』、PS4のソフトウェアです。ストレートなシナリオで、3DCGのリアルな表現、アンドロイドと人間の感情の往き来が面白いです。

 

Q5.研究以外で楽しいことは?

撮影旅行です。趣味と実益を兼ねますが、現地取材を交えた映像や音響制作に興味を持っています。