【日本史】

総力戦と日雇労働

戦時中の日雇労働者の過酷な境遇に光をあてる

佐々木啓先生

 

茨城大学

人文社会学部 人間文化学科(人文社会学研究科 文化科学専攻)

 

 出会いの一冊

この世界の片隅に(漫画)

こうの史代(アクションコミックス)

アジア・太平洋戦争中の広島県呉市に生きた「普通」の女性の物語。戦時下の社会を生きていた人たちの日常風景や生活感覚、あるいは潜在的な意識のありようについて、やわらかくも緊張感のあるタッチで描いています。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

戦時中の日雇労働者の過酷な境遇に光をあてる

「弱い立場」にいる人々の戦争体験

私はこれまで、戦中・戦後という過酷な時期の日本社会で、人々が何を考え、どのように生きていたのかに関心を持ち、研究を進めてきました。食糧不足や物資不足、空襲による破壊や肉親との死別など、当時の人たちが多くの苦難の中で生きていたことは、よく知られています。テレビドラマや映画のなかでも、戦時下の人々の姿は繰り返し題材にされ、様々な形で苦労する姿が描かれてきました。

 

しかし、そうした苦難は誰にとっても同じように、平等に降りかかってきたわけではありません。社会の中で「強い立場」にいる人と、「弱い立場」にいる人とでは、その体験は大きく異なっていました。

 

私が現在研究対象にしているのは、そうした「弱い立場」にいる人々の中でも、日雇労働者の人たちの戦争体験です。

 

不安定雇用、低賃金、居住地不定の悪条件

 

日雇労働者とは、長期的に同じ企業に雇われず、短期の就労を繰り返す労働者のことで、土木作業や港湾での荷物の積み下ろしなど、主に肉体労働に従事した人たちのことを指しています。

 

これらの人々は、不安定雇用や低賃金など悪条件の下での労働を余儀なくされており、居住する場所も定まっていないことが多かったとされています。こうした日雇労働者の人たちが、戦時中にどのような境遇に置かれたのかについては、これまでほとんど研究がありませんでした。私はその実態を明らかにすることで、戦時期の日本社会のあり方について、新たな視座を提示したいと考えています。

 

 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「戦時期日本の日雇労働者についての基礎的研究」

詳しくはこちら

 

 どこで学べる?

「日本史」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

20.文化・文学・歴史・哲学」の「83.史学、考古学」

 


 先生のゼミでは

ゼミに配属された時に話すこと

 

E・Hカーの『歴史とは何か』を引いて、「歴史とは山のようなものである」と説明しています。山は角度によって見え方が異なるもので、自分に見えている山はその一つに過ぎません。できる限り多くの見方を学ぶことが大事だと思う、という話をします。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう

第14回茨城大学人文社会科学部地域史シンポジウム「茨城における戦争の記憶とその継承」

におけるゼミ生たちの報告の様子(2019年2月)

 先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

 

(1)官庁、自治体、公的法人、国際機関等

(2)金融・保険・証券・ファイナンシャル

(3)不動産、賃貸・リース

 

◆主な職種

 

(1)コンテンツ制作・編集<クリエイティブ系>

(2)サービス・販売系業務(店長・マネージャーも含む)

(3)システムエンジニア

 

◆学んだことはどう生きる?

 

地方自治体の学芸員や文化財担当職員として働いている卒業生がいます。地域の歴史について調査したり、文化財を保全・公開して、広く社会に共有したりする仕事をしています。他の分野でも、多くの卒業生が、授業で学んだ史料の読み方や歴史的な思考力を活かして活躍しています。

 

 先生の学部・学科は?

人文社会科学部人間文化学科は、文芸・思想、歴史・考古学、心理・人間科学といった3つのメジャーで構成されています。いずれのメジャーも多様な専門領域の教員がいる点が特色といえます。例えば歴史・考古学メジャーには、日本史3名、世界史4名、考古学2名の教員がいます。地方国立大学でこのぐらい多様な地域・時代をカバーしているメジャーは、あまり多くはないと思います。

 

 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

日本の軍隊 兵士たちの近代史

吉田裕(岩波新書)

戦前日本の軍隊とは、民衆にとってどのような存在だったのか。従来の軍事史や戦争史では必ずしも見えてこなかった、民衆の目に映る軍隊の姿を、多様な史料から浮き彫りにしていく傑作です。



給食の歴史

藤原辰史(岩波新書)

私たちにとって身近な「給食」はどこからきて、どこへ行こうとしているのか。給食の「恐ろしさ」と「可能性」について、過去の様々な体験をひもときながら考察していきます。



ハマータウンの野郎ども

ポール・E・ウィリス、訳:熊沢誠、山田潤(ちくま学芸文庫)

対象は1960年代のイギリス。労働者階級の家庭に生まれた少年たちがどのような世界観を持ち、どのように生きていこうとしていたのかを探っていく、古典的名著です。学校で教わる「正しさ」とは真逆の、一般的には「不良」と呼ばれるようなふるまいや考え方、価値観が、どのようにして成り立ち、繰り返されているのかを浮き彫りにしていきます。

 

読み進めていくうちに、学校で良い成績を取り、受験競争に勝ち抜き、人生の「勝ち組」に…という私たちの社会の価値観を問い直さずにはいられません。社会的に下層とされた人びとの世界について考えていくための大切な視点を与えてくれる本です。

 


 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

医学。身体や生命の仕組みは本当に不思議。もっと深く知りたいと思うので。

 

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

韓国。軍事政権と戦って民主化を成し遂げてきた人々の気風に学びたい。食べ物もおいしい。

 

Q3.大学時代の部活・サークルは?

登山。北海道から九州まで、いろいろ登りました。

 

Q4.研究以外で楽しいことは?

ジョギング。ゆっくりと、景色を眺めつつ、考えごとをしながら走るのが楽しいです。