【教育心理学】

善悪判断

他人の善悪を何で判断するか

米田英嗣先生

 

青山学院大学

教育人間科学部 教育学科(教育人間科学研究科 教育学専攻)

 

 出会いの一冊

発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち

本田秀夫(SB新書)

タイトルに、「発達障害」とありますが、日常生活でしんどいなと感じたことのあるすべての人に読んで欲しい本です。著者は第一線の児童精神科医であることから、発達に困難を抱えている方々の症例も豊富で、とてもわかりやすい本です。

 

私の専門は、多数派の人とは一味違った発達の仕方をしている子どもや大人の共感性や社会性についての研究です。従来、多数派の視点から見て「共感性がない」と言われたり、「社会性に問題を抱えている」と診断されてきたのが、「発達障害」です。本書を読むことで、多数派の人とは一味違った発達の仕方を持った人たちの視点に立って、世界をとらえなおすことができるようになるかもしれません。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

他人の善悪を何で判断するか

生まれながらに善なのか、悪なのか

私は、「児童から高齢者を対象とした善悪判断の心理メカニズムの解明とその支援」というテーマで研究をしています。善悪とは何か、古くから多くの人によって考えられてきたテーマです。例えば、人間は生まれながらに善であるのか(孟子の「性善説」など)、悪であるのか(荀子の「性悪説」など)といった問題は、現代でも重要な研究課題として研究されています。

 

人間は善と悪両面を抱えている

 

善と悪は一人の人間の中に両方存在していて、完全な善や完全な悪は存在しないと私は考えています。普段は利己的(自分本位に考えるなど)ですが、ある状況では利他的に行動する(人助けをするなど)ことがあります。あるいは、普段は利他的ですが、ある状況では利己的に振舞うことがあります。

 

善悪両面を抱える他人について考える際に、その人は自分にとって良いかどうかを判断する際に、普段の特性から考えるのか、それとも状況に基づいた行動から考えるのかなどを明らかにすることが、私の研究テーマです。

 

きっかけは高校時代の人間関係の悩み

 

こうした研究を始めようと思ったきっかけは、高校生の時に(今でもですが)対人関係に苦労したことが根底にある気がしています。高校生の頃は悩むことしかできなかった問題でしたが、研究者になれたことで、小学生から高齢者まで多くの世代からデータを集め、統計手法を使ってデータを分析し、人間の心について実証的に考えられるようになりました。

 

将来的には、人間の善悪判断を実装するAIを開発することに貢献したり、良い人のふりをする悪い人から私たちを守る、詐欺被害防止システムの構築につなげられたらと考えています。

 

日本認知科学会のサマースクールでの講義。2018年8月28日、立命館大学OICセミナーハウスにて。
日本認知科学会のサマースクールでの講義。2018年8月28日、立命館大学OICセミナーハウスにて。
 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

紛争解決という課題に対して、他者理解という側面から貢献できるかもしれません。紛争が起こる原因は多岐に渡ると考えられますが、原因の一つとして、他集団に対する考え方の違いがあると考えられます。私たちは、自分と類似している他者を選好するバイアスがあり、多数派の人は少数派の人に共感しにくいのですが、少数派の人同士では共感し合えるということがわかってきました。

 

自分と異なった視点で物事を理解することの困難さと素晴らしさを、研究を通じて伝えることができます。自分と違う他者を受け入れ、理解することが可能になれば、紛争問題を解決し、平和と公正をすべての人に提供する手がかりをもたらすかもしれません。

 


 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「児童から高齢者を対象とした善悪判断の心理メカニズムの解明とその支援」

詳しくはこちら

 

 どこで学べる?

「教育心理学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

21.教育・心理」の「87.教育心理学、社会心理学、実験心理学」

 


 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
日本心理学会の一般公開シンポジウム。2018年11月17日、青山学院大学青山キャンパスにて。
日本心理学会の一般公開シンポジウム。2018年11月17日、青山学院大学青山キャンパスにて。
 先生の学部・学科は?

教育人間科学部教育学科は、教育哲学、教育史、教育方法学、教育社会学、高等教育研究、教科教育学、音楽学、美術教育、幼児教育学、保育学、教育情報学、図書館情報学、情報教育、生涯学習論、社会教育学、スポーツ科学、応用生理学、小児科学、臨床精神医学、認知科学、特別支援教育、教育心理学などの分野で、優れた先生がいらっしゃいます。

 

教員養成大学以外では珍しく、幼稚園、小学校、中学校、高等学校の教員免許を取得できるのが特色です。最近は、教員を志す学生さんが減ってきていますが、教育に限らず、人間についての学問を広く学べるのが強みであると思います。3年生になったらゼミに配属され、各自の興味に応じて専門分野を深く学べます。

 

 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

フィリップ・K・ディック、訳:浅倉久志(ハヤカワ文庫SF)

現在、第3次AIブームの中に私たちは生活していますが、第1次AIブームにあった1968年に出版されたこのSF小説は、AIと人間の違いについて深く考えさせてくれる不朽の名作です。AIに興味がある人はもちろん、共感性とは何かについて興味がある人にもお勧めできます。



グローバル化時代の大学論1 アメリカの大学・ニッポンの大学 TA、シラバス、授業評価

苅谷剛彦(中公新書ラクレ)

今では日本でもおなじみになったTA、シラバス、授業評価について、アメリカの大学と日本の大学の比較に基づいて書かれています。教育社会学者による高等教育における日米比較論になっていて興味深いです。

 

高校生の皆さんには、日本だけでなく、海外の大学への進学も選択肢に入れて欲しいと考え、本書を勧めます。同じ著者による『グローバル化時代の大学論2 イギリスの大学・ニッポンの大学 カレッジ、チュートリアル、エリート教育』もお勧めです。



読む心・書く心 文章の心理学入門

秋田喜代美(北大路書房)

文章を読む、文章を書くとはどういうことか、心理学の研究に基づいてわかりやすく書かれています。心理学に興味がある人、文章理解や文章産出に関心がある人にお勧めです。

 


 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

分子生物学です。心や意識について、分子のことばで明らかにしたいからです。

 

Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?

感動した映画は『聲の形』です。内集団と外集団について、深く考えさせられます。漫画版のほうがインパクトはありましたが、映画版のほうが感動しました。また、印象に残っている映画は『ビューティフル・マインド』です。幻覚に苦しんだジョン・ナッシュが、社会復帰の過程で、数人の大学生に対して数学談義をする姿が印象に残っています。

 

Q3.熱中したゲームは?

『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』です。人生における様々な意思決定を、このゲームから学びました。

 

Q4.研究以外で楽しいことは?

小説の書き方を勉強しています。勉強するだけでは書けるようにならないことが、最近わかってきました。

 

Q5.会ってみたい有名人は?

カズオ・イシグロ氏。いつかお会いできるよう、物語理解における共感の研究を頑張ります。