【昆虫科学】

世界一のカイコ遺伝資源の収集と継承-カイコの実験系統の開発と凍結保存技術の開発-

伴野豊先生

 

九州大学

生物資源環境科学府/遺伝子資源開発研究センター

 

 どんなことを研究していますか?

富岡製糸場が世界遺産に指定されたことで一躍脚光を浴びているカイコですが、家畜化された唯一の昆虫です。日本では養蚕が盛んであったため、カイコ研究は世界一です。その研究の基になっているカイコですが、日本国内には、2000種類以上にも及ぶ遺伝的に多様なカイコが保存されています。しかし難点は、カイコは毎年飼育をして卵を残さないと維持ができず、大変な経費と労力がかかっていることです。

 

先端技術でカイコを半永久的に液体窒素中で凍結保存

 

そのため、私は世界一のカイコリソースを安全に保存するための、技術開発に関する研究をしています。具体的には、人間の生殖医療で開発された手法を応用し、カイコを長期間保存する技術の開発に力を入れています。

 

カイコを保存する労力の軽減のため、また災害時に備えるために、カイコの受精卵や精巣を液体窒素中に凍結保存し、人工授精や孵化・発育させる技術の開発をしています。昆虫の中には絶滅危惧の危機にある昆虫が多数存在し、大きな社会問題になっていますが、その種の保存にも活かしたいと思っています。

 

幼虫調査:九大で保存しているカイコを形質調査して、記録帳に記録しているところです。
幼虫調査:九大で保存しているカイコを形質調査して、記録帳に記録しているところです。
 この分野はどこで学べる?

「昆虫科学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

8.食・農・動植物」の「29.獣医・畜産、応用動物学」

 


 学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

 

●主な業種は→大学、バイオ系会社

●主な職種は→教員、研究員、テクニカルスタッフなど

●業務の特徴は→研究、昆虫飼育管理

 

分野はどう活かされる?

 

カイコの飼育から研究まで学べるので、就職後も実験の基本となる生物の飼育、継代から最先端の実験まで、広範囲に活躍できる人材を育てています。

 

 先生の学部・学科はどんなとこ

九州大学は日本でも暖かな場所にあります。カイコを育てるには餌である桑が必要ですが、九州は4月から12月まで桑が栽培できます。本州では5月から10月までしか栽培できないため、九州大学はカイコ研究に好都合です。そのため昔から研究センターがあり、今では世界一のセンターになっています。大学院学生も受け入れており、農学系、生物系の学部からの学生が学んでいます。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
JST開催の科学イベント「サイエンスアゴラ」にて(2018年、東京お台場)。ミニステージでカイコ研究の歴史や面白さを紹介しました。
JST開催の科学イベント「サイエンスアゴラ」にて(2018年、東京お台場)。ミニステージでカイコ研究の歴史や面白さを紹介しました。
 先生からひとこと

カイコ研究は世界一の水準です。その維持には努力が必要ですが、世界最先端の研究、その分野の動向を知る日々は新鮮で、やりがいがあります。個性的な研究、実験に挑戦してみませんか。

 

 先生の研究に挑戦しよう

【テーマ例】

・凍結保存技術でカイコや貴重な昆虫種を保存する

・野外に生息しないカイコのルーツを探る

・カイコの突然変異から生命現象を学ぶ(突然変異の遺伝様式やゲノムの変異と生物の神秘を知ること)

 

 興味がわいたら~先生おすすめ本

蚕の城 明治近代産業の核

馬場明子(未知谷)

日本の遺伝学は我が国の風土にあったカイコから始まったという。この本はその背景に、明治政府が富国強兵、殖産興業政策を押し進めたことが関係していたことを述べている。養蚕を盛んにするために、病気に強いカイコや生産性の高いカイコが多様な系統から育種し、そのような系統を維持する努力は、九州大学を中心続けられた。

 

本書では、その100年の歴史が紹介されている。日本の近代化、それを支えた昆虫、その昆虫を支えた研究歴史が綴られたユニークな本だ。鎖国を解いた日本は何で外貨を獲得しようとしたか。それは一介の昆虫であるカイコの糸・シルクに託された。そのシルク生産には、カイコの生物学研究が必須だったのだ。 



ぜんぶわかる! カイコ しぜんのひみつ写真館

新開孝 伴野豊:監(ポプラ社)

カイコは家畜化された昆虫で、野生には生息しない。また、カイコは野生回帰能力を完全に失った唯一の家畜化動物として知られ、人間による管理なしでは生育することができないと言われる。この本は、カイコの一生や、利用の方法、昆虫研究において重要な点が、キレイな写真と共に記載されている写真集だ。

 

著者は大学で昆虫学を学び、卒業後、フリーの昆虫写真家として独立。昆虫の多様で不思議な生態を掘り下げ、独自の視点から撮影している。また、カイコの専門家である伴野豊先生が監修している。