【ゲノム生物学】

ゲノム生物学をさらに進化させるエピゲノム研究~動物のゲノム・エピゲノム比較解析

小林久人先生

 

奈良県立医科大学

医学部 医学科 発生・再生医学講座

 

 どんなことを研究していますか?

生物が持つ遺伝情報は、細胞の核の中にあるDNAにすべて書き込まれています。この情報を「ゲノム」と呼びます。例えば、人間のゲノムは30億塩基対の核酸の並びによって記録されており、その中に数万種類の遺伝子の情報が示されています。この遺伝子群が、生命体(細胞)を形作るタンパク質の設計図のようなものと言えます。

 

ゲノム情報は生物ごとに大きく異なっており、それぞれの特性を決める違いを明らかにすることが、我々人間が形作られる仕組みを理解する上で重要となります。ゲノム生物学は、様々な生物種のゲノム情報、時には人間個々人の情報までを明らかにし、各遺伝子の機能を詳細に明らかにする学問です。

 

後天的なDNA修飾パターンから生命の不思議を解き明かす

 

ゲノム生物学の中でも、私が専門とする研究分野は「エピゲノム」と呼ばれます。エピゲノムとは、DNA塩基配列の変化を伴わない、後天的な刷り込みによって、もともと持っているDNAに修飾が加えられることを言います。

 

この後天的なDNA修飾のパターンを、全ゲノムレベルで解析する研究をしています。例えるなら、ゲノムという全遺伝子情報の解析が“各生物の家系図作り”とするなら、エピゲノムの解析は、細胞が形成された後の“各細胞の家系図作り”と呼べます。つまりエピゲノムの理解によって、同じ遺伝情報を持つはずの細胞が、異なる形・仕組み・働きを獲得していく過程について、順を追って追跡することが可能となります。

 

2016年10月イタリア・エーリチェにて学会。学会会場は修道院跡地のSAN DOMENIO LECTURE HALL。ポスター会場からモンテコファノ自然保護区の絶景が眺められるなど、素晴らしいロケーションでワークショップが開催された。

2016年10月イタリア・エーリチェでの学会。こちらがポスター会場
2016年10月イタリア・エーリチェでの学会。こちらがポスター会場
2016年10月イタリア・エーリチェでの学会。ワークショップの合間に研究者らとセジェスタ遺跡を観光。神殿や劇場跡など、古代ギリシャの雄大な歴史を堪能。
2016年10月イタリア・エーリチェでの学会。ワークショップの合間に研究者らとセジェスタ遺跡を観光。神殿や劇場跡など、古代ギリシャの雄大な歴史を堪能。
 この分野はどこで学べる?

「ゲノム生物学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

7.生物・バイオ」の「21.分子生物学・細胞生物学・発生生物学、生化学(生理・行動・構造等 基礎生物学も含む)」

 


 先生の学部・学科はどんなとこ

奈良県橿原市にある、県下唯一の医学部を持つ公立大学です。2024年に同じ橿原市内の新キャンパスへの移転が予定されており、新しい教育・研究体制に移行しつつあります。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
2021年研究室にて撮影。
2021年研究室にて撮影。
2021年研究室にて撮影。次世代シーケンサーのデータ解析用サーバー。高スペックなコンピュータにより大容量シーケンスデータの集計が短時間で可能となります。
2021年研究室にて撮影。次世代シーケンサーのデータ解析用サーバー。高スペックなコンピュータにより大容量シーケンスデータの集計が短時間で可能となります。
 先生からひとこと

ゲノム生物学は、近年の“次世代シーケンサーの登場”といった技術革新により、最もホットなトピックの一つとなっています。従来の生物学のみならず、情報学、統計学に精通した人材が求められており、世界中で競争が激化している点を踏まえて、幅広い分野からの人材交流が期待されています。

 

オープンリソースからの研究も可能であり、やる気とパソコンさえあれば、誰でも参加・活躍できるチャンスがある研究分野だと思います。

 

 先生の研究に挑戦しよう

私が研究の対象としているマウスやラットは、ゲノムサイズが大きく、次世代シーケンサーを使用した研究を行うとなるとかなりの高コストとなります。ゲノムサイズの小さいシロイヌナズナ(植物)やアカパンカビ、酵母などの微生物は解析コストも安く、高校生でも解析が可能かもしれません。

 

あるいはオープンリソース(すでにweb上に公開されているDNAデータ、あるいは解析のためのフリーのソフトウェア)を利用すれば(コンピュータ言語などの基礎的知識があれば)自宅のパソコンでも研究可能です。

 

 興味がわいたら~先生おすすめ本

次世代シークエンサーDRY解析教本 改訂第2版

清水厚志、坊農秀雅(学研メディカル秀潤社)

シークエンサーとは、情報科学を使って生命を解き明かす技術のことで、具体的にはDNAの塩基配列を解析するための装置のこと。人の体のDNAは4種類の塩基という物質が30億対組み合わさり、その中に約2万の遺伝子がある。21世紀初め明らかになったこのゲノム情報は、大量のデジタル化できる情報を持ち、生命はコンピュータに乗せて解けることがわかり、シークエンサーは注目されている。

 

次世代シークエンサーは、これをケタ違いに高速化したもののこと。それによって、各個人の持つ病気の遺伝子…例えばガン遺伝子の迅速な診断が可能になった。この本は、初学者がコンピュータを使ってDNAを解析する、次世代シークエンサーの入門書だ。 



エピジェネティクス 新しい生命像をえがく

仲野徹(岩波新書)

エピジェネティクスとは、遺伝情報であるDNAの塩基配列の変化を伴わないで、DNAなどへの後天的な化学修飾によって遺伝子が制御される現象、およびその機能を研究する学問のことだ。わかりやすく言うと、例えばガンへのなりやすさは、先天的にその人が持っている遺伝情報でなく、喫煙など後天的な環境要因によって、ゲノムが修飾されガンになってしまうことである。

 

この本は、エピジェネティクスという研究をわかりやすく説明している専門書だが、分量は多くなく、高校生にも理解できる内容だと思われる。