【農業環境・情報工学】

植物の水の使い方を研究し、効率的な栽培を!~情報工学が農業を変える

松嶋卯月先生

 

岩手大学

農学部 食料生産環境学科 食産業システム学コース(総合科学研究科 地域創生専攻)

 

 どんなことを研究していますか?

世界の水不足は深刻で、2050年には世界人口89億人中40億人が慢性的な水不足に直面すると言われます。農業は世界の水利用量の70パーセントを占めており、農業の水利用の効率化が、問題解決の大きな糸口になると考えられます。

 

一方、近年、農業に情報工学の技術が取り入れられるようになっています。その一例では、ドローンや気象衛星が撮影した画像を元に、農地の緑の濃さなどを解析することで水不足や肥料不足を判断し、必要なら水や肥料を施し、必要なければ見合わせるという技術が開発されています。

 

また、農業をする上で有用な気象情報をスマートフォンによっていつでも入手できたり、スマートフォンでハウスの様子をリモートカメラで確認して、遠隔地から、作物に水やりなどの世話をすることもできるようになってきました。これらの技術を有効に用いれば、水不足の問題を解決することができるかもしれません。

 

世界の水不足を農業から解決したい

 

私は植物の生体活動の様子を計測するという情報工学の方法(生体計測)を用いて、水不足の問題の技術的な解決に取り組んでいます。生体計測によって植物がどのように水を利用しているかを知ることで、栽培に必要最小限の水やりの量を得ることができ、効率的な灌漑を行うことができます。

 

今取り組んでいる手法は、赤外線を用いて植物内の水移動を画像にして観察する方法です。これにより、根から葉までどのように水が運ばれるかがわかります。また、これまで利用することができなかった高い濃度の塩が含まれた水を作物栽培に利用する方法についても、生体計測の知見を活かしながら研究しています。これまで農業が行えなかった所、例えば砂漠や海の上でも農業ができるかもしれません。

 

学生実験で生育環境とエダマメの生育との関係を調査
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 この分野はどこで学べる?

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その領域カテゴリーはこちら↓

11.バイオ工学」の「38.バイオ生産工学・プロセス、発酵工学」

 


 学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

 

●主な業種は→公務員、食品産業、農業関連産業

●主な職種は→総合職、技術職、研究開発職、営業職

●業務の特徴は→総合職、技術職はもとより、営業職でも技術営業職であり、学んだ技術を活かした業務が多いです。

 

分野はどう活かされる?

 

農業研究センターの研究員、また、農業改良普及員として営農指導などに、学んだ内容を職務に生かしたり、農業資材会社の技術営業職や造園会社の技術職として、講義や卒業論文研究で学んだ知見を活かしたりしています。

 

 先生の学部・学科はどんなとこ

生命科学・環境科学と農学を融合した、新しい農林水産業の創生を目指した教育研究を展開しています。広い教養と寒冷地農学を中心とした農学の諸問題を解決できる能力を身につけ、地域からグローバルに至る広く社会で活躍できる農学系技術者、農学系の諸分野における基礎および専門知識を備えるだけでなく、課題解決能力、コミュニケーション能力を身につけて社会の要請に応えることのできる人材の育成を目指します。 

 

講義の一環として養鶏場を見学
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 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
オープンキャンパスでの研究室紹介
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 先生からひとこと

高校までの学びはすでに確立されている、あるいは解明されている知を理解し、学習することが中心だと思います。大学では、あなたがまだ解明されていない謎に取り組み、解決するチャンスを得られます。何が知りたいですか。あなたが知を探すチャンスを存分に活用してください。

 

研究室恒例、春の種まき講習会
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 先生の研究に挑戦しよう

生花店で手に入る切り花染色液を使って、花を染めてみましょう。花の種類、茎の長さ葉の多さで花が染まるまでの時間はどのように変わるでしょうか。カメラがあれば、明るい方向に葉や花をかざして写真を撮ってみてください。

 

一定時間毎に写真を撮れば、葉脈や導管が染まる過程を詳しく観察できます。また、異なる塩濃度の水に切り花染色液を溶かし、それぞれの液に同じほぼ大きさのハクサイの葉を浸してみましょう。塩濃度によって葉が染まる速度はどのように変わるでしょうか。

 

 興味がわいたら~先生おすすめ本

水の世界地図 刻々と変化する水と世界の問題

マギー・ブラック、ジャネット・キング 沖大幹:訳(丸善)

洪水・渇水・ダム、水を巡る争い、ウォータービジネスなど「世界の水」が置かれた現状を幅広い視点で、美しくわかりやすい図版ととともに紹介している。2章ではその半分を割いて食・農業と水について説明している。特に水供給の保全においては、いかに少ない水で米を生産するかの研究結果などが図版とともに説明されており、水問題と農業についての理解が深まる。訳者の沖大幹は、地球の水循環について研究する第一線の水文学者。温暖化の影響で自然現象としての洪水や干ばつの回数がどう変わり、それによって社会にどれだけの人的・経済的影響を与えるか、重要な提言を続けている。 



水とはなにか ミクロに見たそのふるまい

上平恒(講談社ブルーバックス)

身近な水の特殊な性質に、4℃で密度が最大になるというものがある。その理由だが、氷になると液体の水より体積が大きい(密度が小さい)が、温度が上げていくと氷が溶け、氷の結晶構造の隙間に水分子が入り込み、密度は上昇する。4℃を越えると氷の結晶はなくなり逆に水分子の運動が激しくなり拡散されるので、密度は減る。だから水は4℃で密度は最大というわけだ。

 

それがどうしたと言われそうだが、この本はそれが生きものの生活環境において重要な役割を果たしていると述べている。初版は1977年に出た本だが、息長く読み継がれ、この本は2009年に新装版として発刊された。