【応用生物化学/動物生理・行動】

昆虫のホルモンの研究から、動物の恒常性と変容性の仕組みを調べる

丹羽隆介先生

 

筑波大学

生命環境学群 生物学類(理工情報生命学術院 生命地球科学研究群 生物学学位プログラム)

 

 どんなことを研究していますか?

自然界において生命体は、時々刻々と変化する環境にさらされながら生きています。そして生命体は、環境の変化に対しても自身の状態を一定に保つ恒常性(ホメオスタシス)と、逆に環境の変化に応じて自身を変えていく変容性(トランジスタシス)のメカニズムを有しています。

 

近年の研究の進展によって、ホメオスタシスとトランジスタシスの制御に際して、個体を構成する様々な器官の間で神経やホルモンを介した信号が交され、多くの器官が複雑な情報交信をしていることが示唆されています。こうしたネットワークは「臓器連環」とも呼ばれ、このネットワーク構造の破綻が、病気の発症とも密接に関連することが示唆されつつあります。

 

ホルモンを利用して農薬を作る

 

私の研究室では、こうした器官間の相互の関係性をホルモンと神経の働きから理解し、動物の恒常性や変容性における意義の解明を目指しています。この研究にあたって私は、遺伝学的に様々な実験技術に優れたキイロショウジョウバエと、それに寄生する寄生蜂を材料にして研究しています。

 

また私は、動物に共通したメカニズムの研究に興味がある一方で、昆虫特有のメカニズムにも興味があります。昆虫のホルモンや神経の働き方を知り、昆虫には存在してほかの動物にはないメカニズムが明らかになれば、その情報を元に、特定の昆虫の成長や生存だけをさく乱し、他の生物種には害のない農薬の開発につながる可能性があります。

 

研究室
研究室
 この分野はどこで学べる?

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7.生物・バイオ」の「21.分子生物学・細胞生物学・発生生物学、生化学(生理・行動・構造等 基礎生物学も含む)」

 


 学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

 

●主な業種は→製造業(食料品、日用品、化学、農薬、医薬品)、バイオベンチャー、サービス業(教育)

●主な職種は→研究系・技術系(素材、食品、メディカル)、中学・高校教員

 

分野はどう活かされる?

 

食品会社や製薬会社で、研究や技術開発に携わる学生が比較的多いです。中学校や高校の教員免許を取得し、教員を目指す学生もいます。博士号取得後に大学で研究員(ポスドク)に就いて、基礎研究者を目指す者もいます。

 

 先生の学部・学科はどんなとこ

筑波大学生命環境学群生物学類は、関連教員数および在籍学生数において、国内最大級の生物学科です。単細胞生物から哺乳動物まで、そして分子生物学から生態学まで、幅広い研究対象をカバーする80名近い教員が、研究教育活動に邁進しています。

 

生物学類は、1年次から専門性の高いカリキュラムを提供しており、4年間基礎生物学を存分に学んでもらえる環境です。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
講演風景
講演風景
 先生からひとこと

生命の謎と不思議を知りたいと思うすべての学生を歓迎します。「役に立たない」基礎研究は、残念ながら冷遇される昨今です。しかし、地道な基礎科学は我々の知的欲求を満たすだけでなく、未来の社会を変える様々な種を得る、重要な営みだと考えます。

 

 先生の研究に挑戦しよう

【テーマ例】

・幹細胞の増殖と維持のメカニズム

・栄養とエネルギーの代謝メカニズム

・寄生蜂と宿主の相互作用

・昆虫ホルモン生合成の調節メカニズム

・低温時に誘導される生殖休眠のメカニズム

・環境に優しい農薬の探索

 

 興味がわいたら~先生おすすめ本

サナギから蛾へ カイコの脳ホルモンを究める

石崎宏矩(名古屋大学出版会)

日本の昆虫生理学を牽引した、著名な研究者による自伝。著者は「前胸腺刺激ホルモン」と呼ばれる昆虫発育に関わる最重要ホルモンを、延べ2,000万頭のカイコガから発見した業績で知られる、日本が誇る世界的昆虫生理学者である。

 

この本からは「ものを取る」というハンター的職業の面白さと難しさを味わってほしい。また、著者はエリート街道を歩まれたというわけではなく、若い頃には画学生であったために進路に苦慮し、様々な紆余曲折を経て研究に邁進された。その姿も若い人々の心を打つのではないだろうか。 



大村智 2億人を病魔から守った化学者

馬場錬成(中央公論新社)

アフリカ・中南米で多くみられた感染症、オンコセルカ症の撲滅に挑む、ノーベル賞受賞者大村智氏についての伝記。この本は大村氏の人生を紹介するものだが、「ものを取る」というハンター的職業の面白さ、そして難しさを感じ取ってほしい。また、大村氏がエリート街道を歩んだわけではなく、紆余曲折の末に研究を行った人であることも記されており、胸を打つ。 



精神と物質 分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか

利根川進、立花隆(文春文庫)

抗体がいかにして多様性を得るのかについて、その遺伝学的原理を解明してノーベル賞を受賞した、利根川進氏。利根川氏の基礎科学研究者としての哲学が、ジャーナリスト立花隆氏により深くまで掘り下げられている。未だ色褪せない名インタビュー。 



小さくて頼もしいモデル生物 〜歴史を知って活かしきる

森脇和郎:監(羊土社)

現在の基礎生物学に欠かすことができない「モデル生物」について概観した本。キイロショウジョウバエをはじめ、一見ヒトと何の関係もなさそうな生き物たちが、ヒトの生命現象の理解や、医学や農業の進展へいかに貢献してきたかが解説されている。