【園芸科学】

ブルーベリーが一年中収穫できる! これまで不可能だった果樹工場を実現

荻原勲先生

 

東京農工大学

農学部 生物生産学科(農学府 農学専攻 生物生産科学コース)

 

 どんなことを研究していますか?

トマトやホウレンソウなどの野菜、リンゴやナシなどの果物、バラやパンジーなどの花を研究する園芸科学の分野で、近年急速に進んだ技術に、野菜の植物工場があります。2010年頃からICTを利用した農業として、植物工場が作られるようになりました。人工光源を用いたレタス工場や、トマトの太陽光利用型植物工場などが稼働するようになっています。

 

しかし一方、果物の植物工場は見当たりません。その理由は、果樹は木々が成長するのに数年を要し、さらに1年に1回しか収穫できないからです。果実栽培が経済的に成り立つ植物工場は、困難であると言われてきました。

 

私は、そんな不可能と思われた果樹の植物工場づくりに取り組んでいます。果樹が花をつけ実がなるには、四季を経験させる必要があります。ですので、「春夏秋冬」の四季の栽培室を作り、それぞれの部屋の環境を制御し、果樹の鉢を移動して四季を体験させ、開花時期を少しずつずらせば、一年を通して連続収穫のできる周年栽培が可能となると考えました。そのような四季を再現する実験的な植物工場を建設し、実際にブルーベリーで四季栽培を成功させました。

 

新たな果樹生産のモデルも提案

 

この果樹工場で、これまで不可能だった、年に2回以上の収穫を可能にしました。さらに、連続開花結実法という方法を用いると、9月に開花させ12月から連続して収穫できるようになり、収穫量が5倍になりました。オフシーズンに生産した果実は、甘くおいしいため、消費者の評判も高いものになりました。

 

例えば果樹植物工場で開花までさせた鉢を、農業者が持っている既存のハウスに、レンタル鉢として秋季に貸し出せば、農家はオフシーズンの冬季に果実の収穫を行えます。これによって冬期に農作業がない地域にも収入が見込めるようになります。新たな果樹生産のスタイルにもなるでしょう。

 

ブルーベリー工場(植物工場)で学生が計測している写真です。植物はブルーベリーです。
ブルーベリー工場(植物工場)で学生が計測している写真です。植物はブルーベリーです。
 この分野はどこで学べる?

「園芸科学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

8.食・農・動植物」の「26.植物科学、育種・作物・園芸」

 


 学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

 

●主な業種は→農林業、製造業(食料品)、教育

●主な職種は→公務員、研究開発、教員

●業務の特徴は→農林水産省や各県の農業試験場の研究員、製造業(食料品、種苗、農薬など)の開発部の研究員、農業高校や中学校の教員

 

分野はどう活かされる?

 

高度の生産を可能とする栽培システムの開発、品種の特性を生かした新商品の開発などを行っています。

 

 先生の学部・学科はどんなとこ

東京農工大学は、人類社会の基幹となる農業と工業を支える農学と工学の二つの学問領域を中心として、幅広い関連分野をも包含した全国でも類を見ない特徴ある科学技術系大学です。

 

農学部では、農学、生命科学、環境科学、獣医学分野の諸問題の解決と持続発展可能な社会の形成に資するため、広く知識を授けるとともに専門の学芸を教授し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させて優れた能力を有する人材を養成することを目的としています。

 

生物生産学科は,人類共有の農業を総合的に学ぶことのできる学科です。「食料生産技術の発展」と「環境保全」の調和を実現させることを目標として、 食料の自給率向上や安定供給、バイオマス利活用技術の開発、生物の生産機能の解明、農業の多面的機能の利用などに貢献する人材の養成を目指しています。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
 先生からひとこと

私は「果樹はもともと常に花を咲かせ実をつける連続開花結実性(四季成り性)を持っているが、温帯果樹が年に一度しか結実しないのは、環境変化に対応してきた結果」であろうと着想したのです。温帯果樹のゲノムに潜む、連続開花結実性を環境調節でよみがえらせることができれば、トマトのように周年かつ年複数回の収穫が可能になります。その結果、生果の周年供給が可能になり、収量が増えるばかりでなく、果樹園で働くスタッフの年間雇用が実現し、果樹園経営の安定化も図れます。

 

そこで、遺伝子組換えではなく、眠っている遺伝子を環境調節で発現させ、果樹のライフサイクルを調節することで、果樹が元来持つ連続開花結実性を引きだす可能性を探るため、ブルーベリーをモデル植物として研究を行ってきました。また、LED装置を使って研究を進め、植物体の光に対する反応を調べたところ、連続開花結実を誘導するには、温度や日長だけでなく、光の質が関与することを発見しました。青色光は新梢成長の成育を抑制し花芽の形成や開花を促進、一方、赤色光は新梢成長を促進することがわかったのです。この結果から、LEDを使って植物をデザインすることができると考えています。さらに、青色光が抗酸化活性に、赤色光がアントシアニン含量に影響することも明らかにし、光質制御による高機能性果実の収穫技術の確立にも研究が展開しています。

 

研究を進めるとさらにアイデアが生まれてくるのです。アイデアを形にするためには、多くの研究者と関わり、広い分野の知識を取り入れることが必要です。その新たな出会いと学ぶ楽しさを知ることによって、人生を愉快にしてくれると思います。アイデアを形にすると新しい世界が見えてくるでしょう。ぜひ挑戦を続けてください。

 

 先生の研究に挑戦しよう

【テーマ例】

・眠っている遺伝子を環境調節でよみがえらせてみよう

・赤色光や青色光を使って植物をデザインしてみよう

・光質制御によって高機能性果実を創出してみよう

 

 興味がわいたら~先生おすすめ本

植物のこころ

塚谷裕一(岩波新書)

紹介コメント:著者は発生生物学、系統分類学を専門にする植物学者で、そのユニークな着眼は本書でも発揮。植物の器官が分化し多様化していく遺伝子群の働きを説明し、多様に進化した植物としてつる植物、着生や寄生する植物、昆虫と共生する植物や食虫植物などの特異な環境に適応した植物の戦略について、植物の感覚の鋭い戦略や特異な環境に適応した植物などを“植物のこころ”という題名で言い表し書き綴っている。 



人が学ぶ植物の知恵

荻原勲、平沢正、福嶋司(東京農工大学サイエンス選書)

紹介コメント:植物の体の基本からはじまり、植物の生理作用、植物が放つ花の香り、子孫を残す受粉や遺伝子のしくみまで、植物の持っている様々な知恵を豊富なイラスト入りで解説する。著者は、園芸学、植生学、作物生態生理学の専門家たちの共同執筆による。