【機能生物化学】

健康な幼児・若者におこりやすい「マイコプラズマ肺炎」の診断法の実用化

西田芳弘先生

 

千葉大学

園芸学部 応用生命化学科(園芸学研究科 環境園芸学専攻)

 

 どんなことを研究していますか?

肺炎という病気は風邪と似た症状が出ますが、風邪と異なり肺に病原菌が感染して発症します。抗生物質とワクチンの普及によって生存率は改善されていますが、私が研究の対象にする「マイコプラズマ肺炎」は、他の肺炎と異なり、患者の多くが子どもや若い人で、重い持病などがない健康な人たちです。呼吸困難を起こして長期入院したり、重症化することもあります。

 

肺炎の病原菌の作る成分の人工合成に成功、ワクチンの開発へ

 

研究の過程で、肺炎の病原菌の細胞膜には様々な化学構造を持つ糖脂質が存在し、発症の重要な要因であることがわかってきました。糖脂質は、糖と脂質が結合した複合型の分子です。マイコプラズマ肺炎を引きおこす細菌の細胞膜にも、他の生物では生産できない糖脂質が存在します。私たちはその化学構造を決定し、人工合成にも成功しました。

 

合成した糖脂質を用いて、様々な生物機能の解析を行うとともに、マイコプラズマ肺炎の診断法やワクチンの開発を進めています。合成糖脂質を用いた感染診断はすでに日本国内の病院で利用され、治療に貢献しています。

 

研究室の風景:実験室は化学実験に使う機器類とガラス器具であふれています。写真は私の実験台、午前中の様子です。午後には片付いています(笑)
研究室の風景:実験室は化学実験に使う機器類とガラス器具であふれています。写真は私の実験台、午前中の様子です。午後には片付いています(笑)
研究室の風景
研究室の風景
研究室の風景
研究室の風景
 この分野はどこで学べる?

「機能生物化学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

7.生物・バイオ」の「21.分子生物学・細胞生物学・発生生物学、生化学(生理・行動・構造等 基礎生物学も含む)」

 


 学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

 

●主な業種は→食品、化学、医薬、化粧品業界

●主な職種は→基礎研究、製品開発

●業務の特徴は→食品、生体分子、化学薬品を取り扱う研究業務

 

分野はどう活かされる?

 

食品の開発、医薬品素材の分子設計と化学合成、機能解析の仕事を行っています。

 

 先生の学部・学科はどんなとこ

千葉大学園芸学部の応用生命化学科は、生物化学系の学科です。健康、環境、食糧、エネルギーに関連する諸問題を解決するための方法論と基礎技術の開発を進めています。主として、生体分子としての核酸、糖質、脂質、たんぱく質、ビタミンなどを分子レベルで取り扱い、化学と生物の複合領域にまたがる広範囲な実験(食品、微生物、動物実験を含む)を行います。

 

入学後は、3年生前期までに、ひと通りの基礎実験を経験して、3年生後半から研究室に配属となります。大学院生がチューターとなり、実験を正確かつ安全に行うために、時には厳しく指導します。実験科学者として自立するための基礎学力と技術を習得することができます。

 

二人とも大学院への進学を目指しています。学部生は2年次から、2年間の基礎実験を通して化学研究と生物研究を勉強します。
二人とも大学院への進学を目指しています。学部生は2年次から、2年間の基礎実験を通して化学研究と生物研究を勉強します。
キャンパスの風景:研究室は千葉大学松戸キャンパスにあります。上野まで15分、信じられないくらい静かで穏やかな時間を過ごすことができます。
キャンパスの風景:研究室は千葉大学松戸キャンパスにあります。上野まで15分、信じられないくらい静かで穏やかな時間を過ごすことができます。
 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
研究の風景:自分で作った機能物質の化学構造は、各種機器分析装置(核磁気共鳴スペクトルや質量分析装置)を使って調べます。この実験は西千葉キャンパス(松戸キャンパスから車で一時間くらいかかります)。
研究の風景:自分で作った機能物質の化学構造は、各種機器分析装置(核磁気共鳴スペクトルや質量分析装置)を使って調べます。この実験は西千葉キャンパス(松戸キャンパスから車で一時間くらいかかります)。
セミナー室の風景:実験と講義のほかは、英語、有機化学、糖化学の勉強に全集中します。
セミナー室の風景:実験と講義のほかは、英語、有機化学、糖化学の勉強に全集中します。
 先生からひとこと

高校生、大学受験生の皆さんは、コロナ禍の中で大変な不安とストレスを感じているのではないかと思います。また、終着点が見えない大学入試制度の改革に戸惑いと憤りすら感じているのではないでしょうか。どうか、このような状況においても、いや、このような状況だからこそ、なんとか自分を奮い立たせてください。そして、人類史上最強のウイルスと入試制度に立ち向かう、そんな勇ましい姿勢(ポーズ)を示してください。 

セミナー旅行(2020年11月末、つくば山、研究室は学生11名、うち男性3名、2名は中国籍)年に一度の研究室旅行。今年はコロナ禍で日帰り旅行になりました。どこに行ってもマスクは外せません。
セミナー旅行(2020年11月末、つくば山、研究室は学生11名、うち男性3名、2名は中国籍)年に一度の研究室旅行。今年はコロナ禍で日帰り旅行になりました。どこに行ってもマスクは外せません。
 先生の研究に挑戦しよう

【テーマ例】

・糖はなぜ甘いのか、その意味と健康への留意を探る

・母が作る乳糖の役割を探る

・血糖値が厳密に生体制御されている理由を探る

・ブドウ糖の高い反応性、その意義と健康への留意を探る

 

 興味がわいたら~先生おすすめ本

実感する化学 上巻 地球感動編

A Project of the American Chemical Society 廣瀬千秋:訳(エヌ・ティー・エス)

化学は、毎日の生活にどのようにかかわっているのか。本書は、アメリカ化学会がまとめた化学に関する一般書で、上巻(地球感動編)、下巻(生活感動編)からなる。これまで意識していなかったことや知らなったこと、あっと驚くようなことが満載だ。上巻は地球環境の保全について、オゾン層や酸性雨などの記載があり、科学者倫理についても重要な指摘がなされている。下巻には、生体成分の主な機能について、写真や図を用いて詳しく解説。DNAの二重らせん構造や遺伝情報解読の仕組みなど、明快に紹介されている。光学異性体(立体化学)についても記述があり、化学構造に基づいて生物機能を明らかにすることの重要性が述べられている。これから学問を志す高校生や大学生に特におすすめ。 



基礎食品学

遠藤泰志、池田郁男:編(アイ・ケイコーポレーション)

生体分子は、食品に含まれる成分にほぼ一致するため、本書は参考になる。食品の観点から生体分子の化学構造と基本的な機能を簡単に知ることができる。化学基礎の教科書としても編集されており、手に取りやすい。千葉大学西田芳弘先生は、「第2章:食品の主要成分」の部分を執筆している。 



糖鎖を知る その素顔と病気への挑戦

科学技術振興機構:編(科学技術振興機構)

生体分子のうち、タンパク質や脂質に結合した「糖鎖」に多くの注目が集められている。この書籍は日本で活躍する糖鎖の研究者が、それぞれの研究課題について簡潔にまとめている。千葉大学西田芳弘先生は「マイコプラズマと糖脂質」の項目にて執筆を担当している。