【神経解剖学・神経病理学】

実は子どもに多い脳腫瘍、適切な病理診断法を探し出す

横尾英明先生

 

群馬大学

医学部 医学科(医学系研究科)

 

 どんなことを研究していますか?

脳の重篤の病気の一つに脳腫瘍があります。脳腫瘍は消化器系や呼吸器系の腫瘍と比較すると絶対数はそれほど多くありませんが、たくさんの種類があり、臓器単位で比較すると脳腫瘍は最も種類が豊富で160以上にも分類されています。

 

具体的な発生原因は明らかになっていません。脳腫瘍のタイプ、あるいは腫瘍が脳のどの部分に形成されたのかでも異なりますが、腫瘍が大きくなると、脳を圧迫し体が麻痺したり、意識障害を生じたりします。脳腫瘍は多彩であるため適切に診断を下すことが難しい病気とされています。脳腫瘍の検査はCTやMRIを使った画像診断が日常的に行われていますが、それだけでは不十分で、最終的には病変部の組織や細胞を採取して解析する病理診断をしなければ脳腫瘍の分類を確定できません。そのため手術の時に採取された組織を、我々病理医が最終診断しています。

 

多数の症例を集めて、疾患の持つ特徴を明らかに

 

私は病理医で、脳腫瘍病理学を専門としています。そして脳腫瘍の病理診断と原因について研究しています。私は診断の非常に難しい脳腫瘍について、より高度で専門性の高い脳腫瘍の病理診断を提供することに力を入れています。それを追求するための様々な基礎研究を行っています。具体的には多数の症例を集めて、疾患の持つ特徴を明らかにするとともに、腫瘍細胞の性質の解析や、異常を起こしている遺伝子の探索などを行っています。

 

また、実は脳腫瘍は小児にも多いのです。小児腫瘍の中で最も多いのが血液腫瘍、2番目に多いのが脳腫瘍であり、脳腫瘍は若い方々にとって脅威となる疾患の一つです。

 

学生実習の風景。このように一緒に顕微鏡の視野を共有しながら指導を行います。
学生実習の風景。このように一緒に顕微鏡の視野を共有しながら指導を行います。
 この分野はどこで学べる?

「神経解剖学・神経病理学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

9.基礎医学・先端医療バイオ」の「32.神経科学、脳科学」

 


 学生はどんなところに就職?

病理学の後期研修プログラムあるいは大学院を修了後は、病理医として病理診断全般を担当する病理医、あるいは病理学研究者(研究医)になる方がほとんどです。一部の方は臨床医の道にも進んでいます。

 

一般的な傾向は?

 

●主な職種は→医師(臨床医、研究医)

●業務の特徴は→病理医、病理学研究者、臨床医

 

分野はどう活かされる?

 

病理医は光学顕微鏡を主な手段として病気を診断します。自らの観察眼を頼りに、日常診療の中から新たな研究課題を見出す研究スタイルを大切にしています。

 

 先生の学部・学科はどんなとこ

群馬大学は脳腫瘍の病理診断において、事実上のナショナルセンターとして約半世紀にわたり機能してきました。そのため全国から多くの脳腫瘍の検体が寄せられ、診断の確定や診断の標準化、さらには共同研究の実施などにより、社会貢献を果たしてきました。学内あるいは外部の様々な研究医療機関から、臨床系・病理系を問わず多くの若手医師が脳腫瘍を学びに訪れています。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
 先生からひとこと

スポーツや芸術の分野では10代20代の若者が世界的に活躍する例も珍しくありませんが、医学は大変奥が深いので生涯学習が必要であり、本格的に成果が上がるのは職業人生の半ばを過ぎてから、ということもよくあります。別の言い方をすれば、医学において天賦の才はあまり関係なくて、焦らず根気強く学んでいく姿勢が大切な分野です。まさに「継続は力なり」です。

 

 先生の研究に挑戦しよう

医学や病理学の歴史をたずねてみると面白いと思います。現代医学は高度になりすぎてとっつきにくい印象があるかもしれませんが、ヒポクラテスの時代から今日に至るまでの医学の歴史には、人類が医学に託した純粋な思いがたくさん詰まっています。歴史学習を足掛かりに現代医学が抱える諸課題にも関心を広げてみてはいかがでしょうか。

 

 興味がわいたら~先生おすすめ本

がん 4000年の歴史

シッダールタ・ムカジー 田中文:訳(ハヤカワ文庫NF)

著者はがん診療に従事する医師で、自らが治療に携わったがん患者さんとのやりとりから物語は始まり、ここから一気に人類が4000年もの歳月の中で紡ぎ出してきたがん研究の成果を紹介し、そして最後に著者は現実に立ち返るという壮大な歴史物語です。

 

連綿と続く医学医療の歴史において、こんなちっぽけな私もその長い歴史の一コマの担い手であることに気づかされ、自分をこの道に導いてくれた医学界の先人たちに感謝の気持ちが芽生えた一冊です。 



フラジャイル

草水敏:原作、恵三朗:漫画(アフタヌーンKC)

病理医が主人公のコミック。多少の脚色があるとはいえ、病理診断や病理解剖など、医学医療に貢献する病理学の現場をかなりのリアリティをもって描写しています。テレビドラマ化もされましたね。