【高分子化学】

世界に先がけ、10億分の1メートルの分解能で高分子を直接観察する

熊木治郎先生

 

山形大学

工学部 高分子・有機材料工学科(有機材料システム研究科 有機材料システム専攻)

 

 どんなことを研究していますか?

包装用フィルムなど様々な用途に利用されているポリエチレンは、代表的な高分子です。高分子はポリマーとも呼ばれます。その分子構造の特徴は、一般にモノマーと呼ばれる低分子化合物がたくさん結合した、長いひも状(鎖状)をしています。その構造のために、金属、セラミックスなどの材料とはまったく異なる、高分子特有の特性を持っています。今日、高分子は、プラスチック、繊維、フィルム、ゴムなどのなくてはならない材料です。

 

高分子化学はその合成、物性、構造を研究する分野です。高分子化学の成果は、ナイロンなどの合成繊維に応用されたのが始まりで、1940年代以降の石油化学工業の発展とともに盛んに研究されるようになり、現在では、自動車、電気電子、医療材料等、身の回りで多く使用されています。

 

高分子の構造や形成過程、運動性などを明らかに

 

私の研究室は、高分子の構造を理解するために、原子間力顕微鏡という装置を駆使して、高分子を直接観察する研究を行っています。この顕微鏡は原子間に働く力を検出して調べたい対象物の画像を得るものです。それも10億分の1メートルという分解能でミクロなサイズの高分子を観察することができます。複数の長い鎖状のヒモが絡みあった高分子のうち、この中の一本の鎖を分子レベルで観察できれば、新たな高分子の知見を得ることが期待できます。

 

私たちは、この顕微鏡を用いて、文字通り高分子を1本の分子鎖レベルで直接観察することに世界にさきがけて成功しました。それによって、高分子の一本鎖が形成する非晶、結晶、多重らせん、超分子等の構造やこれらの形成過程、分子鎖の運動性などを明らかにしています。

 

観察例
観察例
 この分野はどこで学べる?

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その領域カテゴリーはこちら↓

17.化学・化学工学」の「68.有機化学、合成化学(薬設計の技術)」

 


 学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

 

●主な業種は→製造業(化学、自動車、電気電子、医療材料、高分子加工等)

●主な職種は→研究開発、技術開発、生産技術

 

分野はどう活かされる?

 

高分子は、多くの産業で必須な材料のため、高分子の基本を習得していると多くの分野で活躍が期待できます。

 

 先生の学部・学科はどんなとこ

山形大学は地方の国立大学ですが、秦逸三教授が山形大工学部の前身である米沢高等工業学校時代に人造繊維レーヨンの研究開発を行い、その技術を基に帝国人絹(現在の帝人)が設立されたという伝統を持っています。そのため、伝統的に山形大学の高分子は強く、我々の学科は、国内でも最大規模の高分子系学科です。特に、有機ELを中心とした有機デバイスの研究が有名です。また、伝統的に企業から優秀な人材を積極的に採用しており、応用を含めた高分子の研究に特色を持っています。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう

研究活動や学会発表以外に、飲み会、山形恒例の芋煮会、卒業旅行等を行っています。

これは、山形の月山にキャンプに行った時の写真です。

 先生からひとこと

理工系の学科の中でも、特に化学分野はエンジニアリングというより、研究の比重が高い分野です。大学時代は、基礎をしっかり身につけるとともに、挑戦的な研究課題に取り組み、課題解決能力を高めることが大切だと思います。高分子は、合成、重合のような化学分野から構造解析、材料特性、成形加工のような物理分野を含む幅広い学問分野です。皆さんの興味のある分野を見つけることができると思います。

 

 先生の研究に挑戦しよう

身の回りの高分子、例えばポリエチレンもひも状の分子が多数集まってできています。分子の一部はさらに規則的な結晶を形成しています。この構造がポリエチレンの材料特性と大きく関係しています。分子はいったいどのような構造をとっているのでしょうか?

 

原子間力顕微鏡観察をしている様子
原子間力顕微鏡観察をしている様子