【気象・海洋物理・陸水学】

黒潮の変動メカニズム研究~漁場、水産資源の変動を予測する

中村啓彦先生

 

鹿児島大学

水産学部 水産学科 水圏科学分野(農林水産学研究科 環境フィールド科学専攻)

 

 どんなことを研究していますか?

世界的な異常気象の原因の一つにエルニーニョ現象があります。エルニーニョ現象とは、南米ペルー沖の海水温が上がり、世界的な異常気象を起こす現象です。赤道直下の太平洋で東風(貿易風)が弱まり、暖かい海水がペルー沖まで広がることから生じます。エルニーニョで海の表面が太陽に暖められ、積乱雲が発生し、気圧配置や雨量の変化が起こり、太平洋上の気象が変化する。その結果世界各地に大きな影響を与えます。それは海水温の変化がいかに自然にとって脅威であるかという問題です。

 

日本近海の海洋生物に影響を与える黒潮

 

気象・海洋物理・陸水学の分野の中で、私の専門は海洋物理学です。海洋物理学は、海水温や海流の変動のしくみを解明し、エルニーニョ現象などの大規模な海水温変動が地球の気候に与える影響を研究します。

 

その中で私は具体的に、日本近海を流れる代表的な暖流である黒潮の流路、流量、安定性の変動メカニズムに取り組んでいます。黒潮の流路、流速、水温などの状態は、日本近海の海洋生物の分布に影響を与えています。この変動メカニズムがわかると、漁場や水産資源の変動が予測できるようになります。

 

鹿児島大学附属練習船「かごしま丸」による海洋観測実習(宮古島沖の黒潮流域にて)水質を海面から海底まで鉛直的に計測しながら海水を採取する機器を準備
鹿児島大学附属練習船「かごしま丸」による海洋観測実習(宮古島沖の黒潮流域にて)水質を海面から海底まで鉛直的に計測しながら海水を採取する機器を準備
 この分野はどこで学べる?

「気象・海洋物理・陸水学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

1.環境・防災」の「1.気象・海洋、地震・津波、火山、防災・復興学」

 


 学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

 

●主な業種は→海洋と気象のコンサルタント会社、海洋調査会社、各県の水産試験場

●主な職種は→技術職

●業務の特徴は→現場観測、資料解析、数値計算

 

分野はどう活かされる?

 

海洋観測船で海洋観測を行う観測技術者。船舶へ気象・波浪予報サービスを行う技術者。漁業のための海況予報を行う水産海洋学の技術者。

 

 先生の学部・学科はどんなとこ

私の所属する鹿児島大学 水産学部 水圏科学分野 海洋環境科学コースを紹介します。海水の流動や水質、海底・海岸の地形や地質を広い意味で「海洋環境」と呼びます。海洋環境科学コースでは、海洋環境の自然科学的な理解、海洋環境の保全・利用に関わる工学的な応用について教育し、これらを基礎とする幅広い関連分野へ学生を輩出することをめざしています。さらに将来、様々な専門分野に柔軟に対応できる能力を養うため、数学、物理学、情報処理学等の基礎教育に力を入れています。

 

特に、私の研究室では、黒潮の変動メカニズムや、黒潮が日本の気候や生物資源分布に与える影響に関する多角的な研究を進めています。そのために、附属練習船「かごしま丸」を用いて海洋観測をするなどのユニークな教育・研究をしています。

 

黒潮の流速を計測するための係留型流速計を海中に設置する準備をしているところ
黒潮の流速を計測するための係留型流速計を海中に設置する準備をしているところ
 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
実習学生が、採取した海水を不純物が混入しないように注意しながらビンに移す様子
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 興味がわいたら~先生おすすめ本

自然をつかむ7話

木村龍治(岩波ジュニア新書)

この本は、普段の生活で経験したことを科学的な思考で考察し、思いがけない科学の話に広げていく。例えば第1話では、著者が食べた豆腐料理からはじまって、日本書紀に話が発展し、雲のでき方へと話が至る。著者は、東京大学海洋研究所(現、大気海洋研究所)の元教授で、気象学と海洋物理学の分野で活躍した。取り上げられている七つの話の中には、気象学や海洋物理学と関係する話題として、雲や雪のでき方、海洋や大気で起こる対流・循環のしくみが、日常の出来事と関連づけながら説明されている。その自由な発想と確かな科学観は、これから科学を志す人たちに、科学の魅力を存分に伝えるだろう。



科学者という仕事 独創性はどのように生まれるか

酒井邦嘉(中公新書)

アインシュタイン、ニュートン、キュリー夫人、朝永振一郎などの著名な科学者の格言・警句を基に、科学者とはどのような職業なのかを解説した本。科学者を志す若者は、この本で取り上げられている警句から、生涯の糧となる強い印象を受けるだろう。