【生物物理・化学物理・ソフトマターの物理】

生きもののしくみを物理で解き明かす

村山能宏先生

 

東京農工大学

工学部 生体医用システム工学科(工学府 物理システム工学専攻)

 

 どんなことを研究していますか?

 “生きもののしくみ”とは何でしょう。天体の動きは力学の法則で説明でき、電気製品を制御している半導体内の電子の動きは、量子力学の法則で説明できます。では、“生きものの動き”はどのような物理法則で説明できるのでしょうか。

 

生体内で生じている一つ一つの現象は、物理学的現象にほかなりません。ドイツの天文学者ケプラーは、ティコの観測による正確かつ膨大なデータから、天体の動きに関する法則を見つけました。現在は“生命現象にひそむ法則”について、第2、第3のケプラーが生まれようとしている時なのかもしれません。

 

「生物物理、化学物理、ソフトマター物理」という分野では、生命現象や化学現象、柔らかいものの性質などを物理的視点から解き明かす研究を行っています。私が追及するテーマは、“生きもののしくみ”です。アミノ酸がつながった一本の紐がタンパク質として機能するしくみ、光を化学エネルギーに変換する光合成のしくみ、たった1個の細胞からなる生物が動くしくみ、いずれについてもいまだ明確に説明することはできません。

 

これらの謎を解くカギは、DNAやタンパク質などの高分子や生体の約70%を占める水そのものの性質や、膜やゼリーのような柔らかい物質の性質などにあるのでないかと考えています。

 

身近な製品や医療機器の開発に不可欠なソフトマター

 

生命現象には分子、個体、集団など、様々な階層において巧妙なしくみが存在します。私はこれらのしくみを物理の言葉で解き明かしたいです。現在はDNAの柔らかさと遺伝子発現の関係や、微生物が明るさを検知するしくみについて研究しています。これらのしくみを解明する上で重要となるソフトマターと呼ばれる柔らかいものの性質は、食品や化粧品、洗剤やワックスなどの身近な製品だけでなく、医療技術や医療機器の開発にも不可欠な性質です。

 

「光ピンセット:微小な力を測定する」1本のDNAに生じる力や、細胞の中のような複雑な溶液の“ねばりけ”や“伸び縮み”度合いを測定するために作製した装置です。
「光ピンセット:微小な力を測定する」1本のDNAに生じる力や、細胞の中のような複雑な溶液の“ねばりけ”や“伸び縮み”度合いを測定するために作製した装置です。
「磁気ピンセット:DNAをねじる」DNAの柔らかさと遺伝子発現の関係を調べるにあたり、1本のDNAを“ねじる”ために作製した装置です。
「磁気ピンセット:DNAをねじる」DNAの柔らかさと遺伝子発現の関係を調べるにあたり、1本のDNAを“ねじる”ために作製した装置です。
「ボルボックス:単純な要素から機能が生まれるしくみを探る」ボルボックスは緑藻の一種。数千個の細胞が1つの個体を形成することで、光に向かって泳ぐという機能が生まれます。
「ボルボックス:単純な要素から機能が生まれるしくみを探る」ボルボックスは緑藻の一種。数千個の細胞が1つの個体を形成することで、光に向かって泳ぐという機能が生まれます。
 この分野はどこで学べる?

「生物物理・化学物理・ソフトマターの物理」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

17.化学・化学工学」の「67.物理化学、分子デバイス化学(液晶、光触媒等)」

 


 学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

 

●主な業種は→電気・半導体、光学・精密機器、医療機器、機械・建設

●主な職種は→開発

●業務の特徴は→技術開発、製品開発

 

分野はどう活かされる?

 

技術開発や製品開発の現場では、これまでに体験したことのない問題や課題が常に生じます。このような時には、既存の概念にとらわれず、自然科学の基本原理に立ち返り、測定データなどの客観的事実に基づいて解決策を見出す能力が求められます。こうした能力を身につけた卒業生が、景気や業種に左右されることなく活躍しています。

 

 先生の学部・学科はどんなとこ

物理は分野を問いません。物理学を基礎から体系的に学ぶことにより、基本原理に立ち返ってものごとを理解し、分野を超えて応用する力が身につきます。東京農工大学工学部生体医用システム工学科では、そのような力を身につけるための物理系の科目に加えて、医療にかかわる計測・診断技術の開発に必要な電子・情報系科目、生物・医療系科目を学ぶことができます。

 

さらに、科学者・技術者として活躍できる人材を養成するための教育プログラムとして、1、2年次から少人数のゼミ形式で学ぶ科目を設けています。物理系の教員だけでなく、電子・情報系の教員や機械系の教員が連携することにより、従来の学問体系に捉われない柔軟な発想のもとに、革新的な生体医用工学技術の研究開発を行うことができる人材の育成を目指しています。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
「2016年3月学生居室にて」研究(以外?)が楽しい!
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 先生からひとこと

勉強、部活、趣味、楽しいこと、つらいこと、どんなことでも“今の”、“自分の”感性で体感しておくと将来楽しくなりますよ。 

 

「2021年3月卒業、修了」コロナ禍による困難もありましたが、学部学生4名、修士学生3名が無事卒業、修了しました!
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 先生の研究に挑戦しよう

「何歩でどこまで行けるのか?-ブラウン運動を体感する-」

サイコロをふりながら一歩ずつ動く方向をランダムに変えたとき、何歩でどこまで行けるのか、何度も繰り返し実際に体感してみる。“始点と終点の距離”と“歩数”の関係がどうなるか。サイコロの目の出る確率に偏りがある場合にどうなるか。決まった歩数である特定の目的地に到達できる確率はどのくらいか。この実験はどんな現象と関係しているのか、などなど。大勢で同時に行っても楽しいと思います。

 

 興味がわいたら~先生おすすめ本

物理学とは何だろうか

朝永振一郎(岩波新書)

天体運行に関するケプラーの模索と発見、科学的手法の開拓者・ガリレオの実験と論証、ニュートンの打ち立てた万有引力の法則など16世紀から現代に至るまで、物理学という学問が、いつ、誰が、どのようにして考え出されたものなのか。日本人2人目のノーベル賞受賞学者、朝永振一郎博士の記した物理学の入門書。「物理学とは何だろうか」ということを文章全体で体現している。自然科学は、人間がそのような五感だけでは把握できない世界の成り立ちを理解し、それをコントロールすることによって様々な技術を発展させるのに不可欠であるということが感じ取れる。 



Star Trek The Next Generation コンプリート版1-7

日本語タイトルは『新スタートレック』(Star Trek:The Next Generation)。宇宙を舞台にしたアメリカのSFテレビドラマシリーズで、1~7回まで揃ったコンプリート版(完全版)がDVD、ブルーレイ化されている。科学、技術、社会、文化などを様々な視点から考えることができる。(ジーン・ロッデンベリー:製作総指揮、パトリック・スチュワート、ジョナサン・フレイクス:主演) 



ラジオ深夜便(NHK)

NHKのラジオ第1(AM)、FMで毎日放送する深夜ラジオ番組。人気俳優、女優、落語家、著名文化人による「ミッドナイトトーク」、趣味や暮らしの話題を生トークする「ないとガイド」などのジャンルの多彩さがすごい。理系、文系、老若男女を問わず、真の教養を得ることができる。

Webサイトへ 


理由なき反抗

1955年のアメリカ映画。ティーンネイジャーの社会や大人への不満・反抗を繊細に描いた、ジェームズ・ディーンの代表的作品。この映画に限らず、本、音楽、スポーツなどを通して思春期にしか共感できないことをたくさん体験しておくと、貴重な財産になるだろう。(ニコラス・レイ:監督、ジェームス・ディーン、ナタリー・ウッド:主演)