【数理物理・物性基礎】

生命のリズムの仕組みと機能を数学と物理の力で読み解く

郡 宏先生

 

東京大学

工学部 計数工学科 数理情報工学コース

 

 どんなことを研究していますか?

生命には、様々なリズムがあります。生物体内には、心臓の拍動、脳波など短い周期で刻まれるものから、女性の月経周期、鳥の渡りや魚の回遊とか植物の開花などのように季節単位のものまで様々あります。特に、24時間の体内時計や心拍は身近なものです。睡眠のリズムや血液の循環など、生命活動に不可欠な機能を持っています。

 

生命におけるほとんどのリズムは、個々の細胞が作り出すリズムが、細胞間のやりとりを通してタイミングを合わせることによって作られています。このような現象は同期(シンクロ)と呼びます。シンクロは生物だけでなく、メトロノームのような機械や化学反応系にも現れる一般的な現象です。このようなリズムの機能や制御方法についての数学的な研究が盛んです。

 

体内時計に異常が起こる仕組みを数式で説明

 

数理物理・物性基礎の分野の中で、私は複雑系科学、非線形ダイナミクス、数理生物学と呼ばれる研究を専門にします。特に、シンクロについて数学的・物理学的に研究を行っています。数学や物理と聞くと生命現象とは関係のない世界と思うかもしれませんが、私は、体内時計に異常が起こる仕組みを理解することに取り組んでいます。

 

例えば、体内時計の動作を記述する数式の構築を行い、それをもとに、時差ボケが起こる仕組みを説明できました。さらに時差ボケを回避する方法を予測し、この方法によって時差ボケの解消時間が有意に短くなることを実証しました。このような研究は看護師など深夜も交代制で働くいわゆるシフトワークの影響を予測し、また、少しでも悪影響を避けるためのスケジュール作りにも活かすことができると考えています。 

 

学生の典型的な研究風景。紙と鉛筆で数式を操ったり、コンピューターでプログラミングとシミュレーションをします。
学生の典型的な研究風景。紙と鉛筆で数式を操ったり、コンピューターでプログラミングとシミュレーションをします。
 この分野はどこで学べる?

「数理物理・物性基礎」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

15.エレクトロニクス・ナノ」の「60.物性物理・量子物理、半導体、電子関連材料」

 


 学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

 

●主な業種は→IT企業、メーカー                          

●主な職種は→SE、技術職(研究開発など)

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
 先生からひとこと

大学では自分の好きなことに取り組み、どんどん探求してください。 

 

 先生の研究に挑戦しよう

シンクロ(同期現象)やパターン形成などの複雑現象や、ネットワーク科学の数学的研究に関して取り組めるテーマがあります。

 

 興味がわいたら~先生おすすめ本

非線形科学 同期する世界

蔵本由紀(集英社新書)

この世界には様々なリズムが存在します。例えば我々の体には、24時間のリズムを刻む体内時計や、全身に血液を送り込む心拍のリズムがあります。これらのリズムは、細胞単位の小さな振動ユニットが多数集まり、同時に活動(シンクロ)することによって生まれます。この本は、シンクロはどのようなところに見られ、またどのように起きるのか、シンクロの世界的な研究者である蔵本由紀さんが、一般向けに解説しています。 



現象数理学の冒険

三村昌泰:編(明治大学出版会)

自然・生命・社会におこる様々な複雑な現象の理解や問題解決に数学が使われます。数学は学問としても大変面白いですが、道具としても現代社会になくてはならないものです。そのことを、生物の形作り、錯視、人類学、金融危機といった身近な話題に取り組む研究者たちが臨場感あふれる描写で語ります。数式はあまり出てこないので、読み物としてサラリと読めます。 



微分方程式で数学モデルを作ろう

デヴィッド・バージェス、モラグ・ボリー 垣田 高夫、大町 比佐栄:訳(日本評論社)

微分の入った等式を微分方程式といいます。微分方程式を使って興味のある現象のルールを書き表したものが数学モデル(数理モデル)であり、これを使えば未来を予測することができます。たとえば病気の伝染の数学モデルを使えばしばらく先の患者数を予測できます。

 

実際どのように数学モデルを作るのでしょうか。この本では薬の吸収、経済成長、そして伝染病などの身近な話題を題材に、具体的にモデルの作り方を教えてくれます。高校で学ぶ微分積分の知識があれば理解できます。数式に飢えている方におすすめの本です。 



カオスとフラクタル

山口昌哉(ちくま学芸文庫)

カオスとは、ギリシャ語で混沌という意味で、自然の中の複雑な現象を解く数学のこと。例えば竜巻のように、最初の動きがわかっても、その後のでたらめな動きから生じる数的誤差により予測できないような複雑な様子を示す現象を扱います。

 

フラクタルとは、やはり複雑な自然の形象を幾何学で表したもの。図形の部分と全体が自己相似になっているものなどがさします。身近な例では、ロシアのマトリョーシカ人形のように入れ子構造になったものや、リアス式海岸のような自然の複雑な形象があります。

 

カオスとフラクタルは、身近で美しい現象であり、物理学、数学においても大変面白い話題です。この本はその一般向けの解説書です。