【素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理】
一般相対性理論:時空・重力・ブラックホールそして宇宙
原田知広先生
立教大学
理学部 物理学科(理学研究科 物理学専攻)
一般相対論は今から100年ほど前にアインシュタインが提案した、時空と重力の理論です。もう少し噛みくだいて言うと、時空とは4次元の曲面であり、その曲率が重力であり、物質の分布によってその曲がり方が決まり、物体はこの曲面上を運動する、という理論です。 これは現在の宇宙物理学の発展を語る上で、なくてはならない基礎理論になっています。
私は、一般相対論とその宇宙物理学・宇宙論への応用をテーマとして、理論的な研究を行っています。研究成果は直接的にはこれらの学問分野に対する、人類の理解を広げることにつながることでしょう。物理学というのは、自然現象とそれをつかさどる自然法則がどのようになっていて、その成り立ちはどうなのかを問う学問です。素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理の分野は、そのなかでも特に基本的・根源的なものを問う学問と言えます。
一般相対論がなければ、現代社会の進展はなかった
この分野の研究成果は結果として、あらゆる科学の分野を通して非常に際立って大きな影響を我々の社会に与えてきました。例えば、物理学の基本法則である力学・電磁気学・熱力学・統計力学・量子力学、そして相対性理論の理解がなければ、我々が日々使用する家電もコンピュータも通信機器も交通機関も、21世紀のあらゆる科学技術そのものがあり得ません。それは自然を最も根源的に理解するというこの分野の特性に起因するのでしょう。
一般的な傾向は?
●主な職種は→システムエンジニア、会社員、教員、研究者、国家公務員、地方公務員
●業務の特徴は→物理学科で習った知識を直接生かすというよりは、物理学を学ぶ中で培われる、物事の根本に遡って考えて問題に対処する力、何らかの法則やモデルに基づいて計算したり考察したりして結論を導き出す能力を期待されているのではないかと考えています。
分野はどう活かされる?
中学校・高等学校の教員として理科を教えている人がいます。それから、大学や高専で教員やポスドク研究員として研究を行っている人もいます。その他、民間企業の社員や公務員になっている人も多いです。
素粒子などの極微の世界から宇宙などの極大の世界までが統一されようとしている物理学の最先端を、 立教大学理学部物理学科・大学院物理学専攻で学ぶことができます。立教大学理学部物理学科のすべての教員は、広い意味での素粒子・原子核・原子物理学と宇宙・惑星物理学を研究分野としています。
ほとんどの大学の物理学科では素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理分野に所属する教員は多くても学科全体の半数程度ですから、立教大学理学部物理学科はこの分野に特化した世界でも珍しい物理学科であるということができます。つまり物理学科全体として、この分野に特に力を入れています。学生は卒業研究などで、この分野についてより深く主体的に学ぶことができます。
カリキュラムは、伝統ある少人数教育を生かし、高校教育とのギャップを早急に解消し、かつ大学院進学者の要望にも対応できるよう配慮されています。必修科目数は極力抑え、物理学科の学生として必要となる教育は実質3年次までに終了し、4年次においては素粒子論・理論宇宙物理学・原子核物理学・原子物理学・宇宙線・惑星物理学などの専任スタッフの研究分野を反映した多種多様な(大学院との共通)科目の選択が可能です。物理学科は大学院物理学専攻につながっています。
事物に則して物理学を学び、物理的な感覚を身につけるために実験が重視されています。特に3年次では基礎的測定技術の習得を重点に置いた物理実験を履修します。一方、物理学においては理論的・論理的思考が重要であるため、演習では、一人の教員と20名程度の学生で構成される小グループに分かれ、教員の助言を得て問題を解き、物理学の方法・考え方に慣れ、基礎的概念や複雑な問題の解法を理解できるように工夫されています。
4年次での卒業研究は、実験あるいは理論の選択必修です。6名程度の学生が一人の教員の指導を受け、1年を通して研究を行い、研究の最前線に触れる機会を提供しています。
物理学の原動力は「知りたい」「見つけたい」「面白い」「楽しい」という人間が本来持っている知的好奇心です。何かの役に立つためにやるわけではありません。でも、物理学は結果的にものすごく人類の役に立っています。それがまた不思議でもあり面白いところでもあります。中高生に読んでほしい本に『相対論的宇宙論』(佐藤文隆、松田卓也:著)があります。私は小学校6年生くらいからずっと読んでいて、この世界に引き込まれました。
2017年・2019年・2020年のノーベル物理学賞は一般相対論的な宇宙物理学が受賞対象になっています。また2020年に発表されたイベントホライズンテレスコープによるブラックホールの直接撮像でも、一般相対論が極めて重要な役割を果たしています。これらの研究業績で、どこにどのように一般相対論が使われているのか調べてみましょう。
相対論的宇宙論 ブラックホール・宇宙・超宇宙
佐藤文隆、松田卓也(講談社ブルーバックス)
一般相対論・ブラックホール・宇宙論などを学問的な正確さを犠牲にせずに、中学生でも高校生でも一般の人でも楽しく読めるように書かれている。文章も面白い。松本零士のイラストも素晴らしい。刊行年は1974年と少し古い本になったが、2003年に復刊された。一般相対論とその宇宙物理学・宇宙論への応用に関する現代的な研究の基本的な論点の多くが取り上げられている。その当時と比べて現在、学問的な知見は大きく進歩したが、基本的な問題意識はほとんど変わっていない。
マンガでわかる熱力学
原田知広(オーム社)
この本は、大学の熱力学の授業を難しく感じている大学生向けに書かれた。もちろん高校生にも十分に読むことができる。エントロピーとは何かを熱力学の観点から理解することを目的としている。熱力学におけるエントロピーの概念は直観的には理解しにくいが、本書はマンガであるので読みやすい。また最後の部分で、ブラックホールの熱力学についても触れている。
インターステラー(映画)
クリストファー・ノーラン監督によるSF映画。地球を離れ新たな居住可能惑星探索を行うためワームホールを通過し、別の銀河系へと有人惑星間航行(インター・ステラー)する宇宙飛行士のチームが描かれる。ワームホールとは、リンゴの虫喰い穴に由来し、そこを通ると光よりも速く時空を移動できるというもので、それはアインシュタインの一般相対性理論の数学的可能性の一つとして生まれたもの。そのような科学的な考証を用いた演出などがある。
製作総指揮に、一般相対論を専門とし2017年にノーベル物理学賞を受賞したキップ・ソーンが入っており、アインシュタインの相対論の用語がどんどん映像化されて登場してくるので楽しい。(クリストファー・ノーラン:監督、マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ:主演)
物理学はいかに創られたか
アインシュタイン、インフェルト 石原純:訳(岩波新書)
物理学に関する歴史的に有名な入門書。著者はアルバート・アインシュタインとレオポルト・インフェルト。ガリレイやニュートン以来の古典的な物理思想から始まり、アインシュタイン自身の相対性理論、そして同じくらい20世紀の物理学に大きな影響を与えた量子論について、解き明かしている。
インフェルトはアインシュタインの弟子で、ポーランドのユダヤ人物理学者。必ずしも数学が得意ではなかったアインシュタインに対して、多くの数学的助言をしたといわれる。もっともこの本では数式は用いず、巧みな比喩と明快な叙述で書かれている。翻訳も素晴らしく、物理学の魅力が小学生から一般向けにやさしくしかも格調高く語られる。