【応用物性】

3Dプリンタのような印刷技術を用いて自在に曲げられる電子デバイスを作製

木村宗弘先生

 

長岡技術科学大学

工学部 電気電子情報工学課程 電子デバイス・フォトニクス工学コース(工学研究科 電気電子情報工学専攻)

 

 どんなことを研究していますか?

私たちの身の回りには、電気を発生する物質、光を発生する物質、光を吸収する物質などがあり、これらの物質の性質をうまく利用しながら科学技術は発展してきました。

 

例えば携帯電話の中身を見ると、通信電波を受け取る電子部品、受け取った電波を解析する電子回路、得られた情報を私達に視覚情報として伝達してくれるディスプレイ……などの様々な電子部品・電子回路で構成されています。「応用物性」と呼ばれる分野は、このような目的に適う物質を探究し、具現化する技術を編み出す分野で、既に知られている物質の性質を詳細に調べたり、新しい物質を人工的に作り出す研究に取り組んでいます。

 

応用物性の分野で、最近は、「プリンテッドエレクトロニクス」が注目されています。これまでの電子デバイスは無機材料を主に用い、真空技術・高温プロセスで作製されてきました。これに代わる材料として有機半導体を用い、インクジェットプリンターやグラビア印刷機の技術を用い、大気圧環境で電子デバイスを作製しようという試みです。低コスト化等の利点の他、紙のように折り曲げ可能なデバイスを造り出すことが目標の一つになっています。

 

プラスチック基板を用いた液晶ディスプレイの開発へ

 

私が取り組んでいるのは、液晶分子が分子自身で並ぼうとする性質を利用し、印刷や塗布に用いる装置を用いて、(1)大気圧環境で有機電子デバイスを作製する技術を開発する、(2)高温焼成を必要とする配向膜を不要とすることで、プラスチック基板を用いたフレキシブル液晶ディスプレイを実現するという二つのテーマの追求です。

 

これまでの液晶ディスプレイは基板にガラスを用いるため落とすと割れやすいという問題がありましたが、プラスチックを用いることが出来れば、低コスト化だけでなく、落としても割れず、折り曲げることも可能なディスプレイが実現出来ます。またスクリーン投影型のプロジェクターは、スクリーン自体がフレキシブルディスプレイに置き換わることになり、投影機は要らなくなります。様々な利用分野が広がると予想されます。

 

3Dプリンタのように、基板の上に数ミクロンの液晶層を形成する「スリットコータ」。分子を並べながら薄膜化する、最新の装置です。
3Dプリンタのように、基板の上に数ミクロンの液晶層を形成する「スリットコータ」。分子を並べながら薄膜化する、最新の装置です。
 この分野はどこで学べる?

「応用物性」学べる大学・研究者はこちら (※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

15.エレクトロニクス・ナノ」の「60.物性物理・量子物理、半導体、電子関連材料」

 


 学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

 

●主な業種は→エレクトロニクス産業分野

●主な職種は→設計開発分野、技術営業、フィールドサービス分野

●業務の特徴は→電子工学やソフトウェア技術を活かし、液晶ディスプレイの設計・開発や、製品の営業(パソコンや携帯電話を製造しているメーカーに対して)など

 

分野はどう活かされる?

 

シャープやジャパンディスプレイなどの液晶ディスプレイ製造メーカーにて、液晶ディスプレイの設計・開発や、製品の営業(パソコンや携帯電話を製造しているメーカーに対して)など。

 

 先生の学部・学科はどんなとこ

長岡技術科学大学工学研究科電気電子情報工学専攻では、現代社会を支えるエネルギーシステムの技術者、高度情報化・効率的エネルギー・安全安心を指向した社会を支える、電子・光等の複合機能を持つ先端デバイスの技術者、及び情報通信制御分野を中心とする先端ハード・ソフトウェアの技術者を育成します。

 

特に、電子デバイス・光波エレクトロニクス工学コースでは、電子や光学に関する基礎から応用まで幅広く習得することを目指しています。IoT時代の情報通信機器には半導体・セラミックス・有機デバイス・レーザー・光スイッチ等のデバイスが用いられています。最先端の研究設備を備えた各研究室において、情熱にあふれた教員の指導のもと、一流の技術者・研究者を社会に送り出すべく教育が行われています。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
数年前に開かれた卒業生の送別会での一コマ
数年前に開かれた卒業生の送別会での一コマ
 先生からひとこと

資源の少ない日本は、技術力で世界をリードし、身の回りに溢れる電子デバイスは私達技術者の汗と涙の結晶とも言えます。スマホやゲーム機の中に入っている電子デバイスは、その多くは日本が世界トップの性能を実現したものです。そうした世界トップの技術を一緒に開発していきませんか。あなたの名前が冠されたデバイスが生み出せるかもしれませんよ。

 

 先生の研究に挑戦しよう

【テーマ例】

プラスチックフイルムの上に液晶を配向させ作製するフレキシブル液晶ディスプレイの開発

 

 興味がわいたら~先生おすすめ本

挑戦こそが成功の鍵

吉川敏則、末松久幸(近代科学社)

最近、5歳の〇〇ちゃんに「ボーっと生きてんじゃねーよ! 」と叱られるテレビ番組が人気ですが、このテレビ番組放映のずいぶん前にこの本は編まれていました。書かれている全てのテーマが「なぜ□□は、△△なのか?」で統一されていて、まるで、かのテレビ番組はこの本のパクリじゃないか?と思うお話ばかりです。

 

この本で各先生方は、「なぜ?」を明らかにするために日々挑戦していく姿を書き記していて、工学系大学での研究とは、皆さんの生活を豊かにするために頑張っているのだということを実感いただけると思います。



トコトンやさしい液晶の本

鈴木八十二、新居崎信也(日刊工業新聞社)

IT時代のニーズにより液晶が進化し続け、テレビは8Kスーパーハイビジョンへ、電話はタッチパネルを内蔵したスマートフォンへ、車載用にはヘッドアップディスプレイなどが登場しています。これらの技術進歩を支えている液晶の種類と仕組み、開発・製造技術などを楽しく紹介しています。液晶の物性はまだまだ未解明な部分が多く、液晶を配列させる技術も開発途上ですが、これら液晶の応用物性についてもわかります。



イラストレイテッド 光の科学

田所利康、石川謙、大津元一:監修(朝倉書店)

波としての光の性質に始まり、ガラスの中で光は何をしているのか光の屈折・散乱現象を述べ、「なぜヒマワリは黄色く見えるのか」という章では色の起源とスペクトルについて解説しています。美しいカラー写真やわかりやすい図柄をふんだんに使った「光の絵本」という感じです。光物性の理解が、ビジュアルによってより進みます。



液晶のしくみがわかる本

竹添秀男、宮地弘一、高西陽一(技術評論社)

パソコンやスマホなどの液晶ディスプレイなど今や身近な液晶だが、その液晶技術や材料について、技術者を読者に想定して、図解した本です。やや古いので、基礎を抑えるために。



光と色彩の科学 発色の原理から色の見える仕組みまで

齋藤勝裕(講談社ブルーバックス)

赤いバラが赤く見えるのは、赤の補色の青緑を吸収し赤だけが目に見えるからです。これに対して蛍光ランプの赤は、赤い色を発しています。同じ赤でも、光の反射によって見える赤と自ら光を発する赤とは違って見えるといいます。この本は、色彩学の基礎や物理的な考察だけでなく、色彩の生理学、色の見え方と心・脳との関係、光を使った最先端技術まで光と色彩の様々な話題を取り上げています。