【応用物性】

電力輸送でのロスを大幅に節約~高温超伝導送電による究極の省エネ技術

喜多隆介先生

 

静岡大学

工学部 電気電子工学科 エネルギー・電子制御コース(総合科学技術研究科 工学専攻 電気電子工学コース)

 

 どんなことを研究していますか?

応用物性は様々な電気電子材料の性質(物性)を調べ、それを応用した機器を実現する科学や工学に関する分野です。例えば私が研究している酸化物高温超伝導体材料は1986年に発見され、翌年ノーベル賞を受賞した、いわば人類にとって非常に大きなインパクトを持つ材料です。

 

このように、新しい材料の物性を調べ、人類社会にとって学問的にも実用的にも意義のある研究を行うのが応用物性という学問分野なのです。最近発見されている新しい材料の特徴として、従来は別々であった2つの性質を同時に合わせ持った材料があげられます。例えば、磁性(磁石に付く性質)と誘電性(電気を蓄える性質)を有するマルチフェロイック材料などです。

 

自然エネルギーのグローバル電力ネットワークの実現を!

 

応用物性という学問分野の中で、私は超伝導材料工学を専門にしています。特に重点を置いているテーマは「高い電流輸送特性を持つ酸化物高温超伝導体薄膜」です。もしこれが実現すれば、電力エネルギーを超低損失で送ることができるため、現在、電力輸送で失っている多くのエネルギー(日本では1年間に約550億kWh)を節約できる「究極の省エネ」につながります。

 

ゆくゆくは火力や原子力に依存せずに、必要な電力を太陽光発電などの自然エネルギーでつくり、必要なエネルギーを世界的なスマートグリッドを構築してまかなうことが可能となるグローバル電力ネットワークの実現も夢ではありません。

 

実験風景。超伝導膜を熱処理している様子を確認している。金色の筒状のものは、赤外線を閉じ込めて超伝導薄膜に熱を与えている環。
実験風景。超伝導膜を熱処理している様子を確認している。金色の筒状のものは、赤外線を閉じ込めて超伝導薄膜に熱を与えている環。
作製した高温超伝導膜 説明:左手に持っているものは超伝導薄膜を作るための原料溶液。この溶液を基板に塗布・熱処理(図2の装置)して超伝導膜を作製する。右手に持っているのは研究室で作製した超伝導薄膜。この薄膜は1平方センチメートルあたり480万アンペアもの電流を流す事ができる性能を持っている。
作製した高温超伝導膜 説明:左手に持っているものは超伝導薄膜を作るための原料溶液。この溶液を基板に塗布・熱処理(図2の装置)して超伝導膜を作製する。右手に持っているのは研究室で作製した超伝導薄膜。この薄膜は1平方センチメートルあたり480万アンペアもの電流を流す事ができる性能を持っている。
 この分野はどこで学べる?

「応用物性」学べる大学・研究者はこちら (※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

15.エレクトロニクス・ナノ」の「60.物性物理・量子物理、半導体、電子関連材料」

 


 学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

 

●主な業種は→電力、鉄道、自動車製造関係の分野

●主な職種は→製品技術開発、生産技術開発、研究開発

●業務の特徴は→社会の基盤となる重要な技術の開発、先端電子機器の開発

 

分野はどう活かされる?

 

・電力の安定供給技術の開発:電力エネルギーを高効率に利用するための酸化物超伝導材料の研究開発を通して、安定した電力エネルギーを社会に供給するための技術開発を行っている。

 

・鉄道輸送に不可欠な電気機器の開発:電力エネルギーを高効率に利用するための酸化物超伝導材料の研究開発を通して、社会インフラを支える鉄道に不可欠な機器システムの構築を行っている。

 

・先端電子機器の開発:電力エネルギーを高効率に利用するための酸化物超伝導材料の研究開発や材料解析技術を通して、最先端の電子材料や機器の開発を行っている。

 

 先生の学部・学科はどんなとこ

本大学においては、応用物性の観点からは、超伝導体、半導体、絶縁体や有機材料など幅広い材料とその応用について研究が行われています。学問的な観点からは、例えば超伝導、光電変換、電子発光、トランジスタなどの電気電子工学分野、バイオマスなどの生物工学分野、燃料電池などの物質化学分野など、これからの人類社会に不可欠な幅広い分野への応用が、多くの大学間や産業界との共同研究を通して研究されている総合力を有しています。

 

静大工学部のある浜松キャンパスにて。毎年研究室メンバーと集合写真を撮っています。
静大工学部のある浜松キャンパスにて。毎年研究室メンバーと集合写真を撮っています。
 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
研究室の学生に浜名湖でウインドサーフィンを体験してもらうイベントを行った時の写真。研究だけでなく、学生時代に色々なことに挑戦してほしいとの思いから。右端が喜多(手に持っているのは愛犬)。
研究室の学生に浜名湖でウインドサーフィンを体験してもらうイベントを行った時の写真。研究だけでなく、学生時代に色々なことに挑戦してほしいとの思いから。右端が喜多(手に持っているのは愛犬)。
趣味のウインドサーフィン  30年以上続けている趣味のウインドサーフィン(写真は浜名湖でウインドサーフィンする喜多)。浜松市は2018年に「マリンスポーツの聖地」宣言をしている。
趣味のウインドサーフィン 30年以上続けている趣味のウインドサーフィン(写真は浜名湖でウインドサーフィンする喜多)。浜松市は2018年に「マリンスポーツの聖地」宣言をしている。
 先生の研究に挑戦しよう

「新しい酸化物超伝導体を合成する研究」

一見すると難しいようですが、材料開発はまず作ってみることもとても重要です。また、酸化物超伝導体は、それほど高価な実験機器がなくても、電気炉や乳鉢などがあれば取り組めます。材料設計に関する基本的な知識をある程度勉強する必要がありますが、高校レベルの物理と化学の知識があれば、それほど難しくないと考えられます。もしかしたら未知の材料を発見できるかもしれません。そして何よりも、未知なものを自分の手で作り上げる、ものづくりの醍醐味と楽しさを味わえます。

 

 興味がわいたら~先生おすすめ本

トコトンやさしい超伝導の本

下山淳一(日刊工業新聞社)

超伝導についてわかりやすく説明された入門書。どうして超伝導になるのかなどの物理としての基礎的な話から、高温超伝導材料を使って電力ケーブルを作るにはどうするか、コンピューターへ応用など、工学応用に関する話題まで、最新の研究にも関連する応用が紹介されている。



世界一すごい! 日本の鉄道

宝島編集部:編

超伝導リニア開発は、日本の超伝導技術開発を大きく進展させてきた超電導技術開発の歴史でもある。なぜ日本の超伝導リニアがすごいのか、さらに最近最も注目されている超伝導のエネルギー応用として、酸化物超伝導体を使った超伝導ケーブルやエネルギー貯蔵があるが、これにより我々の社会はどう変わるのかなど、高温超伝導技術応用に関する静岡大学喜多隆介先生のインタビュー記事が掲載されている。



二重らせん

ジェームス・デュース・ワトソン 江上不二夫、中村桂子:訳(講談社文庫)

DNAのらせん構造を解明した科学者の物語。未知なことにどのように取り組むか、その困難と解明した時の研究者の喜びなど学問の醍醐味が伝わる。



フェルマーの最終定理

サイモン・シン 青木薫:訳(新潮文庫)

数学の分野ではあるが、数学の分野の醍醐味だけでなく、学問的な難問に挑戦してきた数学者のドラマを通して学問の醍醐味を味わえる。



生物と無生物のあいだ

福岡伸一(講談社現代新書)

科学者は未知なテーマにどのように挑戦していくのかが、迫力を持って伝わってくる。分子生物学の面白さが十分伝わってくるだけでなく、若い人が様々なことに挑戦していく勇気を与えてくれる。