最先端研究を訪ねて


【固体地球惑星物理学】

地殻変動観測

GPSで潮の満ち引きを観測し、地下プレート運動を解明するユニークな手法を考案

伊藤武男先生 

 

名古屋大学

理学部 地球惑星科学科(環境学研究科 地球環境科学専攻/地震火山研究センター)

 

名古屋大学 地震火山研究センターが御嶽山の山頂の剣ヶ峰に設置したGNSS連続観測点にて
名古屋大学 地震火山研究センターが御嶽山の山頂の剣ヶ峰に設置したGNSS連続観測点にて

 

◆着想のきっかけは何ですか

 

潮の満ち引きにより、海面は周期的に上下します。この現象を調べるために、GPSのような地上の現在位置を決定する衛星測位システム(GNSS)を利用できれば面白いとひらめいたのがきっかけです。

 

すると、潮の満ち引きによって海水が移動し、その移動した海水の質量で地面を周期的に1日2回押し下げていることが、GNSS観測からわかりました。これを利用して海水の移動に伴う地殻の変形パターンを詳しく調べれば、地震波を使わなくても地下構造がわかるという、非常にユニークな手法を考案しました。

 

 

◆その研究が進むと何が良いのでしょうか

 

地震波を使わなくても地下構造がわかるメリットとして、地震が発生しない場所でも地下構造を知ることができるようになります。また、この手法は地震波ではわからない、地下の密度や温度構造もわかる可能性を秘めています。

 

◆例えばどんな未解決問題を解決しましたか

 

具体的には、アメリカ西海岸の地下の温度・密度構造を、GNSS観測から推定しました。プレートの下には、柔らかい層があることが知られています。しかし、なぜ柔らかいのか、温度が高くて柔らかいのか、それとも柔らかい物質が存在するのかなど、未解決な問題がありました。我々は、温度が高くて柔らかくなっていることを明らかにしました。

 

地下構造の密度や温度が明らかになれば、火山、断層、地震等の様々な地殻変動の原因となるプレート運動の速度を決めているものは何かなど、より本質的な理解につながります。

 

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

多くの人は地形の成り立ちから、活断層の周辺や海岸部に居住しており、常に地震の脅威にさらされています。そのため、持続的な都市計画の立案や、人々の財産を守るための、地震の発生ポテンシャルの評価は欠かせません。

 

現状では、数百年・数千年に一度発生するような地震の発生予測をすることは難しいですが、継続的な地殻活動の観測や地震現象の丹念な解析によって、地震の発生ポテンシャルの評価ができると考えています。

 


 学生時代のおもいで

中学時代に父と富士山に登山したことがきっかけで、高校では山岳部に所属し、自然に触れる機会が多かったことから、自然に関する学部・学科を選択しました。また、大学に進学してからは、自転車にテントを載せて旅行をして、大学卒業までに北海道と沖縄県以外の全都府県に足を踏み入れました。

 

自転車での旅行は予期せぬトラブルの連続で、トラブルを解決する度に「若い時の苦労は買ってでもせよ」とはよく言ったものだと実感しました。同様に、研究もトラブルの連続で、この時の経験が今でも生きています。ぜひ勉学だけでなく、遊びにも全力で取り組んで、トラブルを恐れず色々なことにチャレンジをしてください。

 


 この分野はどこで学べる?

「固体地球惑星物理学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

3.地球・宇宙・数学」の「8.地球科学・古生物、惑星圏科学・宇宙塵」

 


 もっと先生の研究・研究室を見てみよう

伊藤武男HP

 

「海洋潮汐から地球の構造を診る」(理フィロソフィア)

 

名古屋大学 地震火山研究センターの全国の地震のデータ等を収集するテレメータ室内にて
名古屋大学 地震火山研究センターの全国の地震のデータ等を収集するテレメータ室内にて
 学生はどんな研究を?

より現実的な地球を計算機の中で表現し、海洋プレートを日本列島の下に沈み込ませて、プレート境界面での力のかかり具合や、地形がどのようにできるのかなどを調べる数値実験を行なっています。

 

例えば、瀬戸内海はどうやってできるのかなど、身近な問題について考えます。また海溝型地震の長期評価の一例として、フィリピン海プレートが上盤側をどれくらい引きずり込んでいるかについて、地殻変動観測から推定します。

 

一方で日本だけではなく、インドネシア、コスタリカ、コロンビアなど世界各地のプレート境界をターゲットに、地震発生のポテンシャルの評価を行っています。その他にも地震だけでなく、火山活動に伴う地殻変動をGNSS等で観測し、マグマの蓄積速度などを推定するなど、幅広く研究を行っています。

 

 OB/OGはどんなところに就職?

◆主な業種

 

・ソフトウエア・情報システム開発

・ネットサービス/アプリ・コンテンツ

・通信

・電気・ガス・水道・熱器供給業

・コンサルタント・学術系研究所

・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関

 

◆主な職種

 

・基礎・応用研究・先行開発

・保守・メンテナンス・維持管理、運用・システムアドミニストレータ・サービスエンジニア

・セールスエンジニア・技術営業

・技術系企画・調査、コンサルタント

・大学等研究機関所属の教員・研究者

・その他の教育機関教員、インストラクター

 

◆学んだことはどう生きる? 

 

数値計算を行ったりするので、IT業界への就職や、地震・火山等の研究をするので、環境コンサルタントに就職することも多いです。

 


 先生からひとこと

地球物理学や測地学という学問分野はあまり聞き慣れていないと思いますが、生活の中にすでに入り込んでいます。例えばGPSは、測地学では非常に有用なツールとして活用されています。GPSは地面の変形をミリ単位で計測でき、それによってどのような事柄が地下で起こっているのかを知ることが可能です。

 

特に、地震発生前において歪エネルギーが蓄積する様子や、火山噴火に至るマグマの蓄積は、GPSによって調べることが可能になりつつあります。まだ実用的な段階ではありませんが、地震発生や火山噴火の長期予測について、基礎的な情報になりつつあるのです。ぜひ、多くの高校生が自然科学に興味を持ってくれると嬉しく思います。

 

 先生の研究に挑戦しよう!

 

地震の発生時期の予測は困難なので、過去の事例から調べることはとても大切です。気象庁のHPには過去の地震のリストがあります。この地震のリストと一見関係がなさそうな事柄(例えば、月齢、曜日、時間、季節、気圧、太陽活動度など)との関係性を統計的に調べると思いもよらない関係性に気が付くかもしれません。

 


 中高生におすすめ

地球が丸いってほんとうですか? 測地学者に50の質問

大久保修平(朝日選書)

「地球は少しつぶれた球体である」。本書にはこのような知っているようで知らない事実が満載で、あちらこちらに読者を飽きさせない工夫が仕掛けてある。「測地学」はあまり馴染みのない学問分野かも知れないが、例えば「海の深さや山の高さってどうやって測ったんだろう?」と素朴な疑問から出発することで、身近に感じられてくるだろう。知っていることでも体系的に説明されると原理が分かり、何度読んでも飽きない。文章も読みやすく、測地学に初めて触れるのにはうってつけだ。

 



 先生に一問一答

Q1.一番聴いている音楽アーティストは?

ビッケブランカ。愛知県出身のファルセットヴォイスの持ち主で、物語性のある歌詞も魅力的。最近一押しの音楽アーティスト。

 

Q2.大学時代の部活・サークルは?

サイクリング部。日本全国あらゆる場所に、自転車で旅行をして自然を楽しむサークル。

 

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

テレビ局でのアルバイト。朝の情報番組のロケのアシスタントで、カメラにケーブルや機材が映らないように配慮する仕事で、隠れたところで色々な配慮がなされていることを実感した。