Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
研究の関係でシリコンバレー(アメリカ)とパリに住んだことがあります。両方とも人々と社会がダイナミックに動いていることを実感しました。またそこで暮らしたいですね。
最先端研究を訪ねて
【素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理】
ニュートリノ
宇宙に充満している謎の素粒子ニュートリノを測定し、宇宙構造の秘密に迫る
末包文彦先生
東北大学
理学部 物理学科(理学研究科 物理学専攻)
◆着想のきっかけは何ですか
この宇宙に充満している謎の素粒子。それは、ニュートリノと呼ばれています。ニュートリノがやっかいなのは、捕まえることが非常に難しいからです。なぜならニュートリノは物と衝突しても、何もせずにすり抜けてしまうからです。
まるでニュートリノは、透明人間のようです。しかし、この見ることも感じることもできない不思議な素粒子が、実は宇宙の構造や歴史に重要な影響を与えてきたと考えられています。そのためこの宇宙を理解するためには、ニュートリノの性質を解明することが不可欠なのです。
◆具体的にどんな研究ですか
ニュートリノの性質の解明には、ニュートリノが振動しながら伝わる様子を測定する必要があります。ニュートリノ振動には3種類あることが分かっていますが、そのうちの1つは日本のニュートリノの検出装置スーパーカミオカンデで発見され、梶田隆章博士がノーベル物理学賞を受賞しました。
私たちは、原子力発電所から発生するニュートリノが飛行する間に、その他の種類のニュートリノに変化する様子を測定しました。東北大のカムランド実験で2つ目の、フランスのダブルショー実験で3つ目の振動現象の測定に、世界で最初に成功しました。
◆どんなことがわかりましたか
最大の成果は、ニュートリノ振動の測定によって、ニュートリノの重さの関係や、混じり合いの大きさが全て分かったことです。この研究成果は、現在の宇宙がどうして物質だけでできているのか、なぜ反物質が存在しないのか、その謎を解くための大きな手掛かりになります。今後は、新しいニュートリノ実験によって、この謎の完全な解明や、ダークマターの解明などを目指します。
私が物理をめざすきっかけとなったのは、中学生の時に読んだトンデモ本でした。その本にはナメクジがテレポートすることなどが書かれていましたが、速く飛ぶロケットの中では時間の進みが遅くなるということも書かれていました。
「ナメクジ」は嘘くさいけれど「時間の遅れ」は本物のような気がして、非常に不思議に思い、これを理解したいと強く思ったのがきっかけです。1970年の大阪万博も、科学を目指すきっかけの1つでした。万博会場で未来の社会を垣間見て大きな刺激を受け、科学は素晴らしいと思いました。
◆「研究室紹介 神岡地下実験施設を覗いてみよう!」(東北大学理学部 理学研究科 YouTube)
◆Neutrino physicist takes up Pascal Chair(CERN Courier)51ページ
博士課程の学生がフランスに長期間滞在し、ニュートリノ振動の測定のための実験準備を行いました。また、別の博士学生は大強度の加速器施設を持つJ-Parc研究所に滞在し、第4のニュートリノの探索実験を行っています。また、主に修士学生が中心となり、新しいニュートリノ検出装置の開発などを行っています。
◆主な業種
・電気機械
・コンピュータ・情報通信機器
・半導体・デバイス
・自動車メーカー
・教育機関・研究機関
◆主な職種
・基礎・応用研究
・設計・開発
・システムエンジニア
・中学教員
◆学んだことはどう生きる?
海外の研究機関の研究員として素粒子研究に従事している他、中学校の数学の先生や、メーカーの研究などに従事しています。
素粒子物理学は、物質の本質を理解しようとする学問であり、ひるがえってそれは宇宙の理解にもつながります。大学で勉強し、このような研究を行う過程で、文字通り目から鱗が落ちるような経験を、何度もすることになります。
例えば相対性理論や、量子力学を学んだ時、それまでの経験から培われた世界観が崩れることを体験するはずです。現在中学・高校生の皆さんにもぜひ将来、このようなエキサイティングな体験をして、科学の発展に貢献していただければと思います。
高エネルギー加速器研究機構(通称KEK)では、中学生高校生を対象にした参加型教育を行なっています。例えば、本物の実験データを解析し、新しい素粒子を探したり、サイエンスキャンプに参加して、研究者と一緒に素粒子検出器を作って研究をしたり、理論的研究をしたりします。
自分のアイデアを研究者に説明して、その実現方法を一緒に考えたりするのも面白いのではないでしょうか?興味のある方は、下のURLをご覧ください。
https://www.kek.jp/ja/education/
ニュートリノ天体物理学入門 知られざる宇宙の姿を透視する
小柴昌俊(ブルーバックス)
2002年にノーベル物理学賞を受賞された小柴昌俊先生が、ノーベル賞を受賞したカミオカンデ実験を軸として、素粒子・宇宙・星・超新星・ニュートリノなど、物理学について幅広く説明してくれる。
特に高校生の方には、小柴昌俊先生が若い時にどんなことを考え、行動し、どんな努力をし、どんな縁を得てノーベル賞を受賞するに至ったかをぜひ知って欲しい。努力して業績を積み重ねていく過程を読んで、皆さんにもいつかノーベル賞を受賞する学者になる可能性があることをわかって欲しい。
ご冗談でしょう、ファインマンさん
R・P・ファインマン:著 大貫昌子:訳(岩波現代文庫)
ノーベル物理学賞受賞者にして現在の理論物理の骨組みを作った、物理学研究者たちのヒーロー、ファインマン博士。本書では、博士の日常で起こる様々な出来事が、彼一流のユーモアを交えて物語られている。
ところどころで、先入観に捉らわれず事物の本質を見定めようとする姿勢、楽しむこと・希望を抱くことを大切に考える、博士の生き方に触れることができる。科学が好きな学生や研究者が読み継いできたロングセラーであり、科学好きなら1度は読んでおきたい良著である。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
研究の関係でシリコンバレー(アメリカ)とパリに住んだことがあります。両方とも人々と社会がダイナミックに動いていることを実感しました。またそこで暮らしたいですね。
Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?
『2001年宇宙の旅』。私の科学体験の原点の1つです。特撮は今見ても素晴らしい出来です。テーマも深淵で、エピソードも安っぽくありません。
Q3.熱中したゲームは?
学生時代インベーターゲームが流行り、それに少しハマりました。現在では研究活動そのものが、まだ誰もゴールを知らない大きなゲームを、世界中の研究者と協力しながらしているような気がしています。