最先端研究を訪ねて
【自然災害科学・防災学】
地震・津波
地震と津波の発生をリアルタイムで推定、即時推定・予測システムを開発
太田雄策先生
東北大学
理学部 宇宙地球物理学科(理学研究科 地球物理学専攻/地震・噴火予知研究観測センター)
◆研究のきっかけは何ですか
私達は、カーナビやスマホの位置情報の把握にも活用されているGPS (全地球測位システム)によって、地殻変動をモニタリングすることで、巨大地震が発生した直後に、その地震の規模や、その断層面の大きさなどを即時的に推定する手法を開発してきました。
2011年3月11日に東北地方太平洋沖地震が発生した際、地震計だけを用いた気象庁の地震規模推定では、地震の規模をM(マグニチュード)7.9と大幅に過小評価し、その結果、予測される津波規模も大幅に過小評価してしまうという結果となりました。
当時、私たちはGPSを用いた地震規模のリアルタイム推定手法の開発をほぼ完了させていましたが、残念ながらこの地震には間に合わせることができませんでした。
もし開発したシステムが当時動いていれば、地震発生からリアルタイムでM8.7と、実際の地震規模であるM9.0に近い値で推定することが可能でした。
さらに、GPSを用いた方法では、地震の規模だけではなく、断層面の大きさを即時推定することも可能です。これは津波の即時予測をする上で、きわめて重要な情報になります。
◆どんな成果が上がりましたか
それまでにも、GPSは地震規模の即時推定に使えることは分かっていましたが、それを実際のデータで実証した研究はありませんでした。これに対して我々は、より短い時間間隔での解析を高い精度で実施し、その結果に基づいて、地震後5分以内で地震規模を正確に把握できることを明らかにしました。
その後、これらの成果に基づいて、全国1200を超えるGPS基準点で、GPSデータをリアルタイム解析し、地殻変動や地震規模を即時的に推定するシステム(REGARD)を、国の機関である国土地理院と共同開発しました。国家規模でこうしたシステムを実現したのは、このREGARDが世界で初めてです。
REGARDは、2016年から稼働し、例えば2016年に熊本県で発生した熊本地震において、完全に自動で地震規模や断層面を推定することに成功しています。さらにリアルタイムGPSと、実際に津波を観測する海底水圧計を組み合わせることで、より迅速かつ正確に津波予測をする手法の開発などにも成功しています。
【具体的な研究課題】
・巨大地震規模やその広がりの即時推定における「推定の不確実性」を定量的に評価する手法の開発。得られた手法を、実際に使える災害情報に加工するための技術開発
・GPSデータから断層すべりの不均質性を推定する、新しい研究手法の開発
・地震が発生した直後のゆっくりとした地殻変動場を正確に推定することによって、断層面上で発生しているすべりの特徴を明らかにし、断層面上の摩擦特性を明らかにしようとする研究
・海底で観測される水圧計を用いて、ゆっくりとした地殻変動を高精度に検出しようとする研究
などを一緒に研究しています。
【学生と一緒に目指していること】
・理学的な研究を軸として、必要に応じて積極的に実社会の防災・減災に資することができる研究も合わせておこなっています。ただし、あくまで軸足は理学的な知見 (自然現象の根本理解)に置きたいと考えています。
・データには、信号もノイズも両方含まれています。それをどれだけ客観的に分離して信号のみを取り出せるかについて、常に意識して研究を進めています。あわせて実際のフィールドで観測データを取得し、それを用いて研究を進めることも重要視しています。
◆主な業種
・コンピュータ・情報通信機器
・鉱業・資源
・官庁、自治体、公的法人、国際機関等
◆主な職種
・基礎・応用研究、先行開発
・設計・開発
・システムエンジニア
◆学んだことはどう生きる?
卒業生、修了生は多様な業種に就職していますが、いずれも研究を通して学んだ論理的な思考力、問題解決力、表現力を発揮して活躍してくれていると考えています。最先端の研究の知見は、きわめて早いスピードで普遍化します。しかし、研究を通して学んだ論理的な思考力、問題解決力、表現力は、広い分野で共通し、かつ強力な武器になると考えています。
自分の興味の間口を広く持つようにすることをお勧めします。高い専門性は、幅広い知識の裾野の上に初めて成り立ちます。また、自分の考えを言葉、文章で論理的に伝えることは、いずれの分野でもきわめて重要です。幅広い興味、論理的に物事を伝える能力を涵養するためには、良質の書籍に数多く触れることがきわめて重要です。