Q1. 日本以外の国で暮らすとしたらどこ? その理由は?
米国:限りない可能性の国。ドイツ:質実剛健という国民性。
最先端研究を訪ねて
【地域環境工学・計画学】
土壌づくり
自然の造った土壌間隙を活用!緑と土の環境を回復し、温暖化問題を解決する
森也寸志先生
岡山大学
工学部 工学科 環境・社会基盤系(環境生命科学研究科 社会基盤環境学専攻)
◆着想のきっかけは何ですか
植物の根やミミズなどが移動した跡には、大小とりどりの粗大な間隙ができていることがあります。この、自然が造り出した土壌水路をX線で細かく調べると、人体の大動脈と毛細血管にも似た構造をしています。水や溶質を迅速に移動させたり、細かい部位にゆっくり移動させたりする機能を持ち合わせていました。
この自然が造る土壌間隙を、マクロポアといいます。私は、汚染された土壌を浄化する実験をしている時に、普通に土を詰めると目詰まりするので、マクロポアに似た人工的な構造物を作った方が良いと着想しました。元々自然が持つ構造を逆に利用して、環境の改善を行おうと考えたのです。
◆どんな課題が解決されましたか
実際に人工マクロポアを採り入れると、様々な種類の植物が育つようになりました。マクロポア部分だけではなく、周囲全体の水の染み込み方も改善しました。植生が回復し、有機物があふれる土になりました。
二酸化炭素を吸収する緑が回復し、土壌が炭素を蓄積することは、地球温暖化を解決するために必要な大きな課題の1つなのです。
◆その研究が進むと何が良いのでしょうか
緑と土の回復・集中豪雨に耐えられる土壌づくりは、その技術開発が大規模になりがちで、自然環境に対する負荷が大きくなりがちです。その点、自然の持つ力を逆に利用するこの方法は、環境負荷が小さくて済みます。シンプルな方法なので、環境課題が発生している世界中のどこでも実践できます。
土壌は陸域最大の炭素貯蔵庫で大気の2倍、植物バイオマスの3倍の炭素を有しており、生態ピラミッドの底辺にある植物の、さらに下から我々の環境を支えています。
その理解・保全・修復は、豊かな生態系、安定した食料生産に欠かせないばかりでなく、地球温暖化の軽減のために必須です。
卒業論文で、X線を使って土壌間隙構造を可視化するという課題に取り組みました。できあがった写真(トップの写真参照)は、人体の血管網のようにも見え、足下の土くれが非常に高度な機能分化をしていることがわかりました。
IPCCが2007年にノーベル平和賞を取り、地球温暖化がクローズアップされた頃、この間隙を人工的に作ると、植生の回復と土壌有機物の増加が見られ、土壌が炭素貯蔵庫として温暖化の軽減に役立ち、その研究に地球科学的広がりを見出しました。
人工マクロポアの導入による、石垣島さとうきび畑の土壌流亡を軽減する研究や、フィリピンの棚田の修復と保全などに取り組んでいます。また土壌を改質し、土壌有機物の量を増やす研究を行っています。
◆主な業種
・農業、林業、水産業
・コンサルタント・学術系研究所
・官庁、自治体、公的法人、国際機関等
◆主な職種
・基礎・応用研究・先行開発
・技術系企画・調査、コンサルタント
◆学んだことはどう生きる?
・地域または国全体の農地保全と整備
・土壌分析と効率的営農についての助言と実践
・水資源逼迫地域における効果的な水利用
・環境分析データに基づくコンサルタント
などの仕事で活躍しています。
環境問題の課題の1つは、都市ではない自然の多い場所で発生することです。土・水・大気はその貴重さ、偏在性から環境資源と呼ばれており、緑色植物のさらに下から生態ピラミッドを支えています。
温暖化や気候変動の影響が顕在化する今、環境保全・環境修復を含む学問は、地域社会だけでなく地球全体を守る科学になります。大学では、物理・化学・生物・地学というツールだけでなく、複合的な視点から課題解決に当たることを教えています。
・吸水性ポリマー(紙おむつ)と土を混ぜて、水を吸わせ、植物を育てて乾燥地における作物栽培の可能性を考えてみよう。種から芽は出るだろうか?何%混ぜると効果が出るだろうか?100%では?
・森林土、畑(水田)土、砂などを採取してきて、酸性雨を降らせ、pHを計り、環境変動に対する緩衝能を調べてみよう。土は粒径の違いと、有機物の量によって、環境変動に対する緩衝能が変わります。それぞれの土で違う反応をすると思うので、その違いを見てみよう。
※多少、専門的なガイドがあった方がよいので、高校の先生に助言を求めてもよいでしょう。
すごい畑のすごい土 無農薬・無肥料・自然栽培の生態学
杉山修一(幻冬舎新書)
農薬も肥料も使わないリンゴ栽培に成功し、「奇跡のリンゴ」としてテレビ番組にも取り上げられた木村秋則さんの畑。その土中には、植物に寄生する菌根菌などの微生物が、通常の1.5倍から2倍も生息しているという。土中の微生物や畑の雑草、そこに来る虫たちといった生物が相互にネットワークを作っており、それが土壌を豊かにしているのだ。
土壌は、生態ピラミッドの底辺にある緑色植物をさらに下から支える存在で、陸上最大の炭素貯蔵庫(二酸化炭素を削減してくれる資源)でもある。木村さんの畑についての著者の考察から、土壌について、そして環境について学ぶことができる。
ダーウィンのミミズの研究
新妻昭夫(福音館書店)
進化論で有名なダーウィンは、実はミミズの研究者でもある。ミミズが飲み込んだ土を消化してどう砕くのか解剖して調べたり、白亜(柔らかい石灰質の岩石)を撒いた牧草地を掘り返してミミズが石を埋める速度を計算したり、29年もの間、ダーウィンはミミズと土の関係を調べていた。
本書はダーウィンのミミズ研究のエッセンスも凝縮しつつ、1つの現象に注目し、仮説を立て、観察や実験を行って仮説を証明するという、科学の基本的な手続きそのものを面白いと感じさせてくれる。物理・化学・生物に分けない、理科科目の知識全てを活用してなされる研究の面白さを知って欲しい。
奇跡のリンゴ 「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録
石川拓治(幻冬舎文庫)
農薬散布なしでのリンゴ栽培は不可能と言われていた1970年代、年に数十回の農薬散布のたびに体調を崩してしまう妻のため、青森のリンゴ農家・木村秋則さんは、無農薬栽培という不可能に挑戦する。土壌を豊かにするためには自然の持つ力を利用し、その場の生態系を豊かにすることが、いかに大切であるかが本書で分かる。
量子力学の世界 はじめて学ぶ人のために
片山泰久(ブルーバックス)
これまで数多くの研究者を魅了し、悩ませたものが量子力学である。量子力学の基礎知識がなくても理解できるように書かれているため、1967年発行以来、今なお読み継がれているロングセラー。
科学に興味がある人は、例えば高校で習う連続関数が量子力学の発展に貢献するということも、興味深く感じられるだろう。現代においてさえ、多くの謎が残る量子力学の世界。未来のノーベル賞受賞者は、本書を手に取り量子力学に魅せられたあなたかも知れない。
ガン回廊の朝
柳田邦男(講談社文庫)
国立がんセンター(現・国立がん研究センター)は、がんによる死亡率が戦後急上昇したのを受け、1962年に設立された。がんの制圧がまだ難しかった当時、汗を垂らして病変組織の切片を作ったり、血液の成分を整えるだけで患者の容体が劇的に良くなることを発見するなど、がん研設立当時の研究者の苦闘を記したノンフィクションが本書だ。
本書の医療人の姿勢からは、徹底した観察と、それに基づいた問題克服への取り組みこそが、優れた成果を生み出すのだと気づかされる。医療系を志望する人でなくても、自然科学に興味があればのめりこんでしまう。続編『ガン回廊の炎』では、1989年頃までの最新のがん治療がレポートされている。
Q1. 日本以外の国で暮らすとしたらどこ? その理由は?
米国:限りない可能性の国。ドイツ:質実剛健という国民性。
Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?
『I am Sam』。2001年の作品。みんな、一生懸命。悪い人なんていないですね。
Q3.研究以外で楽しいことは研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは??
季節季節の野鳥を、ぼーっと眺めること。