最先端研究を訪ねて


【建築構造・材料】

耐震設計

避難所の屋根が危ない!地震の揺れが建物全体に働く力の流れを可視化する方法を開発

木村祥裕先生 

 

東北大学

工学部 建築・社会環境工学科 都市・建築デザインコース、都市・建築学コース(工学研究科 都市・建築学専攻)

 

大空間構造における梁の横座屈実験
大空間構造における梁の横座屈実験

 

◆着想のきっかけは何ですか

 

1995年兵庫県南部地震などの巨大地震が起こる度に、避難所となる体育館の屋根に大きな被害が生じました。その原因は、建物は構造部材であるにもかかわらず、屋根などは非構造部材で構成されているからなのです。

 

構造部材は、揺れなどに耐える力を考慮して耐震設計されますが、屋根などの非構造部材はそうではありません。しかし、揺れへの対応を考慮されていない部材であっても、実際に地震が起きた時には、大きな力が作用し損傷します。このことを可視化しようと思ったことが、着想のきっかけになりました。

 

 

◆具体的にどんな課題がありましたか

 

屋根が落ちる理由は、建築物全体を支える大梁(おおばり)だけを対象に設計されていることから起こります。大梁とは、柱に接合されるように横に渡した板です。構造部材は、設計段階で揺れがあっても大丈夫なように計算されています。しかし屋根は、揺れの伝搬に耐えられるようになっていません。その結果、屋根もその下の構造部材も両方とも、大きな変形を生じてしまうのです。

 

◆どのように解決しましたか

 

私は、建物全体や各部材を数式を使ってモデル化し、崩壊のメカニズムを明らかにしました。それによって、建物全体に働く力の流れを可視化できるようにしました。建物の損傷を検知できることで、大梁・屋根の変形や損傷を抑制できる方法を考案しました。

 

◆その研究が進むと何が良いのでしょうか

 

大地震の度に、建物が倒壊したり、部材に大きな損傷を生じることで、建物の建て替えを余儀なくされてきました。建物に生じる力の流れを可視化することによって、より安全で安心な建物を設計できるようになります。

 

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

地震大国日本では、巨大地震の度に大きな被害が生じてきました。私の研究室では、大空間構造物・高層建築物の損傷を防ぐ耐震設計法と技術を開発、実用化しました。

 

既に実際の建築物に採用されていることから、巨大地震の後も継続使用でき、持続可能な社会を構築できる一助となっています。

 

これにより、地震被害を受けた建物の解体・修復に必要となる資源の消費を抑えると共に、建築物の長寿命化による持続可能な都市を目指すことが可能となります。

 

 この道に進んだきっかけ

中学・高校生の頃から歴史書に読み漁っており、古建築に興味を持ち、建物を見て回っていたことが、建築を目指したきっかけです。また、父が大手建設会社勤務で、大スパン構造物(某航空会社の格納庫)や超高層建築物の設計に携わっていたことも、大きく影響しました。

 

博士後期課程2年生の時、兵庫県南部地震が生じました。その当時は、建築鋼構造の研究者の卵として、建物の梁の損傷を研究していました。建物の被害を映像で目の当たりにし、将来は建物の被害を防ぐ技術を開発しようと決意しました。

 


 この分野はどこで学べる?

「建築構造・材料」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

5.建築・住居」の「16.建築構造、設備」

 


 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
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 学生はどんな研究を?

巨大地震に対する建築物の倒壊現象の解明と、それを防止するための技術開発。例えば、

・大都市沿岸部における、高層建築物の倒壊メカニズムの解明と、損傷制御設計法の確立

・大空間構造物における、屋根構造の不安定現象の解明と、耐震設計法の確立

・最新の損傷制御機構(制振ダンパーなど)を用いた、建築物の損傷制御設計法の確立

 

 OB/OGはどんなところに就職?

◆主な業種

 

・鉄道

・鉄鋼

・建設全般(土木・建築・都市)

・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関

・官庁、自治体、公的法人、国際機関等

 

◆主な職種

 

・設計・開発

・大学等研究機関所属の教員・研究者

 

◆学んだことはどう生きる? 

 

・大手ゼネコン(建設会社)や大手設計事務所にて、構造設計

・世界最大級の鉄鋼メーカーにて、鋼構造に関する研究・設計

・県庁・市役所にて、建築確認業務

・インフラ系(電力・ガス・鉄道・道路公団)の企業にて、建築物の設計

 


 先生からひとこと

地震国日本では、数年に1回巨大地震が発生し、高層建築物や戸建て住宅に大きな被害を生じてきました。巨大地震の教訓から、建物の安全性を確保するための設計法や、地震後も継続的使用するための技術を開発しています。

 

日本の耐震設計法や技術は世界最高水準にあり、米国を始め多くの国でその技術が活用されています。海外で活躍する建築設計者・技術者も数多くいます。世界や日本で活躍する設計者・技術者を目指してみませんか。

 

 先生の研究に挑戦しよう!

(1)歴史的建造物の今

世界最古の木造建築物・法隆寺をはじめとする世界遺産となっている日本の古建築物を調べ、建物の特徴を調べてみましょう。

 

1995年の兵庫県南部地震で、非常に大きな揺れを生じた京都・奈良の古い木造建築物は倒壊しませんでした。その理由を調べてみましょう。くぎを使わない構法、芯柱など、先人たちの知恵が隠されています。

 

(2)建物の安全性を調べる

皆さんが興味を持った建物(自宅でも学校校舎,体育館,有名な建物など)を選んでみましょう。

 

・建物高さ、各辺の長さ、柱の太さや柱間の距離(スパン)、階高などの情報をまとめてみる

 ⇒安全か否かを考えてみる。もし、安全でないと思ったら、なぜこの建物は取り壊されないのかを想像してみる。

・どのような構造形式(鋼構造・鉄筋コンクリート構造、木造など)を調べる

 ⇒地震に強い構造は何か?

・同じような建物を調べて、比較してみる

年代の違う建物を比べてみるとその違いがわかるかもしれません。

 

(3)皆さんが住んでいる地名と過去の地震被害との関係を調べる

過去の大地震では、全く被害を生じなかった地区がある一方、近隣の地区では建物が倒壊するなど、大きな被害が生じた事例がありました。

 

古い地名には、その土地の状態を的確に表しています。例えば、水や川、沼など水に関する地名は、昔その近辺は水辺であったので、地盤は軟弱です。過去に大きな地震があったら、どのような被害が生じたか、逆に地震被害が生じにくいのはどのような地盤(地名)かなど、調べてみましょう。

 


 中高生におすすめ

国家の品格

藤原正彦(新潮新書)

海外で生活していると、日本人としてのアイデンティティについて考えることがある。自分の文化的・情緒的感性は、何を基盤にしているのか。著者は、物事を論理的に考える際にはその出発点こそが大切で、出発点に必要なのは「豊かな情緒」であると説く。そして、本来日本人は、豊かな自然や教育が与えてくれた豊かな情緒を兼ね備えており、それを取り戻すべきであると主張する。「日本人である」とはどんなことかを考える時、本書を読んでみて欲しい。

 



 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

考古学(世界中の古建築)や歴史。

 

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

チェコ。欧州の中央に位置し、激動の歴史の中でも古建築が多く、また人々も気さくで温かかったので。

 

Q3.研究以外で楽しいことは?

世界遺産(文化遺産)巡り。これまでに40か所ほど行ってきました。また、家庭菜園で野菜や果物を栽培・収穫し、食卓に並べています。