Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? その理由は?
ポルトガル。気候も人々も穏やかで暮らしやすく、海の幸を含めた豊富な食材で作られる食事の味付けは、日本人の口に合うことで知られています。遺跡や文化財の宝庫であるヨーロッパ諸国や地中海周辺諸国への旅行にも便利です。
最先端研究を訪ねて
【アジア史・アフリカ史】
アフリカの食と農の歴史
アフリカ史研究から世界を考える
石川博樹先生
東京外国語大学
アジア・アフリカ言語文化研究所 現代アフリカ地域研究センター
◆先生の研究内容について教えてください
私が所属する東京外国語大学は、アフリカを研究する複数の研究者が在籍し、アジア・アフリカ言語文化研究所と現代アフリカ地域研究センター、アフリカに関わる2つの研究組織があります。
私はアジア・アフリカ言語文化研究所に所属し、現代アフリカ地域研究センターの運営にも協力しながら、アフリカの歴史、特にエチオピアの歴史研究を行っています。アフリカ史研究の特徴の1つは、学問間の垣根が低いことです。私も他の学問分野の研究成果に刺激を受けながら、通常歴史学研究者が扱わないようなテーマにも取り組んでいます。
アジア・アフリカ言語文化研究所への入所後に、アフリカの農業や食文化の歴史に関わる研究を開始しました。そして2016年に『食と農のアフリカ史:現代の基層に迫る』という編著を出版しました。また、19世紀までにヨーロッパで形成された人種差別的な人種論が、アフリカ史の展開に与えた影響についても研究を行っています。
◆この研究が現代において特に重要な点は何だと思われますか
日本で学ぶ高校生にとって、アフリカは世界の大陸の中でも、なじみのない大陸だと思います。しかしグローバル化が進み、アフリカ諸国が経済成長を続ける中で、アフリカを知る重要性は高まっています。私は、アフリカの過去を調べています。それは、アフリカの現状を認識するための基礎になるものです。例えば、アフリカ人の多大な犠牲を伴った大西洋奴隷貿易による利潤は、産業革命を促しました。このようにアフリカの過去を知ることは、近現代世界の成り立ちを、より深く理解することにもつながります。
私の研究テーマの1つは、アフリカの農業と食文化の歴史研究です。「何を栽培し、何を食べるのかを、自分たちで決める権利」を「食料主権」と言います。グローバル化の中で進められてきた農業政策は、世界各地で人々の食料主権を脅かしています。食料主権を守るためには、人々が培ってきた農業や食文化の重要性を、適切に認識することが必要です。そして、農業・食文化の歴史研究は、そのような認識の基盤となり得るものです。
もともと歴史が好きで、高校生になる頃には、歴史学者になりたいと考えていました。大学入学後、受講したある歴史の講義に感動したことがきっかけで、その講義を担当していた教授のゼミに入りました。
所属研究室の教授や先輩には優れた方々が多く、圧倒されつつも、自分なりに努力しながら研究を進めてきました。大学・大学院時代で印象に残っているのは、恩師がふともらした「歴史学者というものは、自分の専門分野において現在世界で一番優れた研究をしようとするのは当然のことで、それが後何年、何十年、何百年最も優れた研究として残るかという点に、心を砕かなければならない」という言葉です。
自分の目指すべきものが、時間を超越したものであることを知って驚くとともに、身が引き締まりました。
◆「Globe Voice第12号」(東京外国語大学広報誌)
◆青山学院大学文学部史学科 学生インタビュー(AGU LIFE)
※石川先生のアフリカ史に関する授業について紹介しています。
(石川先生は青山学院大学でも講義を担当しています)
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所は、通常の大学院教育を越えた、幅広い範囲の後継者養成事業を展開しています。通常の学部教育としては、東京外国語大学言語文化学部および、゙国際社会学部の教育に協力しています。
大学院教育としては、博士後期課程の大学院生を受け入れており、各院生はアジア・アフリカに関わる言語学、社会・文化人類学、歴史学の研究を行っています。
◆主な業種
・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関
◆主な職種
・大学等研究機関所属の教員・研究者
我が国では、高校までの教育においてアフリカについて学ぶ機会はほとんどなく、アフリカは日本人にとって最もなじみのない地域かもしれません。しかし20世紀後半以降、我が国においても多様な研究手法により、アフリカに関する研究が進められてきました。
日本人はまず「日本の基準」を学び、次に「欧米の基準」を知り、それらを「世界的な基準」と考えがちです。しかし、アフリカについて学ぶことで、そのような考え方を越え、世界を見る力を鍛えうるのだと思います。
自分が住んでいる地域の食文化の歴史的変化やよく口にする身近な食品の歴史について、自然環境との関わり、社会や産業の変化、外国との交流などを視野に入れ、文献調査や聞き取り調査を行って調べてみましょう。みなさんは一皿の料理の中にどれほどの歴史を読み解くことができるでしょうか。
FIELD PLUS
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(東京外国語大学出版会)
「アフリカの食べ物」「イスラーム諸国での商取引」と聞いて、あなたはどんなものをイメージするでしょうか。『フィールドプラス』は、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所が刊行している、一般向けの雑誌です。
高校生を含む若い世代の読者を対象として、世界各地をフィールドとする研究者たちの取り組みや経験を、豊富なカラー写真・図版を用いながら紹介しています。毎回様々なテーマの記事が掲載されており、フィールド研究の重要性や可能性、そして醍醐味が詰まっています。市販もされていますが、最新号と一部の記事以外は、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所のHPから、PDFでダウンロードできます。
論点・東洋史学
吉澤誠一郎:監修 石川博樹、小笠原弘幸、太田淳、太田信宏、宮宅潔、四日市康博:編(ミネルヴァ書房)
高校までに学ぶ歴史というものは、すでに明らかにされている史実を学ぶものなので「歴史=暗記科目」と、苦手に感じている人は多いと思います。しかし大学で学び、そして研究する歴史は、高校までの歴史の教科書には記述されていない、まだ明らかにされていない事象を対象とします。
本書は、アジアからアフリカにいたる広大な領域を対象として、それぞれの地域でどのような問題が現在研究者の間で論点になっているのかを示したものです。本書を手に取って歴史研究の最前線を体感してください。
女性の世界地図 女たちの経験・現在地・これから
ジョニー・シーガー 中澤高志、大城直樹、荒又美陽、中川秀一、三浦尚子:訳(明石書店)
2005年に出版された『地図で見る世界の女性』の増補改訂版です。旧版と同様に本書にも、多様なテーマで世界の女性の状況が図示されています。本書は単なる、女性に関するデータを並べた地図帳ではありません。
女性の経験、そしてそれらが蓄積された結果である「女性の現状」というレンズを通して、世界の現実を浮き彫りにし、世界が抱える多くの問題へ、理解を深めてくれる良書です。女性だけではなく、男性も本書を手に取り、世界の現実に目を向け、問題解決のための対話のきっかけにしてほしいと考えています。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? その理由は?
ポルトガル。気候も人々も穏やかで暮らしやすく、海の幸を含めた豊富な食材で作られる食事の味付けは、日本人の口に合うことで知られています。遺跡や文化財の宝庫であるヨーロッパ諸国や地中海周辺諸国への旅行にも便利です。
Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?
『ホテル・ルワンダ』。1994年にアフリカの小国ルワンダで起こった「ルワンダ大虐殺」。この大虐殺事件の際に、自分が支配人を務めるホテルに、多くの人々を匿って、命を救ったホテルマンを描いた映画です。多くのことを考えさせられる映画です。
Q3.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?
もともと料理は好きだったのですが、今は娘のために、あれこれ工夫して料理することが楽しいです。「おいしい」と言ってもらえると、とても嬉しいです。