最先端研究を訪ねて


【ナノ材料化学】

1分子遺伝子診断

DNAの配列を1分子レベルで読み出す、「1分子遺伝子診断」技術の開発に取り組む

谷口正輝先生

 

大阪大学

理学部 化学科 化学専攻Aコース(理学研究科 化学専攻/産業科学研究所)

 

実験の様子
実験の様子

 

◆どのような研究でしょうか

 

遺伝子に基づいた薬や診断の研究が、世界中で盛んになってきました。疾患遺伝情報の決め手になる、DNAの塩基配列を解読する技術を、シークエンサーといいます。しかし今のこの技術だけでは、同じ遺伝子を持っていても、病気になる人とならない人を識別することが困難です。

 

なぜなら、病気になるかならないかを決めているのは、DNAの塩基配列だけではないからです。遺伝子の情報は、生命体のタンパク質に翻訳されます。その後、タンパク質のアミノ酸配列は、化学的な修飾によっても変化します。この点こそが、識別に重要なのです。

 

私は、これまでのシークエンサーでは不可能だった、これらの化学的な変化を直接検出できる「1分子シークエンサー」技術の開発に取り組んでいます。

 

 

◆何が研究のポイントなのでしょうか

 

ナノ材料化学という学問は、分子サイズの極小物質の性質解明のために、突破口となる重要な役割をします。ただ、この1分子シークエンシング法には残された課題がありました。

 

このシークエンサーは、調べたい塩基やアミノ酸分子を、電流として検出します。しかし、検出される電流には、ミクロの世界で生じる独特のゆらぎによってブレを生じるために、塩基やアミノ酸分子の識別精度が落ちてしまうのです。

 

このハードルを突破するため、現在人工知能を使って、ゆらぎの電流波形を解析する方法の開発を行っています。また、遺伝子診断だけでなく、これを用いてがん治療に薬が効果をもたらすメカニズムの解明へと、研究を展開しています。

 

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

感染症対策は、世界共通の課題です。ナノテクノロジーを使って、1個の細菌やウイルスを検出できる技術を開発しています。

 

スマートフォンに接続できる小型の検査チップを開発することで、いつ、どこで、どんな感染症が発生しているかを知ることができるようになります。世界中から集まる大量の検査データをAIで解析して、世界の感染症を常に監視するシステムを開発中です。

 


 この道に進んだきっかけ

大学時代は、数学と物理を集中的に勉強しました。中学・高校時代から、この2つが好きだったこともありますが、入学した学科の元教授の福井先生が、化学を勉強するなら数学と物理を勉強しなさい、と言われていたので、言葉通りに勉強しました。

 

大学院時代に福井先生と話すことがあり、物理は数学で一般化され、化学は物理で一般化されるというような話を聞き、妙に納得したことを覚えています。次は、生物は化学で一般化されるんだろうなと思い、今の研究に進んできました。

 


 この分野はどこで学べる?

「ナノ材料化学」学べる大学・研究者はこちら (※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

15.エレクトロニクス・ナノ」の「61.ナノテクノロジー」

 


 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
研究室にて
研究室にて
 学生はどんな研究を?

・ペプチドシークエンシング法の開発

→ペプチドシークエンシング技術を開発することで、ペプチド創薬を加速させたい。

 

・1個の細菌・ウイルスの検出法の開発

→細菌やウイルスをナノデバイスと人工知能を組み合わせることで、感染症の予防をしたい。

 

 OB/OGはどんなところに就職?

◆主な業種

 

・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関

 

◆主な職種

 

・大学等研究機関所属の教員・研究者

 

◆学んだことはどう生きる? 

 

大学や国立研究機関の研究員やスタッフになっています。谷口研の学生は、ナノデバイスを作るナノテクノロジー、計測システム、解析、理論とシミュレーションを学びます。卒業後は、その中で自分の得意とする分野を選んで活躍しています。計測対象が生体分子であるため、生物や医科学により興味を持ち、ナノテクノロジーとバイオの融合研究を行っている卒業生が多いです。

 


 先生からひとこと

ナノテクノロジーは、異なる科学技術を融合させる役割を持つので、アイデア1つですごいことができるパワーを持ちます。

 

 先生の研究に挑戦しよう!

テーマ1

革新的なDNAシークエンサーを作るには、ピコアンぺア程度の小さい電流を早く計測する技術が必要です。この技術の1つの原理は、1ピコアンぺアの電流を1ギガオームの抵抗に入れると、1mVの電圧として計測する方法です。また、他の技術としては、ヘッドホンに使われているアンプ技術があります。現在の世界最速技術は、1ピコアンペアの電流を1MHzで計測できます。世界最速技術を作ってください。

 

テーマ2

DNAを作る塩基分子は、アデニン、シトシン、グアニン、チミンの4種類です。21世紀の科学では、化学修飾された塩基分子が、次々に発見されました。これらの化学修飾塩基分子は、遺伝子の機能をオンにするスイッチの役割をします。例えば、ガンのスイッチになります。このため、化学修飾塩基分子の検出は、病気の診断には重要です。化学修飾塩基分子は、塩基分子とは異なる性質を持つので化学修飾塩基分子は、第5の塩基分子、第6の塩基分子となります。

 

ここで大きな問題があります。例えば、10個の塩基分子からなるDNAを考えます。DNAの塩基分子配列の組合せは、4*4*・・・*4=4^10=2^20、4種の修飾塩基分子と4種の塩基分子からなるDNAの塩基配列の組合せは、8*8*・・・*8=8^10=2^30と莫大な組み合わせになります。

 

どうすれば、この莫大な組み合わせを持つ塩基配列を決めることができるでしょうか?

 


 中高生におすすめ

プラチナデータ

東野圭吾(幻冬舎文庫)

国家が国民全てのDNA情報を管理し、犯罪の検挙率が100%・えん罪率が0%となった社会で、身に覚えのない殺人の濡れ衣を着せられた研究者は、逃亡しながら自分の身の潔白を証明しようと試みる。

 

ゲノム解析技術を題材にした漫画・小説・映画は多いが、どの作品にも共通するのは、最先端科学の威力と共に、それによってどのような科学的・社会的危険が生じるかが描かれていることだ。遺伝情報には、あらゆる生物の根源的な情報が含まれている。科学技術の持つ意義と危険、両方について考えを深めてくれる小説。



挑む! 科学を拓く28人

日経サイエンス編集部:編(日経サイエンス社)

研究するのは面白いから。研究にとって一番大切なのは、実はシンプルなモチベーションだ。AIとロボット、再生医療、バイオ研究など、最先端研究に挑む研究者が、多くの困難を乗り越えながら研究を行っている現状を知ることができる。

 

新たな科学を切り拓く研究者たちの考え方や生き方を読めば、うまく生きようとするのではなく、自分の気持ちに正直に進むことこそが大切なのだと分かる。

 



 先生に一問一答

Q1.一番聴いている音楽アーティストは?

B’zです。大学時代からずっと聴いています。

 

Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『スター・ウォーズ』です。小学生の頃に観てから、いつかライトセーバーやXウィングファイターを作りたいと思っていました。

 

Q3.熱中したゲームは?

大学時代は「鉄拳」と「ストリートファイター」です。ゲームセンター等で開催される大会を目指していました。