最先端研究を訪ねて


【解析学基礎】

フォンノイマン因子環

純粋数学の研究を行い、量子情報理論の問題に行き当たる

小沢登高先生

 

京都大学

理学研究科 数学・数理解析専攻/数理解析研究所

 


 

◆研究の着想のきっかけは何ですか。

 

数学の研究というものは、少なくとも私にとっては、昔ながらの紙と鉛筆で行うものです。物理的には実験も何もすることがないので、私の研究業績は純粋に私の頭から出て来たものです。

 

基礎研究とは、もとより純粋な好奇心に基づいて行うものと考えています。純粋数学はその中でも最たるものだと思いますが、この度の私の研究は、解析学における重要な研究である作用素環論の中で、「フォンノイマン因子環」と呼ばれる数学的対象がとても美しいと思ったこと、その構造を解明したいと思ったことから始まっています。

 

◆この研究を通じて、どんな課題が解決されましたか。

 

フォンノイマンは、ゲーム理論で有名な20世紀を代表する天才数学者です。フォンノイマン因子環は、フォンノイマンが量子力学の数学的な枠組みとして考案したものです。私はその数学的な側面を研究してきましたが、最近私の研究が、量子通信や量子コンピュータの理論的側面を扱う量子情報理論と関係していることを知りました。

 

そこでこの問題に取り組んだ結果、フォンノイマン因子環に対する数学的な未解決な予想が、一見まるで無関係な量子情報理論における予想と同値であることの証明に成功しました。

 

◆どんなことに役立ちますか

 

量子力学は、独立した観測者の間で複数の状態が同時に重ね合わさって起こるという、常識で考えにくい不思議な相関関係の性質が知られています。量子情報理論の予想とは、この量子相関の理論的限界に関するものです。

 

それがフォンノイマンの未解決の予想と一致するということは、究極的には、新しい高速通信技術の量子通信や量子コンピュータの性能はどこまで可能で、またその理論的限界はどれくらいなのかについて、重要な知見を与えてくれます。

 

◆ブレークスルーする研究の原動力は何ですか

 

自分が培ってきた技術とその後の努力で解決できた課題も多くありますが、やはり嬉しいのは、課題を鮮やかに解決するアイディアを思いついた時です。良いアイディアというのは、一度気がついてみれば当たり前になることが多いものですが、どうしてそれに気がついたのか、あるいは気がつかなかったのかは、自分でも説明することができません。こうした驚きに対する感動が、研究を進める原動力となっています。

 

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

純粋数学の研究なので、具体的に社会の役に立つことは想定していません。純粋に「面白い」「知りたい」といった好奇心を動機として研究をしています。

 

私としても、社会への貢献がなくとも良いのだろうかと自問することがあります。基礎科学の世界では、当事者が想像もしなかった実用が見つかることがしばしば起こりますが、私の研究についていえば可能性はゼロだと思っています。しかし、数学における研究成果は不朽のものですから、期待値はゼロ×無限だと考えることにしています。

 

 この道に進んだきっかけ

子供の頃から、漠然と科学者になりたいと思っていました。中高生時代は、大衆向けの科学雑誌や書籍から学んだ宇宙論に、憧れを持ちました。当時は、数学の研究が現代でも行われていることすら知らなかったのです。

 

ところが、東大の教養学部(前期課程)で現代的な数学に出会ってその魅力に取りつかれ、数学科に進学することになりました。(とはいえ、勉強に打ち込んだのは4年生以降のことです)

 

大学院で過ごした数年の間に、数学が自分の使命だと確信するようになりましたが、何か特別な「きっかけ」があったわけではありません。その場その場であった小さな呼びかけに応えた結果だと思います。きっかけというものは事後にそうだったと分かるもので、その時に知ることはできないものです。だから皆さんには、主体的にいろんなことを学んでほしいと思います。

 


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 中高生におすすめ

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イリュージョン

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ドラゴンランス

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 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

自分が数学者であることに満足しています。というか、宗教的情熱をもって数学研究にあたっています。

 

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

研究人生において、米国に数年、フランスに1年、ドイツとデンマークにそれぞれ半年暮らしました。どこもよいところでしたが、日本人である私にはやはり日本が落ち着きますね。

 

Q3.熱中したゲームは?

大学生の頃までは、随分とゲームをしていました。スーパーファミコンでした。