最先端研究を訪ねて


【素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理】

宇宙背景放射

見えない電波や素粒子を観測し、宇宙創成の謎を解明する

石野宏和先生

 

岡山大学

理学部 物理学科(学術研究院自然科学学域)

 

超伝導検出器の研究に使う液体ヘリウムデュワー
超伝導検出器の研究に使う液体ヘリウムデュワー

 

◆この研究はどのように着想しましたか

 

私の研究分野は、宇宙の精密観測から物理の基本法則を理解するための学問分野です。それを可能にするのは、望遠鏡を使った可視光による観測が1つの手法ですが、目に見えない電波や素粒子のニュートリノを使っても可能です。

 

例えば、目に見えない波長のある電波は、宇宙背景放射と呼ばれる宇宙最古の光であり、ビックバンの名残りです。それを詳しく観測することによって、宇宙ビックバンの前の様子を見ることが可能になります。

 

 

◆この研究に具体的にどんな方法を使いましたか

 

宇宙背景放射の観測には、電波の強度を精密に測定する、超伝導体を使った検出器を使用します。また背景放射の観測のために、将来人工衛星を打ち上げる計画が進行しています。

 

 

◆それで何がわかりましたか

 

宇宙背景放射の偏光を精密に観測することで、ビッグバンで宇宙が誕生した頃に発したと考えられる、原始重力波の強度が分かります。それによって、ビックバンの前に起こったとされる大加速膨張の原因が分かり、宇宙創成の謎と現在の宇宙の構造の種が生じた理由が明らかになります。

  

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

私の研究分野は「基礎科学」の1つであり、物理法則を実験的に探究することが目的です。その探求手段として、私の研究グループは電波や超伝導技術を使います。

 

その技術は、すぐに応用され皆さんの生活に役に立つものではありませんが、これまで見えなかったもの、見過ごされたものを、見つけることができると考えています。こうした新しい技術が開発されれば、応用・実用の種となり、持続的な産業に発展すると考えています。

 


 この道に進んだきっかけ

中学生の頃は、身の回りの何気ない現象について興味を持っていました。例えば、スーパーボールが弾んだら、どのような軌道を描くのか、塩の結晶はどうできるのかなど。おもりを糸につけて垂らし、コップの水の中に沈めると、浮力でおもりは軽くなるが、コップは重くなる。最初これを発見した時は、全く理由が分からなかったのですが、理科の先生と議論して理解を得られたことは印象的でした。

 

高校では、数学・物理・化学を学ぶのがとても楽しかったです。大学に入り、物理学と数学(微分積分、行列、複素数)が結び付き、とても感動しました。今思うと、物理学をもっと知りたいという欲求が、研究の道を志す大きなきかっけでした。

 


 この分野はどこで学べる?

「素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理」学べる大学・研究者はこちら (※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

3.地球・宇宙・数学」の「10.素粒子、宇宙、プラズマ系物理」

 


 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
ミリ波評価装置の調整
ミリ波評価装置の調整
 学生はどんな研究を?

宇宙からの電波を精密に測定する装置の開発研究。その装置を使って得られる物理量の推定およびデータ解析。

 

 OB/OGはどんなところに就職?

◆主な業種

 

・自動車・機器、船舶・機器、航空機・航空機器、その他の輸送用機械・機器

・コンピュータ・情報通信機器、半導体・電子部品・デバイス

・光学機器、精密機械・機器(医療機器・光学機器を除く)

・通信、電気・ガス・水道・熱器供給業

・小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等

・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関

・官庁、自治体、公的法人、国際機関等

 

◆主な職種

 

・基礎・応用研究、先行開発

・設計・開発、製造・施工

・品質管理・評価

・商品企画・マーケティング(調査)

・人事・労務・研修、総務

・中学校・高校教員など

・大学等研究機関所属の教員・研究者

 

◆学んだことはどう活きる? 

 

研究開発によって得られた衛星機上のプログラミング技術を、自動車の自動運転技術の開発に活かした例があります。就職後、会社の上司から大活躍している旨の連絡がありました。

 


 先生からひとこと

20世紀末までの物理学は、研究室や加速器などの実験施設を使って発展してきました。21世紀に入り、観測技術が飛躍的に発達したことにより、宇宙自体も物理学の実験室としてみなされるようになってきました。今後は宇宙の仔細を紐解くことにより、究極の物理法則の解明に迫ろうとしています。

 

 先生の研究に挑戦しよう!

・宇宙の始まりから現在まで、宇宙は膨張し冷えていく歴史を持ちます。その間に宇宙の中ではとても熱いビックバン状態から、宇宙背景放射ができ、星・銀河が形成されました。この宇宙の歴史についてどの時刻でどのようなイベントが起きたのかを詳しく調べてみましょう。

 

・微小粒を液体に入れ顕微鏡で観察すると、ランダムな動きが観察されるブラウン運動。この運動を理論的に考察することにより、アボガドロ定数を求めることができ、物質は原子や分子から構成されていることを指摘したのはアインシュタインでした。アインシュタインはどのような考察からこの結論に至ったのか調べてみよう。

サッカーボールをパスするプレイヤーの数を2、3、、、と増やしていくとどのようにボールは運動するのか。簡単なモデルを立てて調べてみよう。

 

・空が青いのは波長が短い光がレイリー散乱されるからである、とよく説明されていますが、より詳しく調べよう。そこには、屈折率に対する深い理解が必要であり、ゆらぎという概念も潜みます。歴史的にはレオナルド・ダ・ヴィンチが説明を試みた文献も存在します。空が青い理由についての研究の歴史についても探ってみよう。

 


 中高生におすすめ

物理法則はいかにして発見されたか

R・P・ファインマン:著 江沢洋:訳(岩波現代文庫)

高校の理科科目では科学史のようなものを学ばず、ただ発見された結果についてのみ学ぶ。しかし、高校でも学ぶケプラーの法則や重力逆二乗則、運動量保存則、大学で本格的に学ぶ量子論など、その発見への経緯や背景を知れば、学校で学ぶことがより身近に感じられるようになるだろう。

 

著者のファインマンは、ノーベル物理学賞を受賞した研究者であると共に、ユーモラスな語り手としても知られているので、この本も楽しく読むことができる。



現代語訳 学問のすすめ

福澤諭吉:著 齋藤孝:訳(ちくま新書)

「学問のすすめ」は 福澤諭吉による、学問に向かう基本的な姿勢に対する指南書であり、人間として生きていくための、必要な倫理観や資質が書かれている。100年前に書かれたとは思えず、現在にも(現在だからこそ)通じる、一生に一度は読むべき必読書。なぜ人は勉強しなければいけないのかという疑問に答えてくれる。



大学でいかに学ぶか

増田四郎(講談社現代新書)

何をしに大学にいくのか?大学で何を学ぶのか?一橋大学名誉教授で西洋史の研究者である著者が「大学でいかに学ぶか」を書いたのは1966年だが、自ら考え、行動する人間になることなど、大学で学ぶことは今も昔も変わらない。漠然と大学に進学するのではなく、目的意識を持って大学に入学し、学生生活を送ってほしい。

 



 先生に一問一答

Q1.熱中したゲームは?

学生時代は麻雀をよくしていました。自分の持ち牌と捨て牌、他のプレイヤーの目線や動向などの多角的な情報で判断するのが面白いですね。

 

Q2.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

活字づくり。1つの漢字を、漢字の部品を組み合わせて構成していく作業でした。模擬試験の採点のバイトをしたことがありますが、これは大変な作業でした。

 

Q3.研究以外で楽しいことは?

考える事ですね。結局研究が趣味みたいなものです。少しでも時間が空くと、あれはああすればよいのでは、あれとこれを組み合わせるとどうなる、ということを考え始めます。これが一番楽しいですね。あとは読書です。全く研究と関係ない分野の本を読み、知識を吸収できるだけでなく、新しい物の見方・発想が得られことが多々あります。