最先端研究を訪ねて


【応用物理学一般】

音速計測

光と音の科学!スマホを支える小さな"楽器"の高精度計測

長久保 白先生

 

大阪大学

工学部 応用自然科学科 物理工学科目(工学研究科 物理学系専攻) 

 

ミラーの角度を調整中の様子
ミラーの角度を調整中の様子

 

◆どのような研究でしょうか

 

私は、光を使ってとても小さな“楽器”の音速を計測する研究を行っています。

 

スマホやBluetoothなど無線通信って、私たちの日常生活に欠かせませんよね。でも実際には、どうやってワイヤレスで情報をやり取りしているのでしょうか?

 

そこで大活躍しているのはなんと、とても小さい“楽器”です。無線通信は、用途ごとに使用する電波の周波数が決まっています。様々な周波数の電波が飛び交う中から、必要な電波だけを取り出す際に、この電波信号を音に変換することができる、ナノ~マイクロサイズの共振子(楽器、ベル)が使われています。

 

楽器は大きさによって音の高さが決まっているので、取得したい電波の周波数と同じ高さで鳴る楽器を使えば、共鳴現象によって特定の電波信号だけを取得することができます。

 

しかしこの“楽器”の設計には、材料中を伝わる音速が必要です。そこで私は光(パルスレーザー)によってその“楽器”を鳴らし、光によってその音色を“聴く”(振動する様子を検出する)ことで、正確に音速を計測する研究を行っています。

 

 

◆どんな成果が上がりましたか

 

実はナノ~マイクロほどの小ささになると、材料の特性が大きく変わります。無線通信に欠かせない“楽器”の音速も、通常時と5%以上異なることが分かりました。

 

また、音速を変化させるために、いくつかの元素を混合して作製した材料の音速も計測しました。このようにして、今まで分からなかった新材料の音速を、正確に計測することにも成功しました。

 

また、スマホを冬でも夏でも使えるようにするためには、温度変化による音速の影響を制御することが欠かせません。そこで、自分たちで構築した実験装置を更に改良し、室温から絶対零度付近まで温度を変化させながら計測する装置も作製しました。

 

この装置によって、各温度における音速も計測することができるようになり、ナノ~マイクロサイズの“楽器”特有の特性と、材料の構造変化の関係について、次々と新しいことが分かるようになりました。

 

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

インフラ技術の最大の課題の1つは、老朽化です。建設する時は大規模な予算や運動によって大きく推進することができても、それを何十年にも渡って管理し、更に補修することは、費用的にも技術的にも、今ひとつ人気・注目を集めづらい難しい課題です。

 

その解決手段の1つとして欠かせないものが、超音波と無線通信を用いた非破壊検査です。建築物が老朽化した状況を正確に計測する技術はとても重要です。スマホで活躍している無線通信技術や超音波を用いた非破壊技術によって産業・技術革新の基盤作りや維持も可能になります。

 


 この道に進んだきっかけ

私は幼少期から、ピアノを弾いていました。中学生の時は吹奏楽部に入り、“音”に関心がありました。高校生の時、物理の教科書で楽音の3要素を見つけた時は、すごく嬉しかったのを覚えています。

 

しかし、音の「高さ=周波数」と「大きさ=振幅」は理解することができた一方、「音色=波形」ということが、さっぱり分かりませんでした。この音色と波形の正体を知ったのは、大学2回生の時に習った「フーリエ変換」という技術です。

 

実はほとんどの音は、いろんな周波数の音を足し合わせることで、音色が決まり再現できる。そこから私の、音と光を用いた材料研究が始まりました。

 


 この分野はどこで学べる?

「応用物理学一般」学べる大学・研究者はこちら (※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

15.エレクトロニクス・ナノ」の「60.物性物理・量子物理、半導体、電子関連材料」

 


 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
荻研究室では様々な光学部品を組み合わせて独自の計測法を開発しています
荻研究室では様々な光学部品を組み合わせて独自の計測法を開発しています
 学生はどんな研究を?

超高周波超音波を用いたナノデバイス・超硬材の研究、超高感度音響バイオセンサーの開発、共鳴現象を用いた物性解明など

 

 OB/OGはどんなところに就職?

◆主な業種

 

・自動車・機器

・電気機械・機器(重電系は除く)

・医療機器

 

◆主な職種

  

・基礎・応用研究、先行開発

・設計・開発

 

◆学んだことはどう生きる? 

 

超高周波超音波を用いたナノ材料の計測経験を生かして、実際に無線通信用の音響デバイスを作製しているメーカーに就職する学生もいます。

 


 先生からひとこと

物理の魅力は「なぜ?」が分かることです!身の回りには、気になる面白いことがたくさんあります。音や光や電気など、あなたの周りにある便利で素朴な現象について、その面白さを是非一緒に学びましょう!

 

 先生の研究に挑戦しよう!

【音を使って物や空間を調査しよう】

・お風呂でいろんな高さの声を出すとある時だけ音が大きく共鳴することがあります。

・耳年齢チェックなどスマホアプリを使えば特定の周波数の高さの音を出すことができます。

・部屋や物にいろんな高さの音をあてて、共鳴する音の高さと物・部屋の大きさの関係などを調べてみましょう!

(スピーカーが必要かも?ちょっとうるさいかもしれないので自分や周辺の人が困らないようにお気を付けください!)

 

【音の高さは何で決まる?】

・ゴムや弦の一端を固定し、もう一端に重りを付けてピンと張って指ではじくと音が出せます。

・周波数測定アプリを使ってこの音の高さを測ってみましょう!

・この重さをちょっとずつ増やしながら音の高さを測るとどのような関係になるでしょうか?

 


 中高生におすすめ

オリジン

ダン・ブラウン:著 越前敏弥:訳(角川文庫)

『ダ・ヴィンチ・コード』や『インフェルノ』の著者であるダン・ブラウン氏が、2017年に出版したミステリー小説です。

 

宗教や有名な芸術作品・建築物を舞台にしつつ、殺人事件の真相を解き明かすため奮闘する主人公と、それを支える人工知能。想像力を掻き立てる美しい文章と、真相を巡った手に汗を握る攻防、そして現代の我々の生活に痛切なメッセージを残す衝撃のラストは、本当にお勧めです!

 

現代に生きる皆さんにも是非読んで頂き、科学と文化に興味を持ってもらえると嬉しいです。

 



 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

宇宙物理学、または哲学

 

Q2.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

 吹奏楽部のお手伝い

 

Q3.研究以外で楽しいことは?

お菓子作り