最先端研究を訪ねて


【岩石・鉱物・鉱床学】

隕石

小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った地球外サンプル分析から、隕石の小惑星起源説を実証

土`山明先生

 

立命館大学

総合科学技術研究機構

 


 

◆着想のきっかけは何ですか

 

2010年「はやぶさ」探査機により、人類が初めて小惑星イトカワから採取し地球に持ち帰った試料は、少量の微小粒子(髪の毛の太さ程度の大きさ)でした。このような貴重な試料を効率よく分析するために、高精度のX線CT装置を開発しました。世界最高性能の放射光の実験施設である、SPring-8の研究者などとの共同研究でした。

 

はやぶさサンプルの初期分析チームリーダーとして、小惑星サンプルについて、どんな鉱物からできているか、さらにその3次元構造を非破壊で得ることに、世界で初めて成功しました。

 

 

どんなことがわかりましたか

 

隕石は小惑星からやってきたと考えられてきましたが、両者の反射スペクトル(色を数値的に表したもの)は完全に一致せず、永年の謎でした。我々は、小惑星イトカワの表面物質が、宇宙風化を受けた普通コンドライトと呼ばれる種類の隕石であることを明らかにしました。宇宙風化は、太陽風と呼ばれる一種の宇宙線が粒子表面に照射されることにより起こり、反射スペクトルが変化します。これによって、隕石の小惑星起源が立証されました。

 

◆その研究が進むと何が良いのでしょうか

 

もう1つのミッションは、大気のない小惑星表面で、宇宙風化の他にもどのような現象が起こっているかを明らかにすることでした。そこで、サンプル粒子の3次元外形や表面構造を詳しく調べたところ、粒子は微小天体がイトカワへ衝突・破壊されることによってでき、さらに粒子運動により摩耗が起こっていることがわかりました。これによって、小惑星表面の活動的な様子と進化が、初めて明らかにされました。

 

現在は、「はやぶさ2」探査機が2020年12月に小惑星リュウグウから持ち帰ったサンプルの分析を、バージョンアップしたX線CTにより行なっています。リュウグウのサンプルは、鉱物だけでなく水や有機物を含んでいる物質と考えられ、太陽系初期に水や有機物がどのように生成され進化したか、さらに地球生命との関係などが明らかになることが期待されています。

 

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

私の研究は、SDGsの課題について直接貢献するものではありません。研究が全てSDGsの何らかの目標に直接貢献すべきというものではありません。

 

このような研究も大切ですが、もっと広い視野に立った自由な研究こそが、科学においてのブレークスルー(従来の枠を超えた突破口)には必要で、引いてはそれがSDGsにも役に立つものだと考えます。

 

 この道に進んだきっかけ

小学校4年の時に家族旅行で箱根に行き、夏休みの自由研究として石の採集をしました(それまで特に石に興味があった訳ではないのですが)。採ってきた石の名前が全然わからなかったのですが、専門家の先生のご自宅にお伺いする機会があり、色々と教わりました。これがきっかけとなり「鉱物少年」として、鉱物の収集をするようになりました。

 

鉱物の勉強がしたくて、大学を選びました。学部4年で研究室配属された時、先生から「趣味だけでは研究者にはなれないよ」と言われ、プロとしての研究者を目指すことを考えるようになりました。そして大学院生の時に、隕石に含まれる鉱物を実験室で再現するという研究を行うことになり、今日の研究につながっています。

 


 この分野はどこで学べる?

「岩石・鉱物・鉱床学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

2.エネルギー・資源」の「7.地球資源、地質、鉱物学」

 


 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
 学生はどんな研究を?

新しい科学成果が得られるようなテーマに取り組んでいます。

 

 OB/OGはどんなところに就職?

◆主な業種

 

・セラミクス、ガラス、炭素

・電気機械・機器(重電系は除く)

・精密機械・機器(医療機器・光学機器を除く)

 

◆主な職種

 

・基礎・応用研究・先行開発

・事業推進・企画、経営企画

 

◆学んだことはどう生きる? 

 

分野を活かしているものはガラス・電気機器業種などです。多くの一般企業は惑星科学との直接的な関係はありませんが、共通する手法での研究を行なっています。

 


 先生からひとこと

この学問は直接的に社会に「役に立つ」研究を行っているわけではありません。しかし、自分の知りたいこと(好奇心)について科学的に研究を行うことは、何らかの形で必ず「社会に貢献する」はずです。多くの人が期待する「直接役に立つ」研究も大切ですが、多様な分野での基礎研究が科学全体を支えています。是非、他の様々な分野にも興味を持ってください。

 


 中高生におすすめ

なぜ地球は人が住める星になったか? 現代宇宙科学への招待

ウォーレス・S・ブロッカー:著 斎藤馨児:訳(ブルーバックス)

ビッグ・バンと銀河の誕生に始まり、宇宙をつくる物質である元素の起源、太陽系はどうしてできたか、惑星はいつできたか、隕石の年代学から読み解く。さらに、気候変動と氷河の襲う地球は果たして住みやすいか、人類は生き残れるかを問う。現代地球科学の立場から、異星人は存在するかの謎の解明にまで挑む。

 



 先生に一問一答

Q1.印象に残っている映画は?

中学生の時に見た『卒業』が、中学生にとっては少々エロチックな雰囲気、サイモンとガーファンクルの素晴らしいサウンドとともに、1番印象に残っています。

 

Q2.熱中したゲームは?

大学院時代にまだパソコンなどない頃(電卓が出現しだした頃)、大型計算機センターで「スター・トレック」のゲームがありました。画像などなく、軍人将棋や海戦ゲームの拡大版みたいなものですが、想像力を駆り立てられました。

 

Q3.研究以外で楽しいことは?

美味しい食べ物とお酒。読書や絵画鑑賞、日本画特に浮世絵や絵巻物が想像力を掻き立てます。西洋画では藤田嗣治がイチオシです。