Q1.大学時代の部活・サークルは?
テニスサークル
最先端研究を訪ねて
【機能生物化学】
脂質
体を守るバリアとしての脂質
木原章雄先生
北海道大学
薬学研究院、薬学部、生命科学院
◆研究のきっかけは何ですか
脂質と聞くと油や脂肪など、体に良くないイメージを思い浮かべると思います。しかし、脂質は「体に存在する水に溶けない有機化合物」の総称で、油や脂肪以外にもたくさんの種類の脂質が、体の中には存在していています。働きも多岐に渡り、体を健康に保つために重要な役割をしているものがほとんどです。
その中でも私の研究室では、皮膚や涙の中にあってバリアの役割を果たす脂質に着目して研究をしています。例えば皮膚の脂質は、病原体やアレルギーを引き起こす物質の侵入を防いでくれます。涙の脂質は、涙の蒸発を防いでドライアイを防いでいます。私の研究室では、これらの脂質の産生に関わる多数の遺伝子を発見し、長年謎に包まれていたこれらバリア脂質がどのように作られて、どのような働きをするのかを明らかにしました。
◆その研究が進むと何が良いのでしょうか
皮膚を防御してくれる脂質の産生が損なわれると、皮膚のバリア形成に異常が生じ、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患の原因になります。涙の脂質の産生異常は、ドライアイに繋がります。
このような疾患の治療には、原因となっている皮膚バリア異常の修復がカギになります。今回、皮膚や涙のバリアに関わっている遺伝子を見つけて、バリア脂質の産生のメカニズムを明らかにしたことで、これらの皮膚・眼疾患の治療薬開発の基盤を作ることができたと考えています。
私の研究室で明らかにした研究は、近年日本人に増加しているアトピー性皮膚炎やドライアイに対して、新しい治療薬の開発に結びつけることができる可能性があります。
実験で得られた結果には、想定外のものがよくあります。それらは一見すると、失敗したと感じがちなのですが、実は想定外の結果というものの中にこそ、本当に重要なことが潜んでいるものです。
私も大学院時代に、そのような経験が何度もありました。結果が出た後に放ったらかしにしておいたものでも、数ヶ月後に「もしかしてあの結果はこう解釈すると面白いのではないか」と思い立ち、そこから非常に価値の高い研究に発展したものです。
また、博士課程を終了後にポスドク(博士研究員)として移った研究室の教授(大隅良典先生)が、十数年後にノーベル生理学・医学賞を受賞されました。まさにノーベル賞級の仕事が生まれつつある頃の研究室に在籍し、その雰囲気を感じ、自分も関われたことは大変貴重な経験でした。
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「7.生物・バイオ」の「21.分子生物学・細胞生物学・発生生物学、生化学(生理・行動・構造等 基礎生物学も含む)」
◆「涙のなかの長い脂質がドライアイの防止に重要」(北海道大学・日本医療研究開発機構)
◆「皮膚バリア形成に最も重要な脂質(アシルセラミド)の産生の分子機構の全容を解明」(北海道大学・日本医療研究開発機構)
◆「涙に含まれるオメガ水酸化脂質がドライアイを防ぐ」(北海道大学・日本医療研究開発機構)
◆「皮膚バリアの形成に重要な脂質の産生機構を解明」(北海道大学・日本医療研究開発機構)
◆「多様な「涙の脂質」がドライアイを防ぐ」(北海道大学・日本医療研究開発機構)
学生の卒業論文、修士論文、学位論文には、皮膚や涙でバリア形成に働く脂質群を作る遺伝子の同定、特定の遺伝子が欠損して皮膚バリア形成が異常になった、あるいはドライアイになったマウスの解析、皮膚や涙中に含まれる脂質の分析などを行った研究があります。
例えば、化粧品などのコマーシャルでよく聞くことがあるセラミドに関しては、世界最高水準の分析技術が研究室にはあり、学生たちは他の研究室では成し得ない質の高い研究を行っています。
◆主な業種
・薬剤・医薬品
◆主な職種
・基礎・応用研究・先行開発
◆学んだことはどう生きる?
卒業生の多くは製薬会社の研究職に就いていますが、化粧品あるいは食品会社に就職する学生もいます。研究室でのテーマと直接関連する仕事に就くケースは少ないのですが、研究室で学んだ生化学、分子生物学、細胞生物学、遺伝学、分析の知識と技術は仕事に活かされています。
また、技術面だけでなく、研究生活を通じて身につけた問題発見/解決能力、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力が役立っています。
高校生の皆さんは、科学が進歩して何もかもわかっていると思うかも知れませんが、身の回りには、わからないことが多く残っています。特に私たちの体で起こっていることは、まだまだ未解明なことだらけです。
こういった未解明なことを明らかにしていく研究は、これまで培ってきた知識と経験を総動員し、色々なことを日々考え、多くの実験を必要とするものです。そして、誰も知らなかったことを明らかにしていくということは、充実感あふれる魅力的なものです。
こういった体験をできる機会はなかなかないので、質の高い研究ができる大学を選んで、卒業研究を通じて味わってください。また、その経験を活かして将来研究者を目指す学生が現れることを期待します。
白い航跡
吉村昭(講談社文庫)
脚気(かっけ)は、古くは国民病と言われ、悪化すると死に至る病気だった。その脚気の原因を明らかにした、ビタミンの父・高木兼寛の苦労と、医学者としての森林太郎(森鴎外)の過ちを描く小説。
理工系や医歯薬系に進む高校生は、現在の科学や医学だけでなく、本書などを通して科学や医学の歴史を学び、その意義と、先入観や偏見を持つことの危険など、研究に潜む落とし穴について知ってもらいたい。
Q1.大学時代の部活・サークルは?
テニスサークル
Q2.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?
バーテンダー
Q3.研究以外で楽しいことは?
北海道の美しい自然を撮影すること