最先端研究を訪ねて


【経営学】

人材育成

仕事経験を通して自ら成長する力を伸ばす人材育成の方法を考える

松尾睦先生

 

北海道大学

経済学部 経営学科(経済学研究院 現代経済経営専攻)

 


 

◆先生のご研究内容について教えてください

 

人の成長の7割以上は、仕事の経験によって決まると言われています。これまで、どのような職務内容が人材の成長を促すのかが研究され、その結果「変革プロジェクトへの参加」「他部門や外部組織との連携」「組織を立て直す仕事」などを経験した人ほど、リーダーシップを身につけることが明らかになってきました。

 

しかし、誰もがそのような事に携われるわけではありません。どんな仕事でも、そこから学び取る力が重要ですし、企業は従業員がそうした能力を身につけられるように、サポートする必要があります。

 

そこで私は「経験から学ぶためには、いかなる能力が必要になるのか」「優れた組織では、経験からの学びをどのように支援しているのか」という問題を検討し、企業の人材育成に役立てています。

 

◆研究を通して明らかになってきたことはありますか

 

私の研究によれば、次の5つの要因を備えている人ほど、経験から学び、成長する傾向に

あります。

 

1 成長したいという目標志向性(学習志向)

2 成長を支援してくれる人との関係(発達的ネットワーク)

3 挑戦的な課題設定力(ストレッチ)

4 自身の活動を適切に振り返る力(リフレクション)

5 活動のやりがいや面白さに気づく力(エンジョイメント)

 

 

◆具体的な研究方法について教えてください

 

文献調査を通して、これまでの研究状況を整理し、質問紙調査で得たデータを統計的に分析し、インタビュー調査によって事例を検討しています。

 


 この分野はどこで学べる?

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その領域カテゴリーはこちら↓

19.経営システム・ビジネス」の「78.経営学(組織・戦略、ベンチャー論)」

 


 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
 学生はどんな研究を?

「プロフェッショナリズム」「感情労働と人材成長」「メンタリング」「失敗からの学習」「孤独と幸福感」といったテーマに取り組んでいます。

 

 OB/OGはどんなところに就職?

◆主な業種

 

・コンピュータ、情報通信機器

・金融・保険・証券・ファイナンシャル

 

◆主な職種

 

・営業、営業企画、事業統括

 

◆学んだことはどう生きる? 

 

経験学習は、どのような業務においても必要となります。業種、職種に関係なく、自身の仕事経験から教訓を引き出し、日々、能力を向上させているようです。

 


 先生からひとこと

経営学は、心理学、経済学、社会学等をベースにした応用科学です。企業を取り巻く環境において、現実に起こっている問題を解決するために、様々なアプローチが取られています。

 

 先生の研究に挑戦しよう!

・自身の学習活動や部活動の経験を振り返り、どのような学びを得たかについて考えてみる。

 

・「ストレッチ(挑戦する力)」「リフレクション(振り返る力)」「エンジョイメント(楽しむ力)」「思い(信念・価値観)」「つながり(他者との関係性)」の観点から、自身の経験学習力を診断してみる。

 


 中高生におすすめ

「経験学習」入門

松尾睦(ダイヤモンド社)

人は、経験から学び、成長する。しかし経験からより良く学ぶためには、どのような能力が必要なのか。これが、本書の問いである。著者は、「適切な『思い』と『つながり』を大切にし、『挑戦し、振り返り、楽しみながら』仕事をする時、経験から多くのことを学ぶことができる」ことを、様々な事例やエピソードを交えて解説している。職場での社会人の学習について書かれたものだが、高校生の学びにも共通するだろう。



私の個人主義

夏目漱石(講談社学術文庫)

夏目漱石による講演録で、表題の「私の個人主義」のほか、「職業と道徳」「現代日本の開花」「中身と形式」「文芸と道徳」の5編からなる。「私の個人主義」は学習院の学生に向けた講演。漱石自身も進む道が見えずもがいた経験や、そうした中行き着いた「人の意見をうのみにせず自分で考えることが大切だ」ということ、「個人主義」とは自分勝手なことをしていいという意味ではなく、他人を尊重した上で発揮されるべきものであること、「個人主義」と「国家主義」の関係などについて語っている。時代を超えた若い人へのメッセージとなっている。



世界を、こんなふうに見てごらん

日高敏隆(集英社文庫)

小さい頃は昆虫少年で、動物の様々な行動を調べる「動物行動学」の草分け的存在である、日高敏隆先生のエッセイ集。先生の言葉から、人間や動物を見る時のヒント、生きているとはどういうことか、「なぜ」から始める学問の楽しさ、探求することの大切さが伝わってくる。



罪と罰

ドストエフスキー 工藤精一郎:訳(新潮文庫)

殺人を犯した元大学生ラスコーリニコフが、家族や友人に支えられながら人間性を回復していく物語。どんな人間も弱さを抱えて生きているが、ドストエフスキーはこの小説を通して、人間が持つ無意識の罪をあぶり出している。迫力あるスピーディーな展開で古典の堅苦しさがなく、推理小説感覚で読むことができる。